2-3

 男の声は力いっぱいハリーに訴えかける。耳を近づけないことにはわからないほどか細いものだった。

「この……シェルターに、ハイ……・ヴェルノという、男は……、いるか?」

 ハリーは興奮した。思わず大声で応えた。

「俺だ! 俺がハイリンだ!」と男の拳をぐっと力を込め、掴み握り締めた。男はハリーをじっと見つめた。安心したのか、最後の力を振り絞り彼は囁いた。

「探したぞ、荷物の中に、手紙がある。……を……受け取って……くれ!」

 静かに眼を閉じようとするとき、男は「ありがとう、はかせ」と呟いたようにハリーは聞いた。

「お、おい、しっかり、しっかり、おい!!」

 男の顔は満足そうな顔だった。男が最大の目的を果たせたのだと感じた。手向たむける言葉が見つからなかった。男の脈が止まったことがわかった。

 ハリーは愕然がくぜんとし肩を落とした

「おい、ハリー、おい!」

と、急に呼びかけられ我に返った。

「男は何を言ってたんだ?」

 隣に呆然と立ち尽くすサムが、気になった様子でハリーを見た。

「この人は、俺を探していた、ようだ」

「なんだって!?」

「それに、荷物の中にある『手紙』を、受け取っ……」

(手紙……)

 荷物を確かめるべくハリーは入り口へ向かう。サックの荷物を引っ掻き回し、茶色い封筒を取り出した。

 『アンソニー・ヴェルノ』というにじんだ文字があった。それは見るからに、みすぼらしくも必死になって書きつづった字だった。

(おやじ……)

 怒りと同時に嬉しくもあった。二十年間忘れられたのではないか、死んだのではないか、と思われた自分だったからだ。ハリーは読まずにはいられなかった。今、何をしているんだろうか、どこにいるのだろうか、本当に気象タワーには、たどり着けたのだろうか、疑問が次々と湧いて出た。

 手紙は、数枚に渡って事細かに書かれていた。利き腕ではない手で書いたのだろうか、所々読みづらく、理解に苦しむ文面もあった。紛れもなく人の心がある字だった。

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