4
「おお、そうだ、そうだ」
と、エルシェントはいいかけ、机の引き出しを開けた。珍しい紋様のはいった小箱を取り出す。
「忘れるところだった! アンソニー博士からの贈り物を渡さねば……」
「えっ、親父からの?」
小さな鍵で小箱をあけたエルシェントは中身を取り出す。奇妙な形をした銃をハリーに手渡した。
「『渡したいもの』というのはこの銃だ! これは博士が旅立つ前に、熱心に造っていたお前専用の武器だ!」
(俺、専用の?)
見るからに無骨な形をした奇妙な銃である。一般的な銃の形状は変わらない。ただ、銃口は拳ほどの大きさだったのだ。取っ手部分の後部にはセーフティガードとなるスイッチのような
ハリーは試しに、トリガーを引いてみた。反応はない。吸引口だろうか、幅三センチほどの穴が確認できる。発射するものもどうやら吸引口と関係がありそうだが、わからない。はたして本当に銃なのか。彼は、銃のエネルギーが金属の弾でないことはたしかなのでは、と考えたがどうみても奇妙さが
不安になり顔を引きつっている。
「変な形だね」
「こ、これって、本当に銃なんですか?」
「詳しいことは聞いていないが、博士が言うには『大人になったときに使える銃』ということだけだ!」
(大人になったときに使える銃?)
「他に何か聞いてますか?」
「そうだな、受け取るときに呟いていたのは『子供に持たせても意味がない』ぐらいだな!」
子供には危険すぎる、という意味なのだろうかとハリーは首をひねり、キャサリンと見合わせた。
「今のハリーならきっと使いこなせるわよね」
「父さん……」
銃を受け取ったことで、ハリーは遠征隊の出発にますます意欲を燃やしつつあった。
四日間の滞在はあっという間に終わる。最終日、ハリーが久しぶりに訪れたことで、ベータシェルターでほんのひと時の小さい宴会が開かれることになった。彼は、いっときの寛ぎを満喫する。集会のときにいた隊員の面々も顔を出し、キャサリン、エルシェントたちと談話した。だが、その中にウォルターの姿がなかった。
アルファシェルターから運んできた物資を食料配当管理者に渡す。ハリーはサックの中を軽くする。
キャサリンの出発の準備が整うと、エルシェントがシェルターの入り口付近まで見送りに来た。彼は、一瞬だが彼女の防寒着姿を寂しそうな眼差しで見つめた。
エルシェントの彼女に向ける視線がつらく感じた。数年間であるにせよ、一緒に親子同然で過ごしてきた彼には、この上ない寂しさを感じたに違いないだろうと、彼の気持ちに同調した。
「ハリー、一緒に鍛えて待ってろよ! 当日はお前のシェルターに迎えに行ってやる。久しぶりに兄さんにも逢いたいしな」
「それじゃ、義父さん行ってくるね。身体には気をつけてよ!」
「お前に心配されちゃ、オシマイだな」
冗談で返された言葉を、彼女は真顔で「本気で心配しているんだからね」と浮かべる。エルシェントとキャサリンが抱き合いながらも、心が通じ合っているのだな、とハリーは黙って見守った。
「ハリー、娘をよろしく頼むぞ!」
肩を叩かれ、
「はい!」
と、ハリーはエルシェントに力強く返事をした。
「そろそろ行こう、キャシー」
防寒具に身を包むと白銀の海原へと歩みを彼らは始めた。
凍てつく風は、やむことなくハリーたちを容赦なく襲った。
5へつづく
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