命題:パイナップルはプレゼントとなり得るか

 俺の家にゴリラが住み着いてから暫くが過ぎた。


「ただいま」


「おかえり」

 

 ちなみにこのゴリラが父と発覚してからも一悶着があり、結局俺はあのなんちゃら制空圏を破ることに成功した。わざわざ語る必要もないことだが。


 ともかく、今我が家では父さんの顔を持ったゴリラが居座り、日々バナナを消費している。

 なんで普通に帰宅の挨拶をしたんだろうな、俺。


「で、いつ森へ帰るんだ」


「我が森は伐採の憂き目にあった。群れももうバラバラだ」


「じゃあ新しい森を探せばいい」


 俺はコンビニで買って来た夕食を食べていた。

 ゴリラはバナナをもぐもぐと食っている。

 互いに足はこたつの中。しかしゴリラがかなり占領していた。

 デカいとは強い。改めてよくわかったよ。


「ところで、ゴリラ」


「父さんと呼べ」


「まだ認めてない。ところで……」


 反論を撥ね付け、話を続けようとする俺。

しかし、突如部屋に黒塗りのパイナップル手榴弾が投げ込まれた。


「!」


 処理する間もなく爆ぜる。

 轟音。

 閃光。

 我が家は吹き飛び、哀れゴリラと共に森暮らし。

 木々を傘にし、日々の食事に困窮する。

 そんな妄想が過る。


 が。

 

 目を開ければ家は無事。代わりにゴリラが丸まっていた。


「効くぅ……。ゴリラ活法・猩々制空圏(結)及び丸まり防御体勢の合わせ技は流石にキツいぞ……。我が家は、無事か?」


「…………」


 俺は頷くことしかできなかった。

 確かにゴリラは賢く強い。けど、大丈夫だろうか?

 だが、俺の心配は無慈悲にかき消される。


「あらぁ? 贈り物のパイナップル、一つじゃ足りませんでしたぁ?」


「お姉様。だからギャングを召喚して、銃弾をお届けした方が良い。って、言ったじゃないですかぁ」


「それじゃあ死んじゃうでしょぉ? 活かして連れ帰るの。そして……うふふ」


「むぅ……」


 家のドアが蹴破られ、派手なドレスに身を包んだ女性と少女が現れる。

 女性は優雅に、嫋やかに。

 少女は頬を膨らませつつもそれに寄り添い。

 美しい姉妹愛を窺わせる。姉妹じゃないけど。


「来たな……!」


 俺は立ち上がる。俺はこの女達の目的を知っている。

 そのドレスと美貌の下に、恐ろしいものを秘めていることも知っている。


「あらぁ? せっかくの贈り物にもご不満かしらぁ。私の愛が篭ってましたのにぃ」


「お姉様、やっぱりこの者はペットに相応しくありませんわ。斬り捨てて野晒しにしましょう」


「……。人の家を破壊しようとしといてその言い草。やはり俺は貴女達とは分かり合えそうにないし、共感も服従もできそうにない」


 俺はハンドガンを抜き、撃つ。磨き上げた技。二発。だが。


「お姉様。最後の警告です。この者はお姉様に仇成す者。不適格ですわ」


 少女の手から、弾丸が落ちる。

 ドレスに乱れ、一つとてなし。

 髪にも乱れ、一つとてなし。

 いつの間に割って入ったのか。俺には見えなかった。


「そぉ? 貴女もきっと気に入ると思ったのだけどぉ……。仕方ないわね。今日はこれまでに……」


「待て」


 よし、これで帰ってくれる。

 そう思った俺の背後から、声。

 ゴリラの、声。

 待ってくれ、頼む。事態をややこしくしないでくれ。


「我のすみかに爆発物を投げ込み、謝罪もなく去ろうとは……。不届き千万。バナナ泥棒と同じく、万死に値する」


 が、ダメッ……! やはりゴリラはキレていた。

 俺は身の危険を感じ、ゴリラに道を譲る。


「……ゴリラ・ゴリラ。貴方、こんなものを飼っていたんですの? ちょっと和解させてほしいのですけども……」


「お姉様っ……。このゴリラ完全にキレてますわよ……。私怖くて……!」


「あ、貴女は下がりなさい……。ゴリラ・ゴリラ。貴方の森に手榴弾を投げ込んだのは私よ。私が全ての責任を取ります。それに免じて、こ、この子だけは……ね?」


 二人は完全に腰が引けていた。

 しかしドレスを汚すことはない。

 それどころか女性は少女を庇い、震えながらもゴリラの前に立つ。


 その姿に、俺は。思わず。


、殴るのはやめてあげてくれないか?」


 あらゆる意味で決定的な一言を、放ってしまった……。

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