命題:食糧問題へのゴリラの対応を説明せよ

 繰り広げられる雑談。


「そうですか。お父様で……。同居と知らなかったとはいえ、爆破しようとして申し訳ありません」


「お姉様を止め切れず、誠に申し訳ありませんでした」


「否。私も冷静さを欠いていた。引き金が軽過ぎたのだ。済まない」


「いや、俺にとってはこの光景がですね…」


「お黙りなさい」


「お姉様の前でその反骨の口を開かないで!」


「息子よ。お前も謝罪するべきだ」


「だから認めてねえ!」


 俺です。ただ今コタツでは地獄の光景が繰り広げられています。

 俺か。俺が悪いのか。何故三対一なんだ。

 アレか? 先週拾い物の鮭に当たったからといって魚屋にゴリラをけしかけたからか?

 畜生、ゴリラじゃなくて銃弾でやっちまえばよかった。でも今はそういう問題じゃない。


「あ、お父様それポンです」


「お姉様。私のツモを飛ばさないでください」


「必要牌だから仕方あるまい。だがお姉様、その捨て牌はロンだ。18000」


「んなあ!? やはりゴリラ・ゴリラとは分かり合えないのでしょうか……」


 なぜ俺達はコタツで麻雀をしているのか。

 しかもゴリラが先程から一人勝ちしている。

 ああ、森の賢者か。賢者だから麻雀も強いのか。

 こうなったら今度先輩に連れ出されそうになった時、このゴリラも連れて行ってやる。そしてむしり取る。


「おい」


「ちょっとぉ?」


「反骨!」


 おや、何故か三者仲良くこっちを見ている。俺が一体何をしたってんだ?


「早く積みなさい」


「早く積むのよぉ」


「やはり仇成す者……。今ここで」


「……失礼しました」


 ヤマを作るのを忘れていた。とてもつらい。



 そんなこんなで突発麻雀は、徹夜寸前で少女が寝落ちして終わりを告げた。

 結局ゴリラは勝ちまくり、ウホウホと万札を数えている。


 俺は憂鬱だった。いくらこの居候ゴリラが勝ったとしても、家賃には当てられない。バナナに変換されてしまう。


 しかも買いに行くのは俺。もう絶対近所のスーパーでは顔を覚えられている。『バナナの人』とか呼ばれてる。

 ああ、行きたくない。いっそ一駅向こうまで旅に出ようか。

 でも面倒だ。結局こうやって近所になる。よくない。

つまりこうするしかない。


「オイ、ゴリラ」


 俺は銃を出す。この不倶戴天のゴリラを家から叩き出し、平穏を取り戻すのだ。


「どうした、息子よ」


 父の顔を持ったゴリラが、訝しげに俺を見る。


「今すぐ荷物を持って出て行け。その金があればどこかで宿もあるだろう。俺にはお前は養えない。毎日毎日バナナを大量に消費するゴリラは、到底な」


「……」


 ゴリラは悲しそうな顔をしていた。目尻が下がり、口元が歪んでいた。

 俺は、あの日のことを思い出した。父からの、キャッチボールの誘いを断った時のことだ。

 確かに、顔の色は変わった。でも顔の形は変わっていない。

 そういえばアレは。父が飛行機事故で消息を絶つ、数日前のことだったな……。


「……ゴリラ活法」


「使うなら使えよ。俺は引かない」


 俺は言う。ここで退けば、俺の生活は崩壊する。

 殴られようと、蹴られようと。俺は退けない。


 だが。


「ゴリラ活法・絶招。捨身群生身を捨ててでも群れを生かさん


「え?」


 ゴリラが、光る。

 まさか……と、思った時には既に光に視界を奪われていた。

 あまりの眩しさに目を閉じた。暫くの間、視界は闇に閉ざされる。

 そして。


「これで良いか?」


 変わらぬバリトンボイス。だが、目の前に巨体が居ない。

 見回す。

 そういえば、技の名前。不吉だった。


「どこだ! どこに居る?」


「ここだよ」


「ん。ん? えええええええええ!?」


 ようやく見つけたゴリラは、手乗りサイズになっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る