キャラクター作成
拓也のTRPGに付いての説明と、それぞれの昼食が終わり、一息ついたころだった。
ガラガラガラと教室の扉を開き、一人の女子生徒が入ってきた。
癖のない長い黒髪を後ろで結わえた、長身の女の子だ。
「あれ、みんなそろっちゃってたのか。ごめん、遅くなった」
女の子は謝罪と共に教室に入ると手じかな椅子に腰かけ、コンビニで買ってきたと思われる品をビニール袋ごと机の上に置いた。
「それで、この子は?」
女の子がちょうど私の目の前の席に座ると、そのまま目があい、見知らぬ相手に驚きの表情を浮かべる。
「新米冒険者で~す」
「あ、参加者見つかったんだ。なら、ごめん、急いで食べるわ」
私がTRPGの参加者だと分かると、女の子は軽く会釈をして、机に置いたビニール袋かコンビニ弁当を取り出して食べ始める。この人も同じ参加者なのだろうか? と言う事は、名前だけでていた「アリス」がこの人と言う事だろう。
「あ、そんな急がなくていいよ。まだキャラ作やってないから、柊さんがお昼食べている間に、そっち済ませておくから」
「OK、了解」
『あああああああああああ!』
アリス?と拓也が何かしらのやり取りをした時だった、唐突に一輝が大きな叫び声を上げる。
「OK、理解」
「またですか、またなんですか」
叫び声をあげた一輝を見て、アリス?とイリスの両方はそれがどういう事か理解したのか、呆れた様な声を上げる。拓也の方も、苦笑を浮かべるところを見ると、それがどういう事か理解してるようだった。
「事前キャラ作って言っておいたはずなんだけどなぁ……」
「参加者探すので忙しかったの! 今急いで作るから許して!」
何か謝罪の言葉を口にすると、一輝は鞄から筆箱とクリアファイルを取り出し、クリアファイルからA3サイズの紙を一枚取り出し、何かを記入し始める。
先ほどから、何がそう言う事か判らず、私は少し呆然としてしまう。
「えっと、キャラ作ってなんですか?」
助けを求め、私は先ほどいろいろ説明してくれた拓也に説明を求める。
「キャラ作っていうのは、キャラクター作成の略。TRPGに置いての自分の分身である、キャラクターを作る事。ちょっと待ってね」
拓也も鞄からプラシック製の表紙の大きなファイルを取り出すと、その中から一輝が今書き込んでいるものと全く同じの、A3サイズの紙を取り出し、私の目の前に置く。
「これ、キャラクターシート。これに、キャラクターのステータスや能力、容姿や設定なんかを書き込んでいくんだ。イラストを載せるスペースも一応あるから、気が向いたら書いてみてもいいから」
「イラスト……」
「イラスト」その言葉にすごく心が惹かれるけど、残念ながらそれを書く力なんて、もちろんなかった。
「それじゃあ、説明するから。キャラ作、やって行こうか」
「は、はい!」
自分のキャラクターを作る。その事への期待と、初めての事への緊張から上ずった声を上げてしまう。それを、拓也は軽く笑って流す。
「TRPGにもいくつか種類が有るんだけど、今回遊ぶのはごく一般的な中世ヨーロッパ風の剣と魔法のファンタジー物になる。森川さんが、読んでいた小説の世界観に近いかな、細かい部分とかは違うけど。
何となくでいいけど、想像できたかな?」
勢いよく、こくこくと頷き返事を返す。
「じゃあ、今からそんな世界観に登場するキャラクターを作ってもらいます。人間、エルフ、ドワーフ、獣人に戦士、魔法使い、神官、盗賊、何かやってみたいキャラクターのイメージって何かあるかな?」
「えっと、じゃあ、人間で……魔法剣士って出来ますか?」
恐る恐る希望を述べる。拓也の上げた選択肢にはなかったものであるけれど、もし、自分だけのキャラクターが作れるのなら、ずっと魔法剣士を作りたいと思っていた。
「魔法剣士か……うん、問題ないよ。それじゃあ、キャラシー、キャラクターシートの事ね、の種族ってところに人間、クラスのところにスペル・ソードって書いて――」
「あ、あの……」
「うん? 何かな?」
キャラ作の説明を続けていく拓也の話に割って入るように、口を開き、不安から口をもごもごさせる。
もし、自分だけの話が作れるのなら、ずっと形にしたものがあった。けど、それを口にしていいものか、躊躇ってしまった。
けど、もし叶うならしてみたい。もし、叶うなら、私の物語の主人公は、私でありたかった。
「異世界転生とか、異世界転移とか、そういった経緯を持つキャラクターって、作れますか?」
思い切って、私は、私の願いを口にしてみた。
私の言葉を聞いた拓也は驚きの表情を浮かべ、他の3人も同様の表情を浮かべていた。
「あ、ごめんなさい。今の話は忘れてください」
やっぱりまずかったと、私は先ほどの話を撤回させようとする。
「いや、大丈夫だよ。今回のゲームには世界と世界を渡る魔法や、異世界召喚を行う魔法なんかもあるから、望むなら、君のキャラクターは異世界からの漂流者という事は可能だよ。
そうか、そうだね。それは丁度いい。うん」
「じゃ、じゃあ、それでお願いします!」
私はほっと安堵の息を付く。高鳴った鼓動と、興奮で火照った身体が心地よかった。
ずっと、ずっと、胸に仕舞い込んでいたものが一つ、形になったようで嬉しかった。
そして、今、本当に、自分だけの物語が始まるんだと、そう強く実感し始めた。
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イリス「だいたいはサンプルキャラ使う。無いシステムもあるけど」
拓也からのメモの切れ端が投げられる。
有栖「えっと何々、この物語はフィクションであり、実際の初心者対応と異なる部分が含まれます……。フィクション、万能の言葉だね」
イリス「フィクションとか、ファンタジーっていえば、なんでも許されると思うとか、よくないと思う。ほとんどその通りだけど」
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