プリプレイ③「冒険の舞台」

 拓也と呼ばれた男子生徒と、それからあの女の子に連れられやって来たのは、学校の空き教室の一つだった。

 てか、私、何で付いて来たんだろう……。たぶんそれは、あの女の子が口にした「冒険」と言う言葉に引かれたからだろう。

 冒険、それは、私の中では異世界に行き、小説にある様な冒険をする。そういった意味で取れてしまった。よくよく考えれば、そんなフィクションみたいなこと、あり得るはずないのにね。

 私は小さくため息を付く。

 私の手には、契約書代わりと言う様に、先ほど拓也と呼ばれた男子生徒が、ひとっ走りしてコンビニで買ってきたサンドイッチが握られていた。ここまで来たら、もう引き返すなってことは出来ないよね……。


「新米冒険者様一名。ごあんな~い」


 抑揚の声でそう言いながら、女の子は空き教室の扉を開いた。その先にあった景色は――


 他の空き教室と殆ど変わらない、無機質な教室だった……。ちょっと、期待していただけに、肩透かしだ。


 けど、その教室はただ何もない空き教室と言うわけでは無かった。どこかの部活か同好会が使っているのか、どこからか持ち込まれた本棚や木製のラックが部屋の端に並び、部屋の中央には会議室の様に机と椅子が並べられていた。

 そして、その椅子の一つには、一人の女の子が座っていた。

 色素の薄い黄金色の髪に、青い瞳。それから、これまた色素の薄い白い肌。それはまるで、お伽話から抜け出してきたかのような、妖精の様に小さく可愛らしい女の子だった。


「あれ? イリスだけ? アリスは?」


 私を連れた女の子は、空き教室の中に居た女の子――イリスと言う名前らしい、に問いかけた。


「アリスはコンビニに、お昼買いに行った」

「あれ、俺、さっきコンビニに行ったけど、合わなかったぞ。入れ違いになったか?」

「違う。アリス、セブンに行った」

「ああ、それでか」

「なんでセブンに? ちょっと遠いじゃん」

「なんか、品ぞろえがどうとか言ってた」

「品揃えって……なんでまた」

「知らない。私、アリスじゃないし」


 拓也と女の子は、空き教室に入ると、空き教室に居た、浮世離れたした様な少女――イリスと、親しげに会話はじめてた。


「それより一輝いつき。それ、誰?」


 当り前と言うべきか、自然な流れで部屋の中に入っていった二人とは対照的に、どうしていいか判らず部屋の入り口に立ったままの私に、イリスは目を向け、尋ねてくる。


「ふふん。聞いて驚け! 新しい戦友だ!」


 尋ねられた女の子は、威張る様なポーズと共に私の方を示した。


「……たく。どう言う事?」

「いつもの一輝ってこと」

「納得」


 決めポーズをする女の子――一輝と言うらしい、に対しイリスは尋ねたのが間違いだったという様に、拓也に質問を飛ばし、拓也とのやり取りによって納得したらしかった。


「と言う事は、説明、してないの?」

「まぁ、ね……」

「拓、責任放棄、良くない」

「やっぱそうなるの……」


 拓也は一度ため息を付く。拓也とイリスのやり取りで、何か決まったようだった。


「えっと、ここは……なんなんですか?」


 質問をして良いのか分からず、たどたどしく私は尋ねる。


「ここは、僕達ゲームサークルが借りている空き教室。つまり、部室だね」

「ゲーム……サークル?」

「そう。ゲームサークル。そして、この部室が、僕達の部室で有ると同時に、僕達の冒険の舞台ってわけだ」

「冒険の舞台……?」


 そう言われ、私は改めて空き教室の中を見渡す。

 やはり、先ほど見た時と変わらず、何の変哲もない部屋だ。冒険を連想させるものなど、どこにもありはしなかった。


月城つきしろさん、あれ、出してくれる」

「む、ちょっと待って」


 拓也に言われ、イリスはぴょんと椅子から飛び降り、部屋の端から何か大きなものを取り出してくる。


「拓也。手伝って」

「あ、ごめん」


 そして、イリスと拓也が取り出してきたものは、大小さまざまな箱庭だった。

 ジオラマと言うのだろうか、小さな模型で木々や森、廃墟、石畳、石壁さまざまなものが作られ、揃えぞれがパズルのピースの様に分かれ、組み合わさっていた。


「TRPG。この一つ一つの模型を組み合わせて、無限の言葉で話を作り、無限の世界を作る。そう、この部屋には、無限の冒険の舞台が有る。だから、ここが僕達の冒険の世界って訳」

「冒険の舞台……」


 目の前に並べられた模型たち。ディティイルは細かいが、それでも模型だ。本物ではない。けれど、その木々、廃墟、石畳はそれが本物であるかのような臭いを漂わせ、拓也の口にした「冒険の舞台」という言葉を現実のものの様に思わせた。


 ドクン、ドクン。少しずつ、少しずつ鼓動が高鳴る。


「冒険の舞台……」


 胸に手を当て、私は再びそう呟いた。


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一輝「拓也、臭い、臭すぎるよ。今のセリフ」

イリス「うん、悪い方で鳥肌が立った」

拓也「///……良いだろ! その場の勢いってものがあったんだ。許してくれよ~」

一輝「やっだ~♪ 良いネタゲット」

イリス「む。私の聞かれたのが運のつき」

拓也「この天邪鬼どもめ……マジ、勘弁」

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