34話 義経&ことねVSイザク

魔力調整から1週間が経ち、ある程度魔力の力加減をできるようになった2人は。



「あぁあああああああッ!また黒焦げじゃねぇかよッ!この卵不良品なんじゃねぇのか?」



「不良品の卵って何?そもそも俺なんて卵に魔力を注ぐと何故か中身が消えるんだよね……。」



……然程成長がみられないようだ。


そんな2人を見かねたのかイザクが「魔力の質量調整について、以前僕が言ったこと覚えてる?」と聞かれると、義経は少し悩みながら「おう、魔力の注ぐ加減は気合いだ。」と答えると、イザクは「うん、全然違うね。そもそも魔法に限らず、戦闘において近接戦でもそうだけど、頭の中でイメージして戦うのも一つの手。相手の動きをよく見て、敵の行動パターンを把握した上で。最後に敵の頭にヘッドショットをかます。これを瞬時にできたら上出来と言ってもいいよー。」と笑うと「まあ、魔法と近接戦じゃあ話は違うんだけど、つまり僕が言いたいのは、魔力調整は電子レンジと同じなんだよー。」と言った。



「は?電子レンジ……あ、イメージってことはW《ワット》数か!てことは俺らは電子レンジ本体で魔力は粒子とする。その細かい粒子たちが振動でぶつかり合って食べ物は温まるわけ、W《ワット》数が高ければ高いほど早く温まるが、焦げたり破裂したりするから、なるほど。卵、電子レンジ、何W《ワット》でググればいいんだな!俺ってば天才!」


イザクのヒントのおかげで、やっと気づけた義経は早速ネットで調べて、そして卵に魔力を注ぎ始めた。

ことねも真似るように魔力を注ぎ込むと、卵に少し重みを感じたところで、魔力を注ぎ込むのをやめた。

そして中身を割ってみると、見事な半熟卵へと変わっていた。


義経はガッツポーズをとると「うっしゃああああああああッ!見たか、これが俺の実力じゃああああああああああッ!!」と喜びの雄叫びを上げていた。

ことねも同様に半熟卵を完成させると嬉しそうに「なんか心なしか自分自身が強くなった気がする。これで訓練も終わりってことだね。」と地獄から解放された喜びを噛み締めているのも束の間、イザクは「おめでとー、それじゃあ次は僕との戦闘戦だね。手加減はしないから死ぬ気で覚悟してねー。」と言った。


すると今まで黙っていたイグニスが「イザク、こんな奴らのために力を使う必要はないだろ。その辺の魔物を適当に狩らせておけばいいんだよ!こんなアホども!」と言うが、イザクは「魔物なんて狩っても鍛錬の修行にもならないよー、それに彼には本当の恐怖という絶望を味わせないと意味がないでしょ。」と口角を上げた。


楽しそうに話すイザクを見て、イグニスはフッと笑うと「好きにしなさい。」と一言言った。



そしてイザクは、準備運動をしている2人の前に立つと「じゃあ、今からルール説明をするねー。ルールは至ってシンプル、僕から1時間逃げれば勝ち。逃げるのに30分設けるから好きな場所に逃げても構わないよ。勿論、瞬間移動テレポートでどこの世界に逃げてもオッケーだよー、例えば日本の裏側ブラジルに逃げたって大丈夫。ただし、僕に見つかったら死ぬ気で逃げるか、本気で殺すつもりでやらないと痛い目見るから気をつけてねー。もし勝ち目がない場合はギブアップって言えば、負けにはなるけど勝負はそこで終わりって感じかなー。ここまでで何か質問はあるー?」と聞くと、義経が「もし勝負に勝ったら何かご褒美はあるのか?」というと、ことねが小声で、がめついな。と呟いた。

そしてイザクは「そうだね、僕のできる範囲なら可能だよー、お金だったり、好きな物でも食べ物でも何でも大丈夫だよー。勿論、僕を奴隷にするのだって可能だよ。」と嬉しそうに口を緩ませた。



「その言葉に嘘はないんだな?」



義経がそう訊くと、イザクは頷きながら「この程度くらいで嘘はつかないよ。」というと、イグニスはやけに気合を入れながら「その勝負、私も参加しようじゃないか。」と自信に満ちた表情を見せるが、イザクは「別にいいけど、イグ兄は僕を戦闘不能になるまでボコボコにできるの?」と首を傾げながら話すと、イグニスはうっと苦しい表情を見せながら後退りするが、イザクはイグニスの右手を自分の頬に当てながら「試しにその手で僕の頬を傷つけてみてよ。イグ兄は僕が欲しいんでしょう?」というと、イグニスは顔を背けながら「そんな外道なこと私にできるはずがないだろ、これが貴様ら2人だったら容赦しなかったのにクソッ!今回は辞退させてもらう。」と悔しそうにしているイグニスは見た義経は「いや、最後らへん余計なこと言ってんじゃねぇよ。てかイザクの野郎、知っててわざとやってんだろ。」と呆れている。



「それもそうだけど、もし俺の弟がイザクみたいな性格だったらイグニスさんが溺愛するのもわからなくはないかな。まぁ、俺の弟は昔は可愛かったよ昔は。」



ことねがそういうと、義経はイマイチ理解できないのか「俺は末っ子だからお前の気持ちがわからん(前世でも1人っ子だったしな)それに頼朝とかいうブラコンのせいでノイローゼ気味だけどな。イザクも似たようなものなのにスゲェーよ。」とイザクの性格を褒めた。




そして仕切り直しにイザクが「それじゃあ、僕と1対2での勝負を始めようか。30分以内に好きな場所に逃げること、それから2人で協力するのもよし、別行動で逃げるもよしだよー。僕に見つかったら、そのときは容赦しないから覚悟しててねー。勿論、無理だと思ったらギブアップって一言言えば負けにはなるけど、それ以上は痛めつけないから安心して戦っても大丈夫だよ。まあ、僕に見つかった時点でギブアップって言うのがオススメだけど。」と口を緩ませた。


2人はイザクの自信に満ちた表情を見て、少し不安になりつつも魔力のないイザクがどう戦うか少し興味もあった。


義経は再度確認するように、逃げる場所に制限はないんだよな。とイザクに訊くと、イザクはうん、ないよー。と軽く頷きながら返事を返した。


「それじゃあ、ことねは俺と一緒に行動するかどうかだけど、どっちにする?」


義経がそう訊くと、ことねは即答で一緒に行動する!と返事をした。


義経はことねと2人で行動するのが決まると、ことねの手を握り「んじゃあ、軽く旅行がてら飛びますかー。瞬間移動テレポートするけど、絶対に俺の手を離すなよ。」と、ことねにいうと、ことねは義経の腕をがっしり掴まった。


「ねぇ、義経。瞬間移動テレポートって酔わないよね?」


「あ?んなもん酔うわけないだろ。ただ身体がフワッとなるだけだ、それに俺は天才魔法剣士の使い手。ヒーローネームはマジックソード、いや普通にダセェな。ダークウィング、ダークダスト。いや、ゴミのつくヒーローネームは嫌だなー。」


「そんなもの、どうでもいいから早く行こうよ!」


「よくねぇよ!ヒーローネームがどれだけ大事か、わかってねぇな。あ、これちなみにカウント始まってる?」


義経がイザクにそう訊くと、イザクは頷きながら「うん、今の会話でもう2分は経ってるけど、凄く余裕そうだねー。」とすでにカウントダウンは始まっていた。

義経たちは慌てるように「まじか、ことね急ぐぞ!」と言いながら瞬間移動テレポートを使うと、ことねは呆れるように「時間ロスだよー!!」と嘆きながら、どこかへ瞬間移動テレポートするのであった。



そんな慌ただしい2人を見送りながらイザクは、時間になるまでゲームをしつつ。

イグニスに「義経と一緒にいると、毎日が退屈しなくて凄く楽しいよー。」と話すイザクに「新しい玩具を見つけたような言い草だな。少しは私も構ってくれても構わないんだぞ。」というと、イザクは目を細めながら「もしかしてイグ兄、妬いてるのー?」と笑った。


「当たり前だ。ここ何年とイザクに構えなかった分もあるが、その間カル様と芽依様を推しつつ心を補充できたから何の問題もない!ま、こんな私に気にかける物好きもいたから寂しさはさほどなかった。」


そんなイグニスの変化にイザクは少し嬉しそうになら良かった。と言いながらゲームの画面を見ていると「あ、重課金者発見だー!どんな素材が手に入るかなー。」と嬉しそうにPK(プレイヤーキラーの略称)し始めるのであった。



************



瞬間移動テレポートをした、義経とことねは現在、九州に位置する佐賀県へと来ていたのであった。


「ねぇ、義経。なんで佐賀県にしようと思ったわけ?」


ことねがそう訊くと、義経は素直に「何もない県だから。てか、それ以外に理由あるか?」と聞き返した。


「それ佐賀県民の人に失礼すぎるよ!佐賀にも観光スポットはあるよ、例えば温泉とかどんぐり村とか色々あるでしょう。」


「佐賀って温泉が有名なのか?ま、草津温泉や銀山温泉に劣ってそうだけどな。」


義経は屁理屈をいうと、ことねが「じゃあ、この戦いが終わったら温泉にでもどうよ。それで温泉が最高だったら佐賀県民の人に謝るんだよ。」と提案をした。


「いいぜ。ただしことね、お前の奢りってことならその提案にのってやるよ。」


「義経、仮にも俺は年上だよ。敬意ってものはないの?」


「んなもん、ないに決まってるだろ。」


義経がそういうと、ことねは呆れた様子で、だよねー。と一言返した。


「とりあえず、いつでも戦闘になっても大丈夫な場所に移動しよう。ここで戦闘にでもなったら迷惑どころの話じゃなくなるからね。」



ことねがそういうと、義経も同調するように「それもそうだな。ひとまずここから近くて広い場所に移るか。」と言いながらスマホを取り出すと、広い場所を探すため調べながら移動することにした。


ネットの情報で唐津湾沿いに着いた2人は、イザクとの戦闘準備のため。

身体をほぐしながら待機していると、どこからともなくイザクが現れた。



「……開始1分前に来るとはチート過ぎるだろ。まさか俺らのことゴースティングしてたとかないよな?」


義経はイザクのあまりの速さに驚きながら、イザクにそう言うと、イザクはクスッと笑いながら「ちょっと近いかもねー、それじゃあ遠慮なく潰しに行くから、少しだけ痛いのは我慢しててよねー。」というと、一瞬で地面に消えると、少し離れた場所にいる、ことねの背後にイザクが現れた。


「ことね、後ろだッ!」


義経がそう叫ぶ間もなく、イザクはことねの首を狙うが間一髪で首の後ろに結界を張った。


イザクは嬉しそうに「やるねー、でも後ろばかり気を取られていると危ないよ。」と話すイザクに、ことねは一瞬の気を取られると、目の前に現れた蛇が、ことねの首元に噛みついた。


ことねは自分の首元に鋭い牙が食い込まれそうな恐怖のあまり、勢いよく大声で「ギブギブギブー無理無理無理、これ以上戦うとか無理すぎるうぅぅぅぅ!!」と泣きながら訴えると、蛇はことねから離れ、イザクの身体へと戻っていった。


「蛇を使うなんて卑怯だろうが!」


義経がイザクにそう言うと、イザクは首を傾げながら「僕たち兄弟は5人で1人、何の問題もないはずだよー。でも義経との勝負は僕1人で相手してあげるよ。」と言った。



義経はニッと笑うと、初めからそうしろよ。と返した。

緩やかな波音と、青空を舞いながら鳴く大鴎の群れの下。

イザクは楽しそうに話しかけると「それじゃあ、先行は義経からでいいよー。勿論、僕から先行でもいいけど、すぐには終わらせたくないでしょー?」と挑発的な態度を取るが、義経は怒りを抑えながら「あんまり人をおちょくるなよ。じゃあ、お言葉に甘えて遠慮なく行かせてもらう。」というと同時に、鞘から刀を抜くと、素早くイザクの背後に回り込み、そのまま首を狙った。

その刹那、目の前にいたイザクは一瞬で蛇の姿に戻ると、地面に消えたかと思えば。

いつの間にか義経の背後をとると、そのまま人間の姿になり。

義経の脇腹を強く蹴り飛ばしたのであった。


イザクの蹴りを喰らった義経は、強く壁に打ち付けられ、フラフラによろめきながらも立ち上がった。


「ああああああああああッ!!!クッソ痛えんだよ!!ボゲがッ!!!」


あまりの痛さにキレながら脇腹を抑えると、義経はそのままイザクに向けて、暗黒物質ダーク・マターを最大限に解き放った。


イザクは義経の暗黒物質ダーク・マターを避けることなく攻撃を喰らい。

大きな大爆発とともに強い突風で視界を奪われた義経は一瞬目を閉じてしまうと、耳元から「僕に魔力は効かないよー。」と楽しそうに話すイザクに気を取られてしまった。


義経は慌てて振り返るが、そこにはイザクの姿はなく。下だよ下。と言われるがままに地面に視線を落としたその刹那。


「グハッ!!」


イザクは義経の首元を絞めながら「敵に隙を見せちゃダメでしょー。」と、狩りを楽しむ蛇そのものだった。

一瞬の出来事にパニックになりながらも義経はイザクの腕を掴みながら抵抗を試みるが、その抵抗も虚しく、イザクにはなんの効果も効かなかった。


「蛇っていう生き物はさぁ、獲物を締め殺してから丸呑みするものと、生きたまま丸呑みするもの。この2種類のやり方で狩るみたいだけど、何故、蛇は締め殺さずに丸呑みするかわかる?

殺す必要のない弱い生き物だからだよ。」


イザクはそう言いながら義経の首元を離すと「最初っからこの勝負は勝敗が決まってたんだよ。言わば出来レースと同じで、義経たちに勝ち目はなかったんだ。だって僕は魔力も物理も効かないからね。だけど僕にも弱点はあるよー。それは僕よりも強い、呪力の持ち主だけ。まあ、この世界にはいないんだけどねー。」と話終わると、義経は首元を押さえながらイザクを睨みつけると「勝てないって知ってたら最初っから挑むわけねぇだろ!!俺を殺す気かボケッ!!」と怒鳴った。



「僕は義経を殺したりしないよー。それに最初に言っちゃったら僕と遊んでくれないでしょー。」


義経は力が抜け落ちると「俺たちはイザクの玩具じゃねえんだよ……あー疲れた、風呂入りてえー!」と横たわりながら海辺を眺めていると、イザクがひょっこり顔だし。



「せっかくだから温泉に入って帰ろー。僕、フルーツ牛乳飲んでみたいんだよねー。」


「お、いいね!俺はコーヒー牛乳が飲みたいぜ。」



そして3人は、評判のいい椎原山荘という温泉に浸かりながら、東京に帰ることにしたのであった。



「そう言えば2人は勿論、お金持ってるよね?」



「僕は現金どころかカード類もバーコード決済も持ってないよー。蛇だからね。」


「え、蛇関係ないよね。義経は勿論持ってるでしょ?」


「ワッサイビータン、なぁちゅけーんいちくぃみそーれー。(すみません、もう一度言ってください。)」


「え、なんて?急な方言とか分かんないから標準語で喋ってよ!それよりもお金はあるの?」


「わんねー、じんねーらんどー(俺は、お金持ってないよ。)」


「え、だから標準語で!」


「フラー(バカ)」


「何言ってるか分からないけど、その言葉は俺に対してバカにした言葉でしょ!」


「正解!もっと沖縄弁勉強しろよなー。ちなみに俺、一文無しやから温泉代、宜しゅう頼みますわ。ま、金がなくてもなんくるないさ。」



「はぁあああああああああッ!!なんで金ないんだよッ!!」



ことねがそう云うと2人は、ことねに手を合わせてお辞儀をすると、ごっつあんです。とお礼をした。


「これ俺だけが損してるじゃん!何もいい事なんてないじゃん!!」


「大丈夫、風呂上がりのフルーツ牛乳は格別だよー。」


「それも俺が払うんでしょ!マイナスだよッ!!」


「でも、ことねのおかげで経済は回ってるんだぜ。良かったな!」


「そうだね、人のお金で飲むフルーツ牛乳は格別美味しいよねー。」


「お前ら、マジでいい加減にしてくれえぇぇぇ!!!」


こうして3人の勝負は幕を閉じるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イーヴル×デッド 斉宮二兎 @itukinito

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ