14話 マスク男の正体




俺たちは鍛冶屋に行く前に、先ずは朝食も済ませていない事から、近くの定食屋へと足を運んだ。



お店の中は、外見と同じく質素な作りだが、派手すぎず落ち着いてて逆にいい。

俺たちは店員の案内で座敷に案内され、全員が注文を終えると、このマスク男の素性を聞くことにした。



「で、お前の名前と誰に追われているのかを50文字以内で言え。」



長い話は嫌いだからな。50文字あれば余裕で話せるだろう。



俺がそう言うと、男は慌てながら、50文字じゃあ足りないよ!と言いながらマスクを外した。



マスクを外した男の姿は、目立つような水色の髪に、ムカつくが綺麗な赤い瞳をしたエルフだ。

まあ、エルフなだけあってイケメンなのが凄く腹立つ。



「あの、真面目な話…僕一度殺されかけたんです。僕の熱狂的なファンに!」



男はそう言うと、黙っていた星宮が、熱狂的なファンですか?と訊くと、男は軽く頷き、また話を続けた。



「僕らの本業は冒険者でアルストロメリアというギルド名とアイドル活動を4人でやってるんですよ。僕はそのグループの1人、ことねという名前でやってて、明後日行われる魔物討伐戦に出場する予定だったんだけど…メンバーの体調不良はまだ許せるが、日にちを間違える馬鹿と何故かシカゴと間違える馬鹿が現れて、結局大阪に来たのは僕1人だけ、もう最悪だよおおおおお……しかもファンの人に、どこから情報が漏れたのか知らないけど、僕の泊まっていたホテルまで押し寄せて片手にナイフ持った女がガチで殺しに来て…もう僕、女性不信になりそう……。」



あぁー…ご愁傷様。

メソメソ泣いていることねに、周は手を握りしめながら「今まで頑張ったね。でももう安心して、ことねくんはアタシが全力で守ってあげるから。」と、ニコッと笑って見せた。

そんな周の優しさに、ことねは、え、好き。と一言いった。



なんていうか、ことねって単純で馬鹿そう。



というより冒険者とアイドルって……今の時代変わったな。

歌って踊れてそして戦えるアイドルか。

正直冒険者になる意味なくね?



そして向かいに座る沖田が「アルメリね。名前だけは聞いたことあるけど、君たちのレベルならアイドルだけでもやっていけるのに、どうしてまた魔物討伐戦という命を落としかねない大会に参加しようと思ったわけ?」と、ことねに訊くと、ことねはお茶を一口飲むと、実はと言い。



「僕のメンバーの中にビスという予知能力者がいて、彼の予知夢は100%必ずあたるんです。そして彼の能力は赤、黄色、黒と3種類の能力が見れて、今回の色は黄色。つまり死を回避できる警告。その予知の内容が、明後日行われる討伐戦に、殺人ギルドのアントたちが紛れ込み人を殺すという予知だったそうです。」


周は首元にあるネックレスを触りながら「アントの集団なら5年前にアネットさんが壊滅させたはず……待って…ことねくん。その話、詳しく聞かせてくれる?」と、急に真面目な顔つきになった。ことねは震える手を抑えながら、わかりました。と返事を返すと、アントについて詳しく話し始めた。



「まず、アントという組織が何者なのか説明した方がいいかな。知っている人も多いはずだと思うけど、アントは元々は暗殺組織アサシン ギルドとして悪名高かった。過去にある村を一夜にして全滅させたのが事の始まりだとか。

そしてその後も貴族や政府の暗殺。中には子供や老人など無差別に殺害。

そのやり方の手口は残忍で極悪な殺し方だったそうです。

ですが、さっきも彩里ちゃんが仰っていた通り、白ノ帝国によって幕は閉じられたというのは、表の話で……あの、すいません。少しお手洗いに…」



ことねが話を中断させてトイレに行こうとしたが、カチャッとことねの頭に銃口を突きつける周の姿があった。



周はゆっくりと口を開くと「ことねくん。随分とアントに詳しいんだね。何処でその情報を手に入れたか教えてくれるかな?」と、笑いながら言うが、周の目は笑ってはいなかった。



そんな周の質問に、ことねは肩を震えさせながら小さく答えた。



「あの、この話はビスから聞いた話で僕も正直、アントの存在には詳しくないんです。だから……」



ことねが話を続けようとした時に、周は、嘘、だよね。とことねを真っ直ぐ見つめながら言った。

ことねは、周の言った言葉に少しビクッと肩を上げると、そのまま目線を下へと向けた。


かなり怯えていることねに、周は優しくことねの手を包むと「安心して、奴等には監視されないように、この不思議なネックレスで妨害してあるから大丈夫だよ。だから本当の事を教えて。」と、優しく微笑んだ。



俺は少し疑問に思いながらも「そのネックレス本当に効果あるの?」と、周に聞くと、周は目をキラキラ輝かせながら「勿論だよ!あたしの部下の樺憐かれんちゃんっていう子のお友達が、不思議な骨董品店なんだけど、効果が凄くて前に一度だけ試したんだ。」と、かなり信用しているみたいだ。



その話を聞いていたことねは、お願い…助けて……と、震える声で喋ると、周の両腕を強く掴む勢いで「お願い!このままじゃ俺もビスもアイツに殺される!!お願いッ!助けてください……。」と、最後は弱々しく涙を流しながら俺たちに助けを求めた。



ことねの様子から、ただ事じゃない事態に察した俺たちはまず、ことねに今までの経緯を話してもらうことにした。




「あれは、2間前のまだ俺とビスがアントに捕まる前の話になります。俺たちが居酒屋で飲んでいた時のこと……。」




***********




奈良県奈良市に位置する。一角の居酒屋に酒を嗜みながら話す、若い男の2人が話し合っていた。



「ビス、今日はアイスホーネットの駆除で疲れているんだから。話なら手短に頼むよ。」



ことねはそう言うと、ジョッキに入ったコークハイを飲み終え唐揚げをひとつまみした。



ビスは少し困ったように笑うと「うん、そうだね。ことねには僕の能力のことを知っているよね?」と、ことねに聞くと。

うん、予知夢でしょ?と聞き返すと、ビスはゆっくりと頷き。

いつにもなく真剣な顔つきで「そのことなんだけど、3日前にある夢を見たんだ。その内容が今度開催される魔物討伐戦、モンスター・ハンティングがあるでしょ。そこで多くの人が大量に殺される……。」と強張った表情で話すビスに対し、ことねは、何かの冗談だよね?と訊き返した。


ビスは少し荒げた声で「冗談で僕がこんな嘘言うと思う!!一刻も早く白ノ帝国に事の情報を説明して、討伐戦を中止しないと大変な事になる!」と言いながら立ち上がると、背後に立っていた男性にぶつかり、ビスが謝ろうと後ろを振り向くと、ガタイのいいイカツイ男性が立っており、右眼には大きな傷があるいかにも怖い人がビスを睨んでいた。


ビスが恐怖で怯えていると、男性が「兄ちゃんたち、随分と楽しい会話してるんじゃないの。俺も一緒に混ぜてよ。」と言いながらビスの肩に腕を回す。

ビスはビクビク怯えながら「いや…僕たちは……。」と、ことねの方に視線をやると、ことねの両脇に男の仲間と思わしき人物が、ことねに絡んでいた。


ビスは心の中で(どうして僕たちがこんな目に合わないといけないの?この人たちは一体何者?それに周りの人たちは憲兵を呼ぶどころか助けてもくれない……。)と不安で声も出ないでいると男が「ここじゃあ、あれだし。別の場所で飲み直そうか。」と言うと、ことねが「ぼ、ぼ、僕たち…こ、この後打ち合わせがありまして……。」と言ったところで隣に座る男が「兄ちゃんたちよ、兄貴の誘いを断るっていうのか?」と言うと、ことねは身体ビグつかせながら「い、いえぇ……そんなつもりはないです…はい。」と涙目になりながら返事を返した。



そしてビスとことねは男に捕まれながら、居酒屋を出て行くと、店の外に駐めてある車に連れ込まれ、何処かへと移動し始めた。

ことねは移動している際。心の中で母親に最後のメッセージを送っていた(拝啓母上様。僕の生きたこの短い命。それも今日で終わりを迎えそうです。ほらだって、かーちゃん見てみ。俺の隣に座るいかにも蛮族そうなハゲと運転をしているゴリラ。そして蛮族のリーダーであろうザ・ボスって感じの人たちだよ?俺の人生終わりじゃね。最後に僕の願いが叶うなら、ナイスバディな美人とめちゃくちゃセックスして童貞を捨てたかった。ことねより。)というくだらない心のメッセージを送っているうちに、男たちのアジトに着き。

ビスとことねは男たちに乱暴に降ろされながら、奥の部屋へと連れて行かれる。


最初にビスに絡んできた男が部屋の前に立ち止まると、数回ノックをし「綾燕りょうえんさん。ただいま戻りました。」と言うと、部屋の中から、どうぞ。と男の声がすると男はビスとことねを部屋の中へと通した。


部屋の中に入ると、袴を着た物腰の良さそうな男性が座っていた。


ビスとことねがビクビク怯えていると、綾燕と呼ばれた男が「立っているのも疲れるだろ?ソファーに座りながらゆっくりと話そうじゃないか。」と優しい声で話す綾燕にビスとことねは従うようにソファーに腰をかけた。

2人が座るのを確認すると綾燕は「単刀直入に言うが、君たちは僕の愛する人を誘き寄せる。言わば人質エサになってもらう。何故君たちを選んだかというと、君。」綾燕はそう言うと、ビスの方を指差した。


「君、噂では予知能力が使えるそうじゃないか。そこで君の家系を色々と調べさせてもらったが、どうやらその能力。相手にも見せられるみたいじゃないか。」


綾燕がそう言うと、ことねが驚いた顔でビスに話しかけようとしたが、ビスは下を俯きながら酷く震えていて、とても話しかけられる状態ではなかった。

そしてビスは一呼吸置くと顔を上げ綾燕に能力の説明をし始めた。


「確かに僕の家系は相手に予知夢を見せることができます。ただ、その能力は決して使うなと先祖代々から言われてきました。もしこの能力を使ってしまえば、見せらた人は4年以内に必ず死が訪れるからです。だから僕はこの能力は使いたくはありません。」


ビスは震える手を必死に押さえつけながら、綾燕に能力のリスクを説明すると、綾燕は驚くどころか嬉しそうな顔で「それはそれで凄くいい。もし死んだとしても彩葉いろはの死体を剥製にして僕が死ぬまで永遠に側に居続けるのもアリだよね。」とうっとりする綾燕にビスもことねも言葉を失った。


そんな異常とまで云える歪んだ愛に対してビスは重い口を開いた。


「すいません。掟を破るわけにはいかないので、この話はなかった事にしませんか。」


ビスがそう言うと、綾燕はニコニコ笑いながら「別に僕は構わないよ。ただ、君が能力を使わないというなら、君の友達が苦しむだけだよ。こんな感じにね。」



綾燕がそう言うと、ことねの顔色が徐々に蒼白くなり、胸を押さえながら苦しみ始めた。

その様子にビスはパニックになりながらも綾燕に「待って!分かりました!分かりましたから!ことねを苦しめるのはやめて下さい!」と言いながらことねの身体を支えた。

ビスはことねに、大丈夫?と心配すると、ことねはゆっくりと2回ほど頷きながら、大丈夫。と返事を返した。


綾燕は和かに笑うと「じゃあ早速だけどビスくん。この人に君と同じ予知夢を見せてあげて。勿論、夢の中に僕が出てくるのが重要だから、そこもよろしく。」と言うとビスに1枚の写真を見せた。

ビスとことねはその写真を見て更に驚いた。


「この人って……確か白ノ帝国の…。」


ビスがそう言うと綾燕は「そう。僕の最愛の妻。彩葉だよ。あ、でも今は周彩里って名前なんだっけ。まあ、今はまだ白ノ帝国だけど、いずれは夫である僕の元に戻って来るよ。必ずね。」と写真に写る周を愛おしそうに見つめる。


ビスは大きく深呼吸すると綾燕に「では、明日にでもその人に能力を使いたいと思います。」とビスが言うと、綾燕は今だよ。と言った。

ビスが、え?と訊き返すと「僕はね。1分1秒でも早く彩葉に会いたいんだ。この3年間どれだけ僕が我慢してきたか君にはわかる?」と綾燕が言うと、ビスは少し沈黙した後に、分かりました。と返事を返した。


ことねは心配そうにビスを見つめると「ごめん、ことねまで巻き込んじゃって。でも僕のことなら大丈夫だよ。」と無理に笑うビスだが、手が震えているのを、ことねは見逃さなかった。


ことねは「ビス大丈夫だよ。僕が付いているから。」と笑いながら勇気づけると、ビスの口は軽く緩み。ありがとう。とお礼を言った。


「おい、もやし野郎。別の部屋に案内するからついて来い。」


顔に傷のある男がそう言うと、ビスは立ち上がり。

ことねは、僕もですか?と訊くと、男は、お前はここに残ってろ。と言うと、ビスを連れて部屋を出て行った。

残されたことねは綾燕と2人っきりになってしまい。

恐怖心からか綾燕と顔を合わせないように黙りこくっていると、綾燕がことねに話しかけ始めた。


「君は確か、ことねくんだったかな。少し時間もある事だし。僕たちアントの話でもしようか。」


と言うと綾燕は嬉しそうに過去の話を軽くしそして「さて、そろそろ時間かな。君には大切な役目を頼むよ。彩葉を連れ戻す重要な役目をね。もし逃げたり裏切るような事があるなら、君の大切な友達がどうなるか、わかるよね?」とにっこり笑った。


ことねは、ギュッと拳を握りしめ。

綾燕に顔を向けると「はい。必ず彩葉さんを連れて帰ってきます。ですから約束してください。ビスを傷つけたり殺したりしないという約束を。」ことねは強い眼差しで綾燕に言うと綾燕は、君が裏切らなければね。と笑って言った。


ことねは「分かりました。約束守ってくださいね。」と言うと部屋を出ようとしたところで「ことねくん、一つ忠告しておくよ。僕には不思議な能力がいくつかあって、君の行動を第3の眼で視る事ができるんだよ。」と言うと綾燕の額にもう一つの眼が現れた。

その眼を見たことねは、目を丸くし驚いていると綾燕は「だから変な行動はとらない方が身のためだよ。」と言った。


ことねは背を向け、部屋を出ると急いで外へと出て行った。


(何だよあの化物!アントの集団がヤバい奴らだって知ってたけど、あんなの聞いてないよ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない!……でもここでグズグスしている場合じゃない。その彩葉っていう人を見つけて綾燕っていう奴に引き渡せば俺もビスも助かる。そうと決まれば向かうは大阪だな。ビス、待ってて。必ず助けてやるから!)


ことねは急いで駅の方へ向かうと、最後の終電。大阪行きへと乗り込み。大阪へと向かった。




****************



ことねは全てを話し終わると周の方に顔を向け「彩里ちゃん。貴女がアントのボス。綾燕の妻って本当の話なの?」と周に訊いた。


周りにいるみんなも黙って周の方を見ると、周は一呼吸すると「本当はアネット大将たち以外には死ぬまで話すつもりはなかったんだよね。叶うなら忘れたい。思い出したくない。でもあの男が生きている限り逃げる事なんてできないんだよね。……綾燕は確かにアタシの夫であり、あの男との間に子供もいたよ。でもそれは同意の上ではなく、あの男に支配されて無理やり結婚をさせられ、子供を作らされたの。あの男がどれほど最悪な人間か、お話しするね。」と真剣な眼差しで話した。


俺は周に「思い出したくないなら無理に話さなくてもいいんじゃない。」と言うと星宮も「そうですよ。誰にでも話したくないことなんて一つや二つありますし。」と同調してくれた。


てか周って若いのに子供いたんだ。

俺てっきり10代の少女かと思ったけど、一体何歳なんだろう?

それよりも同意の結婚じゃない上に無理やり作らされたのなら……あれ?これ法律的にアウトじゃね?


そもそも綾燕って奴。かなりヤバい奴じゃん。


俺が1人考え事をしていると周が口を開いた。

「ありがとう、2人とも。でもここまで知られた以上、隠し通すわけにはいかないし、何より不信感を感じちゃうでしょ?だから今から全て話すね。アタシがまだ白ノ帝国に入る前の話を。」

周はそう言うと、綾燕という奴と周の過去を思い返すように話し始めるのであった。

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