12話 ようこそ、大阪へ
いつもと変わらぬ朝、いつもと変わらぬ俺の部屋、いつもと変わらぬ日常…いや、俺の目の前には鬼の形相をした鶴婆が立っている。
理由は言わなくとも分かっている。
俺の通っていた学校に、犯罪者の教師がいた上に、学校がなくなる。そして範頼が作ったよく分からん組織に強制加入された挙句、家には帰れず無断外泊…。
こりゃあ怒られて当然だわ。
とりあえず、婆の入れ歯だけは身構えておくか。
さあ、何処からでもかかって来い婆ッ!!
そんな感じで身構えていたら、鶴婆は溜息をこぼすと、真っ直ぐと俺の顔を見始めた。
「若様。私は何十年も源家として仕えてきました…ですが今朝、兼房の若造に、若様は勉学に関しては心配いらないと言われました。
勿論、私は納得はしていませんよ。ですが、このご時世。魔物や蛮族といった危険な世界でございますゆえ。
若様に今必要なのは、勉学ではなく剣術を学んで欲しいと思っております。
それに私は…やはり!私はッ!!」
鶴婆は目を見開きながら俺の肩を掴んだ瞬間に、背後から聞き覚えのある。
低くて落ち着いた声が聞こえて来た。
「お鶴さん、貴女が源家の侍女だからといって。若様の身の回りのお世話をするのは貴女ではなく、この私です。
それに私は、若様の教育者でもあるんですよ。お鶴さん、その辺は理解されておりますか?」
兼房がそう言うと、鶴婆は負けじとばかりに兼房に立ち向かう。
いや、婆さん。そろそろ俺に構うな。鬱陶しから。
「私は長年、源家に仕えてきました。
今回の騒動でやはり、二条学院に入学しておくべきだったんです!貴方みたいな若造には若様を任せられましぇんッ!!」
あー……入れ歯が勢いよく兼房の横をすり抜けるなー
てか、笑い堪えるの必死で、俺は一体どこに視線を向けるべきなんだ?
外か?外なのか?あー、蝶々がヒラヒラ飛んでいるなー。
俺が必死に笑いを堪えている横で、兼房は顔色一つ変えずに、少し呆れた様子で話し始めた。
「お鶴さん。貴女の気持ちも分からなくはないですが、あまり二条学院にこだわる理由も分からないですし、何よりあの場所は剣術は一切やってないと聞きます。このご時世、剣もろくに扱えないようじゃ、生きていけませんよ。お鶴さんは若様に死ねとおっしゃるのですか?」
兼房がそう言うと、鶴婆は入れ歯がないため、フガフガ言ってて聞き取り不可。
そして思う存分、何か言ってからその場を逃げるように去って行った。
そんな鶴婆の後ろ姿を見ながら、もう俺に構うなよーと、鶴婆には聞こえないように言ってやった。
鶴婆が去った後、兼房は「若様。次からはご自分で、お鶴さんの対処をしてください。中身は子供じゃないのですから。」と、ぐうの音も出ない正論を言われ、確かにいつまでも人に頼りっぱなしだと成長しないよな。と反省の気持ちを込めて、はい。次からは頑張ります…。と返事をした。
「それはそうと若様。そろそろ専用の武器を買いに行った方が良いのでは?」
あーそう言えば、沖田とかいうクソ野郎に武器を壊されたんだっけ。
アイツ人の武器壊したなら弁償しろよなマジで。刀一本いくらすると思ってんだよ。余裕でベンツ買えるくらいの値段だぞオイ。
まあ、金には余裕のある裕福な家庭だからいいんだけどさ。
「それもそうだな。俺専用の武器か、普通は闇属性の武器だけど、これって光属性の武器もアリ?あ、双剣の光と闇…なんか厨二感が半端ないからやめとこ。それに双剣の主人公で被りたくないし。」
俺がブツブツとほぼ独り言を言っていると、兼房が「属性の武器よりも、コアの属性を使った方が宜しいかと。それにコアには力、速、当、運、属の5種類の属性がごさいます。
最初のうちは一つだけしかコアは使えませんが、武器を強化していけば最大で3つの属性は使えるようになりますよ。」と、丁寧に教えてくれた。
「なるほど。武器を強化するには、鍛冶屋に行けば、強化できるようになるの?」
俺がそういうと、兼房はまた丁寧に話し始めた。
「武器の強化は、ご自身のレベルに関わってきます。簡単に言えば、若様が魔物を倒し、レベルを上げていく。そうすると武器も主人のレベルに合わせて強化されていくのです。
まあ、若様なら心配いらないでしょう。…たぶん。」
兼房。お前絶対、俺のこと馬鹿にしてるだろ!
だがここで、一々腹立ってたらキリがない。俺も成長しなくてはな。
「サンキュー兼房。だが、最後の言葉は余計だ。俺だって強くなろうと思えば強くなれるんだよ。でも今はその時期じゃない…兼房、楽して強くなる方法ってある?」
「若様、世の中甘くないんですよ。強くなるためにはダンジョンに行くか。冒険ギルドで魔物退治をするのが、お勧めですよ。」
普通の返答きたー!!…知ってたけど。
マジで転生したらチートでハーレム生活送れるって言ったやつ出てこいよ。そして1発殴らせろ。
というよりハーレムとかいいから、7つの玉集めて宇宙一最強になるって願うわ。いや、そこは元いた世界に生きて帰らせろか。
まあ、こんなクソどうでもいい話は置いといてだ。
「今の俺は武器どころか鞘のない、ただのイキリ野郎となんら変わらない。強くなるためにも、とりあえず大阪に行くことにするよ。」
俺がそう言うと兼房は、俺の武器ができるまで代用品の刀をくれた。
今回は太刀じゃないんだ。
今思い返せば、地味に兼房に小馬鹿にされてきたな…。
まあ、それも過去の話よ。今は水に流してやろう。
「よし。善は急げというし、今日から大阪に行くことにするけど、兼房は俺の護衛として来てくれたりするの?」
まあ、兼房がいてくれたらチンピラに絡まれないし助かるんだよな。
と、思ったけど兼房は「すいません若様。別件で、奈良にいる
「マジかー。用があるなら仕方ないか。しょうがない、誰か誘うか。」
てか安部晴明って凄い奴と知り合いなんだな…。
まあ、兼房が無理なら誰誘おうか。
そうだな、範頼辺りに頼んでみるか一応。
俺は兼房と別れ、範頼の部屋へ向かうと、ちょうどいい所に範頼とばったり出会った。
「範頼、ちょうどいい所にいた。少し話があるんだが時間は大丈夫?」
俺がそう言うと範頼は、オーケー大丈夫だぜー!と返事をくれた。
俺は範頼に、大阪で自分専用の武器を作るために道中までの護衛とまではいかないが付き添いを頼んだが、今日は大事な用があるようで、俺の代わりに強い護衛を頼んでやる。と言った。
なんか範頼の選ぶ護衛は、あんま信用ならんから、俺の友人でも連れて行こうかな。
確か冒険者になりたいとか言ってたし、武器でもプレゼントしてやろうかな。
そうと決まれば、早く支度を済ませるか。
************
支度を終えた俺は、桃の家に行き。
大阪に武器を作りに行くから一緒に行こうと誘うが、桃の家は裕福ではないから無理と断られたが、金は心配いらない。と言うと、桃の祖父母に一緒に大阪に連れて言っていいか許可を取ると、桃の意思次第と答えた。
よし、ここは少し卑怯だが奥の手を使うか。
「桃、俺との約束覚えているか?
お前は前に両親が鬼に殺されたって言ったよな。
それで仇を取るために冒険者になって鬼のいない世界を作ると約束したよな。
その為には強い武器や防具が必要なんじゃないか?それに金が必要ならギルドで稼げばいい話だろ。」
俺がそう言うと、桃は少し悩みながらも、僕がいても足手まといじゃないかな?と言ったが、寧ろお前がいてくれた方が、色々と助かる。と返した。
その言葉を聞いた桃は、少し嬉しそうに、ありがとう。僕、頑張ってみるよ。と返事をしてくれた。
お前、本当にいい奴だな。間違っても前世の俺みたいな人生を送るじゃないぞ。
そして桃の奴も支度を終えると、2人で京都の駅へと向かった。
駅に着くと、人だかりが多く。
待ち合わせ場所の、大きな時計塔の前で待つこと3分。
俺たちの方に向かってくる人物がいた。
てか見覚えのある男だな。
いや、完全にお前は、どこからどう見ても沖田総司だな。
沖田が、お待たせ。と言うと、俺は来たばかりの沖田に、挨拶をするかのように最初に出た言葉は、帰れ。だった。
まあ、当たり前だろ。だってコイツ、俺を一度殺そうとした奴だぜ。許すわけねぇだろタコ。
俺がそう言うと桃は少し眉を八の字にさせると「若。来てくれた相手にそういう態度はあまり良くないよ。それに僕は楽しく大阪に行きたいから、何というか、喧嘩じみたことは無しじゃダメかな?」と言った。
んー、桃にそれ言われると断れないわ。ここは一つ、我慢するか。
てか、人選ぶのミスした範頼の責任だがな。
俺がそんな事を考えていると、沖田がニコニコ笑いながら桃に話しかけ始めた。
「君、凄くいい子だね。初めまして、僕の名前は沖田総司。よろしくね。」
沖田がそう言うと、桃は緊張しているのか、少し噛み噛みになりながら「し、知ってます!新撰組は有名ですから!あ、僕は桃山柳太郎と言います!あの、気軽に桃って呼んでください。」と嬉しそうに話す。
そういえば以前に、新撰組に憧れているとは言ってたが、なりたい職業は冒険者なんだっけ。
そして2人は楽しそうに会話を…いや待て!ここで油売ってる場合じゃねえ!!
俺は楽しそうに話している2人の会話を中断させる為に「あのさぁ、俺の当初の目的は大阪に行って武器を作る事なんだから、話したいことは電車の中で話せ。」と言うと、沖田はニコニコ笑いながら、電車じゃなくて機関車だよ。間違えないように。と訂正を入れてきた。
一々うるせえな。京都から出たことないから知るわけねえだろうがよ。
俺の中ではイライラはなかったが、モヤモヤした嫌な気分で大阪へと向かうのだった。
************
俺たちは、大阪行きの機関車に乗ると、まず口にしたのは、何このオシャンティーな内装。と言っていた。
桃も初めて乗る機関車に目をキラキラさせていた。
なんせ照明がシャンデリアだし、アンティークな椅子に、アンティークなテーブル。そして車両ごとに内装が違うらしい、どんだけ金かけてるんだよ。
と思いながら、空いている席へ座った。
俺の向かいに座る沖田に、気になる事を聞きたかったが、隣に座る桃のこともあって聞くに聞けなかった。
そんな俺の考えを知っているかのように沖田は不敵な笑みを浮かべると「僕はただ、君を試したかっただけ。本気で殺そうとは思ってなかったよ。それにもう、君を襲ったりはしない。」と、俺にしか聞こえないように喋った。
その隣では桃が窓の外を見ながら、凄い!あの建物人の顔みたいです!と、指を差しながら言う桃に、沖田は、そうだねー、怒った時の土方さんに似てるよ。と笑った。
そんな沖田の様子を見て、確かに、最初に出会った頃よりは、殺気というか、そんなものは感じ取れなくなった。
少し自分の性格を改めようかな。
そして出発してから1時間半。
ようやく目的の大阪へと、到着したのであった。
機関車から降り、俺は言葉を失った。
いや、ここ何処だよ?
え、俺の知っている大阪じゃない。
京都は少し俺のいた世界と、似ていたが…大阪、お前どうしたマジで。
俺の目の前には、かなり発展した建物が聳え立っていた。まるでスチームパンクの世界みたいでワクワクするな!
それに普通に鳥人が空飛んでるし。獣人の集団が歩いているわで、少なくとも俺の知っている大阪ではないな。
そして桃は目をキラキラさせながら、凄い。を連発。沖田に関しては驚くどころか慣れているという感じだ。
まあ、これはこれでいいのか?
とりあえず今日はもう、日も暮れたことだし。
一旦宿を取り、また明日鍛冶屋でも行くとするか。
武器かー、どんな感じにオーダーメイドしてもらおうかな。
俺はまだ知らなかった。
次の日に、とんでもない被害に遭う事を……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます