11話 不倶戴天 (後編)




(昨夜の少年は一体……もしかすると、この事件に関連しているというのでしょうか?何より鬼神を知っていましたし。調べる必要性はありますね。)



シリルは1人考え込みながら、まだ生きているブライアン被告の解剖の準備を始めていた。



シリルが解剖準備をしていると、バンッと勢いよくドアを開けるなり、慌ただしい声で、ブラックウェル先生ッ!と、大きな声を出しながらベティル警部が部屋へと入ってきた。



その様子にシリルは、どうなさいました?と落ち着いた様子で訊くと、ベティル警部は汗を垂らしながら、実は…と話し始めた。



「つまり、ブライアン被告が意識を取り戻し正常な人間に戻ったから、解剖をやめろと云うことですか。ベティル警部、すみませんが、私は解剖をやめません。」



シリルがそう言い切ると、ベティル警部は目を見開きながら、な、何ですと?!と、驚いていた。



「ベティル警部。私も人を殺したくはありません。ですが考えてみてください。1人の命を救うか。何万人の命を救うか。ベティル警部、貴方ならどちらを選びますか?答えるまでもありませんよね。それでは解剖の準備を進めます。」



シリルはそう云うと、ブライアン被告の元へと向かって行った。

そんなシリルの様子を見たベティル警部は、「ブラックウェル先生は優しいが、時折怖くも感じますな。」と誰もいない部屋で小さく呟くベティル警部であった。



被告人の場所に移動したシリルは、目の前に拘束されているブライアンを見て目を見開いた。



「本当に人間に戻っているというのですか?……一体なぜ?」



シリルの眼に映る被告人にから、忌々しいオーラはなく。

普通の人間となんら変わらない姿に、シリルはただ驚くばかりでいた。



ブライアンがシリル達の気配に気づくと。ずっと暗い部屋で拘束されていたのか恐怖で泣き叫びそうな勢いで、話し始めた。



「や、やめてくれぇええッ!お、俺が一体なにをしたというのだッ!死にたくない…誰助けてくれぇええッ!」



正気でいられないブライアンは、鎖を解こうと必死に暴れ始めた。

そんなブライアン被告人の様子に、ベティル警部は慌てながら、落ち着きなさい。今外しますから。と言いながら鎖を解こうとするベティル警部を、シリルは急いで止めに入ったが、その頃には鎖は外され。

解放されたブライアン被告人は、ベティル警部にお礼を言うと。


微かに嫌な笑みを浮かべるブライアン被告人の顔を見逃さなかったシリルは、素早くベティル警部を突き飛ばした。



グハッと言いながら壁に叩きつけられたベティル警部に、すみません。と一言謝ると「ですが軽い痛みより、命の方が大切ですから。そのくらいの痛み、我慢してください。」そう言われたベティル警部は、シリルに怒鳴ろうとしたが、すぐにそんな事を忘れてしまうほどの光景を目の当たりにして、言葉を失ってしまった。



ベティル警部の目の前で、さっきまで普通の人間だったブライアン被告が、人間とは呼べない、化け物へと変化していることに、ただただ恐怖で足がすくむばかりであった。



そんなベティル警部をよそに、シリルは優しく微笑みながらブライアン被告人に話しかけ始めたが、目の奥は笑ってはいなかった。



「ブライアンさん。貴方の罠に満々とベティル警部が騙されましたが。

本当に残念です。本来なら貴方に棲む鬼を、サンプルとして日本に持ち帰る予定でしたけど。致し方ありませんね。

今ここで解放させてあげましょう。」



シリルはそう言うと、怯えているベティル警部の方に目を向け、少しの間、眠っていてください。と言うと、ベティル警部はゆっくりと目を閉じ、そのまま眠りに入ってしまった。

そして目線をブライアンの方に戻すと、でわ、始めましょうか。と云う言葉と合図に、シリルの身体を優しい緑の風が包むと、2体の妖精がシリルの前に現れて来た。



「ふぁ〜、せっかく気持ちよくお昼寝タイムをしていたのに、何事なの?」



水色の妖精がそう言うと、シリルは説明はあとです。と言うと、黄色い妖精に目線を送った。



「ライラ。目の前にいる鬼の動きを封じてください。スイは私の武器として、ロングソードでお願いします。」



シリルが指示を出すと、妖精たちは、了解。と言うと同時に素早く行動に移した。



ライラは身体に電気を纏わりつかせると。鬼の周りを高速で動きを封じ始める。

その行動に鬱陶しと思った鬼は、攻撃してみるも、ライラに攻撃は当たらないどころか、ライラの身体は電気を発しているため。かなりの大ダメージを喰らう鬼。



シリルは剣を強く握ると、素早く鬼の背後にまわると、そのまま一気に首を斬り落とした。


ドサッと首の落ちる音がすると、鬼の体内から黒いモヤが舞い上がりながら、やがてそのまま消えてしまい。

元の人間の姿へと戻った。



「とりあえず状況は理解したわ。それじゃあ私はもう一眠りといきますか。」



スイはそう言うと、ライラも、アタシは帰ってお昼ご飯かなー。と、呑気に話す。

そんな2人にシリルはお礼を言うと、妖精たちはそのまま、家へと帰って行く。



残されたシリルは、辺りを見渡し少し残念そうに(サンプルは残念ですが。記憶は残してあるし、よしとしますか。)と云うと、一人で周りの後片付けを始めた。





**************



時刻は打って変わって、夜の22時過ぎ頃。



とある一室に一人黙々と作業をする範頼の姿があった。

コンコンッとドアをノックする音がすると、範頼は、どうぞ。と返事をした。



ガチャッとドアが開き、失礼します。と言いながら入ってきたのは、シリルだった。


シリルは作業をしている範頼の前まで行くと、イギリスで起きている事件について、全て話し始めた。



範頼はコーヒーを飲みながら、鬼神ね…。と呟く。

シリルは続けて、先ほど身に起きた事件を脳内に記憶していたものを、範頼に共有させるため。

全ての記憶を映像として水晶に映し出し、範頼に事のあらすじを見せ始めた。



映像を見終えた範頼は「なるほどね。イギリスでそんな物騒な事件が起きてるのか。それに映像に出てた子供も、鬼に関わってる可能性が高いな。俺もできれば手伝ってやりたいが、最近、俺の弟が風雲児に入ってやる事が沢山あるんだよなー」と、申し訳なさそうに言うと、シリルは優しく微笑みながら、お気持ちだけで十分ですよ。と言った。



「私は一刻も早く、この事件について範頼さんに伝えたかったのと。なんだか日本でも他人事じゃないような気がして…」



シリルがそう云うと、範頼も「確かにあんなの見せられたら、日本も何か起きてもおかしくないよな。シリル、報告ありがとな。こっちでも厳重に警戒はしておく。お前はもう少しイギリスで調査を頼む。」と言った。


シリルは軽くお辞儀をすると、それでわ、また後ほど。と言い残すと、風に包まれながら姿を消した。



イギリスに戻ってきたシリルは、容疑者であるブライアン被告がなぜ死んでいるのかを、ベティル警部に事細かく説明を終えると。

ベティル警部は、少し納得もいかない様子だが、シリルの言葉を信じつつ一刻も早く終わらせたいと思うベティル警部は、ただシリルに頼るしかなかった。



「ベティル警部。また被害があってからでは遅いので、夜の巡回を強化しておくようにして下さい。私も出来る限りは警戒しておきますので。」


「そうですな。ブラックウェル先生も無理なさらずに。」



ベティル警部がそう云うと、シリルは、お気遣いありがとうございます。と返した。



あれから2週間が経つが、これといった事件はなく。

寧ろ平和なくらい、嵐の静けさといった感じの日々を過ごすシリルは、機を緩むことなく。

事件が起きないよう警戒していた。



3日後の昼下がり。

街中に歩くシリルとディランは、とあるお店に立ち寄っていた。


「シリル、今日は色々と付き合わせっちまって悪いな。」



申し訳なさそうに云うディランに、いえ、今日は久しぶりの休みですし。と云うと続けて「それに、婚約指輪を一人で買うのが恥ずかしいからと云う理由なのもなかなか面白いですね。」と言いながら小さく笑った。



シリルが笑っていると、ディランが口を尖らせながら「いや、お前は身なりが整ってる割に、俺は場違いというか、ああいうお店だと浮くだろ?そういう理由でお前を呼んだんだよ。」と、少し照れ臭そうに言った。



そんなディランの様子を見て、懐かしいな。と小さく呟いた。

その後、なかなか良い指輪というよりも、ダイヤの指輪ばかりを見ていて、予算が足りなく落ち込んでいるディランを見たシリルは。

ダイヤの指輪ではなく、シンプルな指輪をオススメし始めた。



「ディラン。何も見栄を張らなくても、婚約指輪は形ではなく。自分の気持ちが大事だと私は思いますよ。

それに、指輪を自分で作るコースなんてものもありますし。それにネームも入れられるみたいですよ、どの指輪よりも素敵だと思いませんか?」



シリルがそう言うと、ディランの表情は少し明るくなり、確かにそうだな。と笑った。



「んじゃあ、シリル。お前が言い出しっぺだから一緒に作ること、いいな!」



と言いながら、強引にシリルを連れて行くと。

シリルは苦笑いしながら、相手がいないのに…まあ、いいでしょう。と諦めた。



ーーー数分後。



「よし!やっと指輪が完成したぜ!これを…っておい!俺より完成度高えぇじゃねぇの!」



完成した指を見比べながら少しガッカリしているディランを見て、シリルは「ディラン、相手に贈るものなら上手い下手なんて関係ありませんよ。それに、どれだけの気持ちが込められているかが、大事だと思いません?」と笑うと、ディランは納得したように、シリルの言う通りだな。と笑う。



その後、お店の人に頼んで指輪にイニシャルを入れてもらい。

そして綺麗な箱に指輪をしまうと、2人はお会計を済ませ。お店を後にした。



ディランを家まで送ると、シリルに今日のお礼を言いながらそのまま立ち去ろうとするが、あっ!と思い出したのか、一度立ち止まり、帰り際にシリルに「そういえばシリルの指輪に書いてあったMってイニシャル、もしかして好きな女か?」と訊くと、シリルは少し寂しげな笑みを見せるた。


「はい。私の一番大切な人です。」と答えると、ディランは目を見開き、ホントかよ!と言いながら嬉しそうに笑うが、その話。今度じっくり聞かせろよ!と言うと、急いでたのか、指輪の入った紙袋を素早く手に取ると、それじゃあ、また!と言いながら車を降りて行った。



「本当に忙しい人だな……」



ディランの後ろ姿を見ながら笑うと、シリルも自分の自宅へと向かった。



シリルが帰宅した頃には、もうすっかり夜も更け。

部屋の電気を点けると、テーブルの上に紙袋を置き。ふと紙袋の持ち手が赤いのに気づいた。



ディランがお互い間違えないようにシリルは青でディランが赤の紙袋と決めていたのに、そそっかしいディランは見事に間違え。いつも通りだな。と苦笑いした。

シリルは帰ってきたばかりだが、指輪を届けるため。急いでディランの家へと向かった。



外に出ると、見覚えのある少年がシリルの前に現れた。



「こんばんは。お兄さん。」



少年がそう言うと、シリルもこんばんは。と挨拶を返した。



「前にも言いましたが、こんな夜遅くに子供が1人で出歩くのは危険だと言いましたよね?

早くお家に帰りなさい。家の人も心配しているでしょうし。」



シリルは少年にそう言うが、少年はニッコリ笑うと、大丈夫だよ。と言うと、僕には家族がいないし。と言った。



少年の言葉にシリルは少し困ってる様子だが、少年はそんなシリルを無視して「それよりもお兄さん。早くお友達のところへ行ってあげないと、手遅れになっちゃうかもよ?」と不敵な笑みを見せていた。



少年の言った言葉に驚きながらも、大人をからかうものじゃありませんよ。と言うが、どこか嫌な予感がして、一刻も早くディランの元へと向かいたいが、目の前にいる少年の事も色々と情報を得たい。だがやはり友人であるディランを最優先し。

急いでディランの家へと向かった。



「さぁ、吉と出るか凶と出るか…楽しみなだな。」



シリルが去った後に少年がそう言うと、後ろから兎の被り物をした少女が現れ。本当に悪趣味ね。と言った。


少年は少女に「いいじゃん別に。今回は友情をテーマにしてるんだから。」と口を尖らせて見せた。

そんな少年の態度に少女は呆れながらも「そう。でも無茶だけはしないで。マーリンにここで死なれたら困るもの。」と言うと、マーリンと呼ばれた少年は笑いながら「毎回そう言うけど、何だかんだラビットちゃんは僕がピンチになりそうになった時は助けてくれるじゃん。ま、ピンチになった状況なんてないんだけどね。」と笑った。



その言葉を聞いた少女は、ため息混じりに「まあ、頑張って頂戴」と言いながら闇の霧へと消え去った。



少女が消え去った後。少年は、終わりが来るまでは…頑張るよ。と言うと、少年も砂を纏い。そのまま風に乗りながらキラキラと砂が舞いながら消え去るのであった。




***************




ディランの家に着いたシリルは、急いで車から降り、そのまま呼び鈴を押しながらディランとアマンダの名前を呼ぶが、家の中は静まり返っており返事はないようだ。


シリルは次にとった行動は、ドアノブに手を回し、家へ入ろうとしたが、当然のように鍵がかけられており中に入ることはできない。


そしてシリルは再度周囲を見渡し、人がいない事を確認すると、瞬間移動テレポートで家の中へと入ることに成功した。


家の中は電気は点いておらず、所々部屋の中が荒れており。

床には誰かの血痕らしきものが別の部屋へと点々と続いているのがよく分かる。

だが、この血痕がディランのものかアマンダのものかは、分からないが、急いで手当てをしないと間に合わないだろう。そう思ったシリルは、血痕の跡を辿りながら2人を探すことにした。


血の後を追うこと数分。

地下の部屋だけが明るく、血の量も次第に増えており。

2人が無事なのかという不安な気持ちで地下室へと向かうと、地下室から嫌な音がした。

それはまるで、獣が獲物を喰らいつくような、そんな嫌な音が部屋に響き渡る。

シリルは額に冷や汗をかきながら、息を整え。覚悟を決めたのかシリルは、その得体の知れない化け物の前まで現れた。



「……そんな…まさか、ディラン……貴方なのですか?」



獲物を喰らいつく正体がディランで驚きを隠せないでいるが、更に信じられない光景がディランがアマンダを貪り食っている姿を見て、シリルは言葉を失ってしまった。


ゆっくりと立ち上がり、シリルの方に顔を向けるディランの姿は、普段見せるディランの顔ではなく。化け物そのものの姿に、シリルは悲しさと怒りが入り混じりながらも、静かに妖精を召喚させた。



炎に包まれながら現れた妖精に、魔法銃になるよう命令すると、妖精は少し戸惑いながら「シリル…あの人を助けてあげられないの?」と、2人の関係性を知っている妖精は、少し悲しげな表情を見せていた。


そんな心優しい妖精にシリルは、優しく笑うと「ファイン。私はこうなる事が凄く怖かったのです。ですが、このまま放置していれば他の被害者が増えてしまいます。本当は2人を…ファイン。時間がありません。ディランを苦しませずに楽に終わらせましょう。」と言うと、ファインと呼ばれた妖精は、了解。と一言だけ言うと、そのまま魔法銃へと武器になった。


シリルは魔法銃をディランの元へ向け、一息をつきながらゆっくりと引き金を引くと。弾丸はディランの頭へと飛ばされていった。



「うぅ……うっ…シリ…ル。ごめん…あり…がとう。」



ディランの目から涙が落ちると同時に、はっきりとシリルの耳にもディランの言葉が届き。

シリルは、ディランッ!と叫ぶが、弾丸は火を纏いながらディランの頭蓋骨を貫通させた。



ドサッと倒れるディランに、急いで駆け寄るシリル。

そんなディランの顔はどこか微笑んでいるようにも見え。シリルは余計に苦しい気持ちと同時に何もできない無力な自分にも怒りさえ感情が押し上げてきていた。


そんなシリルの様子に、なんと声をかけていいか、分からないファインは、ただ側にいてあげることしか出来なかった。



「このままにしてあげるのは、2人が可哀想ですよね。せめて最期の時くらい綺麗なままで死なせてあげましょう。それが私に唯一できる事ですから…」



シリルはファインに背を向けていたが、その後ろ姿でも分かるように、シリルの目から涙が流れているのが、感じ取れている。



「父の言い伝えでね。医者は決して涙を流すな…そう言われたのに人生で3回目になるとは思ってもいません。」



---前世のシリルの6歳の時。



"いいか、夏樹なつき。医者になるからには感情を押し殺せ。どんな時でも決して涙を流すな。"


"はい、父様。"


"うっ…ひっく……うぅ。"


"夏樹。私は前になんと言った?"


"いっ医師は…ひっく…決して涙を…流すな。ですが…父様は母様が死なれて…うっ…悲しくないのですか?"


"夏樹、お前には失望したぞ。"


"…父様は感情のない…ロボットだ。"



----あれから18年。



"茉莉まり、時々思う事があるんです。このまま悲しみの感情を失くしてしまったら、父の様な感情のない無機質な人間になりそうで、それが凄く嫌なんですよね。何よりも人との繋がりが怖いんですよ。誰とも関わらなければ、悲しまずに済むのかもしれませんね。"


"夏樹ってば。考え過ぎだよー!それに泣きたい時は泣けばいいよ。その時は私も一緒に泣いてあげるから。"


シリルの脳内に前世の記憶を思い出しながら「茉莉…。私はどうすれば正解だったのでしょうか?いや、答えなど初めからなかったのでしょう…。

さて、いつまでも悔やんでいても仕方ありませんね。切り替えていきましょう。」と云うと、涙を軽く拭いながら今。自分にできる事をすべく、ベティル警部がいる署へと、報告に行くのであった。



数日後。



喪服姿の女性と、隣に立つシリルの姿があった。

2つの棺に眠るディランとアマンダはとても穏やかに見える。


そんな2人の姿を見ながら女性は「本当に親不孝者よね。私より先に死ぬなんて……挙式も上げずに…バカ息子ね。」そう言いながら涙を流す、ディランの母親にシリルは「おば様、ディランは頑張りましたよ。それに私がもっと早く……」そう言いかけたところでディランの母親は笑いながら、シリルくんは何も悪くないわよ。と言うと、あまり自分を責めるものじゃないわ。と涙を流しながら優しく笑った。


けどシリルには、その優しさが何よりも苦しいもので、自分が弱い人間だと思い知らされた日でもあった。



シリルは「ありがとうございます。心からお悔やみ申し上げます。」と、頭を下げると、その場から立ち去って行く。

そしてシリルは、人がいない静かな場所へと移動した。

ふと林の方からピアノを弾く音がし、音を頼りに向かうと、見覚えのある少年の姿が、そこにはあった。



少年はピアノを弾きながら、こんにちは、お兄さん。と言うと、シリルは素早く銃口をマーリンへと向けた。

頭に銃口を突きつけられたマーリンは、振り向きながら手で払うと「こんなオモチャの銃じゃ、僕を殺ことすなんて無理だよ。

あ、そういえばまだ挨拶してなかったね!僕は魔術師マーリンと名乗っておこうかな。よろしくね、シリルお兄ちゃん。いや、霧島夏樹きりしま なつきくんと言った方がいいのかな?」と、笑った。



シリルは目を見開きながら、何故…その名を…。と、驚きながらマーリン訊くが、マーリンはニッコリ笑いながら「教えて上げてもいいけど、今は忙しいから教えて上げれないんだ。ごめんね。それじゃあ、僕は用があるから次は日本でまた会おう!あ、義経に会ったら、よろしくって伝えておいて!んじゃあ、バイバーイ。」と言うと、ピアノとマーリンは砂に変わり一瞬で姿を消し去った。



残されたシリルは、マーリンが危険な人物だと察した上。

次は日本で、地獄が始まる事と、もう被害を起こしたくないシリルは、日本にいる風雲児の仲間にこの事を、一刻も早く伝えることにした。



同時刻。日本はすっかり夜も更け。

慌ただしく範頼の部屋に入ると、そこには範頼の姿はなく。デスクの上には紙が置いてあり、ちょっくら女の子とデート行ってくるから用があるなら明日にして。追記、やっぱ明後日で!と書かれていた。


その手紙を読んだシリルは、クシャクシャに丸めて地面に叩きつけた。



「大事な時に…とりあえず沖田さんとアネットさん達に報告しますか。」



シリルは4人の妖精を召喚させると、各自に情報を教えるよう命令させた。



数分で戻ってきた妖精たちは、沖田は義経達と大阪にいるとの報告。

アネットと渋沢は、スイスに仕事がてらの旅行との報告。

弥生は機嫌が悪く話したくないとの報告を受け。

シリルは溜息を吐きながら、ふざけるのも大概にしてもらいたいものですね。と、満面の笑みを浮かべていた。



「シリル、目が笑ってないよ…」


「スイ、シリルは最近色々あったからそっとしておいてあげて。」



シリルは妖精たちの気遣いを聞きながら京都の町並みを眺めていた。

そして全員が帰ってくるまで、今後、京都で起きるであろう鬼神戦に備えて、京都の町で何か異変がないか調査する事にしたのであった。


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