第1話役職勇者登場

 魔王になって二百年。

 世界を手に入れ、世界の人々から恐れられる存在になった。

 だが、俺が俺自身で世界を手に入れたという訳では無い。

 俺が手に入れたのは…だけだ。

 俺の頭の中では魔王を守る存在を四天王的なのと思い浮かべている。

 だから四人。俺自らの手で倒し、俺のこまにした。

 そして俺はその四人に微量の魔力を与え、ちょちょいと世界を制圧してもらった。

 そう、俺は何もしてない。言い換えれば。と言うべきか。

 案外世界とは簡単に落とせるものだった。『勇者』に該当するほどの力を持つものが殆ど居なく、街付近で出現するアンデッドや獣は、『冒険者』が総出で狩っていたらしい。


「なぁイト……世界なんて、案外簡単に手に入るものなんだな」


「どうしたの急に」


 キョトンとした顔でケルベロスとじゃれ合いながらイトは答える。


「でもまぁねぇ、その気持ちは分かるよォ。当時、まさか勇者と呼ばれるのがたった四人だけだったとはねぇ」


 その四人とは、俺が四天王にした四人の事だ。勿論手に入れるのは容易ではなかったがな。まぁその話はまた今度にしよう。

 して、今となっては数百といる勇者、当時はなんでそんな少なかろうものだったのか……

 答えは簡単。平和だったからだ。

 俺という魔王が生まれた事によって平和は崩され、勇者が多数生まれるようになった。それも半ば強制的に。

 この世界は『役職』、『職業』ほぼ一緒だがそんな言葉に縛られている。

 アサインに告げられる『役職』、『職業』。

 この世界の住人は、15歳の誕生日に、アサインの元へ行き、職を決めてもらう。その時告げられた職がその人の天職と言われている。

 まさか魔王まで職と化されるなんてな…。

 他世界の魔王目丸くしてるぞきっと……。

 ボーッとしながら色々と考えていると、イトが何かに気づいたような反応をした。


「あー、カイトぉ~、また勇者来るよ~」


「またかよ……最近四天王のレベル落ちてきてないか?」


 この王城には入る条件がある。

 それは、単純。四天王を倒せば入れる。

 詳しく言えば四天王の持つ『フィーアハイリガー』と呼ばれる証を王城の入口付近にある窪みにはめ込めば城の鍵は開く……といっためんどくさい仕様になっている。

 説明はここまでにしよう。お客様のお出ましだ。

 ドアの方を見つめるイトと俺は戦闘態勢をとる…………といった事はせず俺は鼻をほじりながら勇者を待ち、イトは先ほどと同じようにケルベロスとじゃれていた。

 数秒後、ギィ、、、と、小さな音を立てドアが開いた。


「魔王……ハァ、お前の悪事ハァはハァここまでハァだァ!ハァ」


 あら~、たいへんお疲れ気味ですね勇者さぁん。


「ん、そうか。えーと、よくぞここまで来たー……っと、なんだっけ?イトー、魔王マニュアルどこいったー?」


「えー、知らないよぉ」


「はぁ?お前ちゃんとしまっとけって言ったじゃん」


「はぁー?なんで人のせいにするの?自分が『勇者来た時言うセリフ全集』を覚えないから悪いんじゃないか」


「あぁ?そもそもそんなん用意する必要ないじゃねーかよ」


「はぁん?そんな事知らないし、これ作ったやつにいいなよ」


「あ?これ作ったのおま……あ、あった。わりーなイト、俺の胸ポケに入ってたわー」


「死ねカス」


「返り討ちにしてやる」


「は?出来るものならやってみなさいな」


「上等じゃ、ちょいと表出ろや」


 え?勇者?知らないねぇ、今俺は激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームなんだ、勇者なんぞに構ってられん。


「おい魔王!勇者が来たの分かってるよねぇ!喧嘩はやめて俺を見て!ここまで上り詰めた……俺を見て!」


「……あー、うん」


 パチンッ

 俺は指を鳴らしそこそこ強いアンデッドを召喚する。

 見たところあんま強そうじゃない勇者にはLv10くらいのアンデッドを用意しとけば問題ないだろう。


「……(´・д・`)」


 勇者の顔を見ると「は?なんでアンデッド?僕ちんまおうと戦いに来たんだけど?」って顔をしていた。

 いや、あのね、確かに魔王戦だけど魔王もアンデッドくらい呼ぶよ?無駄に体力消費したくないし…アンデッドで十分とか思ったりするし……。

 そんな感じの目で見つめるが勇者は俺の意図を感じ取れず未だ(´・д・`)←こんな顔をしていた。

 しょうがないので説明をしてやろう。


「……え、頑張ってそれ倒して俺のとこまで来てーって意味なんだけど…俺あのチビ潰すしがゃあ!」


 説明の最中後頭部に硬い棒状のものが叩き込まれた。

 勿論やったのはイトだった。


「先手必勝油断大敵」


 白目を向く俺にドヤぁとした感じの声で言ってくる。

 端の方では勇者とアンデッドのキィンキィン、といった剣のぶつかり合う音が聞こえる。

 理解してくれたのかと安心し俺はイトを倒すべく拳を握る。


「痛いじゃないか!後頭部はダメだろ!死んだどーすんだよ!」


「知らないよ!死ねばよかったのに!魔王の座は僕が引き継いであげるからさ!サッサっとご老体は引退しろ!」


「あぁ?!よく見ろこの美貌!老体じゃねーし、とても二百年生きたとは思えねーだろ!」


「当たり前だろ向こうとこっちでは時の流れが違うんだよバーか!」


 ……いや待ておい。なんでお前が知ってんだよ向こうの世界のこと。

 イトもハッとしたように口を塞ぐ。


「イト、お前がなんで知って……」


「キエェェェエエェェェ!!!!!」


 端の方から意味のわからない奇声が聞こえてくる。

 勇者だ。すっかり忘れてた。というか今いいとこなんだから邪魔すんじゃねーよぶった斬るぞ真っ二つだぞ地理も芥も残さなーぞ。


「イト!勇者あれはほっといてどーゆー事か教え…いねぇ!バックレやがったあのカス!」


「もぉおおおおいいいよぉおおおお!!!!!!!!」


 またまた大きな声を上げたのは勇者あれだった。

 勇者あれは涙目になりながら俺を指差し叫ぶ。


「俺、勇者なんですけど?一応あなたを倒しに来たんですけど?ほら貴方が出したアンデッドも倒してるでしょう?なかなか強いんですよ俺、なのに!なのになんで俺のこと無視するんだよぉおおおおおおお!!!!」


 ギャン泣きしながら勇者はドアを蹴飛ばし外へとダッシュしていった。

 ……なんというか、ごめんなさい。

 心の中で解釈し、俺は腰掛ける。

 そしてまた溜息をつきながらまおうを倒しに来る勇者を待つ。

 そんな下らない異世界生活。いつかは幕を閉じるのだろうか…………。

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