第9話


「楽しかったですね! 勇者様、今日はお疲れ様でした!」

「あー、楽しかったか。あー、楽しかったな。そりゃあ良かったな」

「はい!」


 皮肉をぶつけても何のその。あっけらかんと正直に感激を述べるクレスに、アリスはボロ雑巾の様な出で立ちで夕暮れ時の街道を歩いていた。ここまで素直に感激されては、皮肉のぶつけ甲斐もありはしない。


 魔族に大歓迎され、接待という名の玩具にされたアリスは、全てが終わった後のへばり具合が半端ではなかった。今思い出しても疲弊するのに嫌でも回想してしまうのは、強烈な印象続きだったからだろうか。



 広場であんまりな初対面を果たした後。アリスへの好奇心攻撃は並大抵のものではなかった。



 まず、風貌が物珍しかったらしい。

 金色の髪というのは、魔族にはまず表れない色合いだそうで、とにもかくにも目立つ様だ。

 逆に人間であるアリスからすれば、魔族特有の黒い髪というのは滅多にお目にかかれないので、彼らの方が珍しかったりする。まあ、この辺はお互い様というやつだ。


 しかし、特に子供の反応は酷かった。


 無遠慮に髪をつかまれ、「さらさらだー!」「どんなシャンプー使ってるの?」「染めてもこんな色にならないよ! きれーい!」と万歳三唱の如く賛美され、「やめろ!」と拳骨を落とすまで止まらなかった。

 しかし、それにも懲りず子供達は自分によじ登り、ミシェリアのことを聞かせろ、何が好きなのか、剣が見たい、遊んでーと、様々な欲求を津波の如くぶつけてきた。

 彼らの親も、子供に拳骨を落とされたにも関わらず、「ああ、勇者様の拳骨……」「元気だねえ」と、よく分からない陶酔や許容を飛ばし、アリスはもう気絶してしまいたくなった。

 そんな、多大なる精神疲労が蓄積した後、クレスがトドメを刺してきた。あろうことか、「勇者様は本当に凛々しくて強くて優しいんですよ。昨日も私に」と、いかに人格者であるかを説き始めたのだ。

 酷いことしか言っていないだろ、と反論したかったのだが。


「そうしたら勇者様、ケーキを美味しいと言って下さいまして! 私、天にも昇る想いでした……!」

「まあ! やるねえ、クレス様!」

「勇者様のハートをわしづかみにしたわけだね!」

「こうして、男性は胃袋を掴まれて落ちていくのだな……」


 好き勝手に語る民衆を相手に「おいこら」と思いはしたものの、あまりに彼女が幸せそうに語るので水を差すことが出来なかった。

 かと言って知らんぷりで他人事にも出来ず。どんな羞恥プレイだと、堪忍袋の緒が切れそうになった矢先。



「クレス様、いつものお話聞かせてー!」



 小さな女の子の一人が、クレスの膝に飛びついてきた。

 ぴょーんと可愛らしく弧を描いて座るあたり、クレスに似ている。将来のクレス予備軍かと考え、アリスはげんなりした。


「クレスさまっていったら、物語だよ!」

「あたしもききたーい!」

「聞かせろ魔王!」


 アリスが溜息を吐く合間にも、子供達が次々と「聞きたい!」とせがんでいる。

 そんな光景にクレスは照れくさそうに手を挙げて、何も無い空間から魔法で一冊の本を取り出して見せた。

 次元をずらした空間に、物質を収納しておく。または、離れた空間同士を一瞬だけ繋いでしまう魔法だろう。それをいとも簡単に行使するとは、流石は魔王だ。高度な技術を要求されるのは、アリスもよく熟知している。

 ――それはともかく。



 勇者と魔王。



 クレスの取り出した本には、馴染みの深いタイトルが刻まれていた。実在の人物と歴史をモチーフにして創作された、事実のようでいて虚偽も交えた物語。

 一体、魔族側にはどの様に伝わっているのだろうか。興味が湧いた。

 まさか、人間達の間に広まっている様な、自分達の主である魔王が倒される不格好な話など作らないだろう。

 ならば、勇者が倒される話だろうか。アリスが心持ち構えて、拝聴の姿勢を取ると。



『むかしむかし、あるところに。世界を闇に陥れんとする魔王がおりました』

「―――――――――」



 出だしを耳にして、アリスは眉を跳ね上げる。

 それは、昔からの条件反射の様なものだった。



『魔王は世界の半分を支配し、万を超える魔族を従え、魔族の王として君臨していました。

 魔王である彼は、欲しいものを望めばいくらでも手に入りました。

 命令すれば、誰もが言うことを聞いてくれました。

 それこそ、みんなが憧れる不自由ない暮らしをしていたのです。


 けれど、それほどまでに恵まれていた魔王は、それだけでは飽き足りませんでした。

 何か、もっと面白いことはないか、と。

 そこで、魔王は考えました。

 自分たちとは異なる種族、人間をも支配しようと思い立ったのです』


「……っ」



 何だか、話がおかしな方向へ転がっていっている。

 アリスは、焦燥にも似た胸騒ぎを覚えた。ざわざわと、うるさいくらいに胸元から這い上がるざわめきは瞬く間に全身へと駆け抜け、脳を痺れさせていく。



『彼ら人間は、強大な魔法を振るい、圧倒的な力を持つ魔族とは違います。脆弱で、ろくに魔力も扱えぬ、愚かでちっぽけな存在でした。

 少なくとも、魔王はそう考えたのです。


「群れてしか行動できぬ、ひ弱で下等な動物よ。我らに恐怖し、ひれ伏すが良い」


 魔王は土足で人間を踏み荒らしました。

 欲しいものを片っ端から略奪し、物よりも酷い扱いを与え、人間を瞬く間に恐怖で潰してしまったのです』



 どうして、魔王が悪者みたいに描かれているのか。

 何故、そんな酷い物語を子供達は聞きたがるのか。

 それとも、やはり最後は勇者を倒して、世界を手中に収める話なのか。



『やりたい放題なのは当たり前。

 のさばり、人を人とも思わぬ所業。


 人間は、すぐに魔族――ひいては魔王への不信感を募らせました』



 いや。違う。

 そんなわけがない。



『けれど、逆らえばすぐに首が飛びます。

 不満があっても、耐えるしかなかったのです。

 最初はためらっていた魔王の配下も、次第に強奪と殺戮を繰り返す様になりました』



 クレスが。



『人間の国や、近隣の地域に住んでいた魔族たちも横暴の限りを尽くし、人々は日に日に追い詰められていき、自ら命を絶つ者も出始めました』



〝勇者様! 勇者様! 会いたかったです! 本当に会いたかったです!〟



 あんなに心をあけすけに剥き出しにして。

 体当たりをして好意を全身で伝えてくれた彼女が。



『そんな、真っ暗で、太陽さえも怯えて上がらぬ状況の中。


「魔王よ、お前の悪事もここまでだ!」


 日々繰り広げられる悪行に耐えられなくなった、一人の勇敢な若者が立ち上がり、単身魔王の城に乗り込んだのです』



「―――――っ」



 アリスが気分を害する様な話を、目の前でするはずがない。



『その若者は天に愛され、剣聖の名を欲しいがままにした屈指の剣士でした。

 駆ける姿は、一陣の風の如く。

 剣を閃かせるは、まるで闇を切り裂く清らかなる舞。

 剣を振るえば、澱む空気は一掃され。

 声を発すれば、死に絶えた光の塵が息を吹き返す。


 まさに、人間の『希望』そのものでした』



 勇者は、大衆に知られる物語の通り、魔王に立ち向かう。

 死を恐れず、果敢に悪に挑み、背には世界の希望を一身に背負って。

 正義の『勇者』は、悪の『魔王』を倒していく。

 それは。



〝なんかさ。なっとくいかない〟



 奇しくも、昔の疑問を呼び起こす。



『真っ直ぐで迷いのない一振りに、魔王は為す術も無く倒され。

 世界に、何年かぶりの日の光が雲間から差し込み、大地を明るく照らしました。


 それ以来、若者は『勇者』と称えられ、一国の王にまで抜擢されました。

 愛する人と結ばれ、幸せに末永い平和を築いていったそうです』



 しん、と一瞬の静寂。それは、アリスにとっては永遠にも感じられる気まずい間。

 ぱたんと、本を閉じる静かな音を合図に。



「勇者様、カッコ良い――!」



 わっと、大歓声が広場を満たす。

 熱狂に近かった。アリスが、圧倒されるほどに。



〝だって、これ。かんじんなことが書かれてないじゃん。子供だましだよ〟



 何故、今更。

 そんな風に思いながらも、過去に口にした自分の言葉が脳裏に響く。

 それは、今の状況がまさにその通りな気がするからだ。置き去りにされた本物の勇者を避ける様に、広場中が闊達な拍手で満たされていく。


「勇者様ってすごいんだね! たった一人で、みんなに笑顔を取り戻したんだね!」

「本当に強いよな。正義は勝つ、ってやつだ! おれも! おれも正義になる!」

「悪事は争いや憎しみしか生まないってことですよね。子供達にもいい教えになります」


 子供だけではなく、保護者までもがほのぼのと談笑している。今し方の勇者と魔王の話を、当然の様に受け入れている証拠だ。

 アリスには信じられない。

 魔王は、一国の主だ。魔族の尊敬すべき主君だ。

 それなのに、その仰ぐ主君が倒される不名誉な話を平然と受け入れ、あまつさえ称賛している。

 本来なら憎くて、悔しくて、悲しくて、情けなくて、――殺したくて仕方がないはずだ。

 なのに。



「この物語は、本当に色んなことを教えてくれました」



 何故――。



 疑問ばかりが埋もれる様に降り注ぐアリスの頭に、静かな声が響く。

 それは、出会った時から明るく、やかましく、元気で、煩わしくて、けれどほんの少し――ほんの少しだけ、心が洗われていく様な錯覚に陥らせる少女の声だった。



「汝、おごり高ぶることなかれ」



 読み聞かせる様に、胸に深く刻む様に、天を仰ぎ見る様に。



「決して上に立つことで慢心するな。人との触れ合いは大切にせよ。守るべき者がいる者は誰よりも強く、想いこそが大事な局面を左右する」



 少女は――クレスは、滔々とうとうと説いていく。



「強大な力は、一歩間違えれば蛇になり、己を見失う。心せよ。汝は、誰のために『在る』のか。今一度、内観せよ」

「……………」



 歌う様に流れ紡ぐクレスの言葉に、アリスは図らずも聞き入った。奏でられた旋律の如く、胸の中へと吸い込まれていく。

 それはアリス自身、何度も何度も父から言い聞かされていた言葉だったからだ。

 いつもふにゃふにゃ笑っていて、頭に花が咲いていそうな父ではあったが、腐っても父は勇者だった。



〝いいかい、アリス。私たちはとても強い力を持って生まれてきたけれど、それは決して自分のためだけのものではないんだよ〟



 上に立つ者は、いつだって民を一番に考えなければならない。

 力は、視点を変えれば暴力になる時もある。圧力になることもある。恐怖されることもある。

 時に、どれだけ心を尽くしても、怯え、遠ざけられることもあるかもしれない。

 それでも、忘れてはいけない。

 捻じ伏せられるほどの力を持つからこそ、忘れてはならない。



〝私たちは、誰のために『在る』のか〟



 この腕に、胸に、護るものを、護りたいものを強く感じること。

 そうすれば。



〝私たちは、間違うことはないよ〟



 ぎゅっと自分を後ろから抱き締めながら、常々言い聞かせてきた父。それを、ぶっきら棒な返事をしながら、深く胸に刻み込んだ自分。

 そんなやり取りを。


「昔、お父様が仰っていたんです。この勇者と魔王の物語には、様々な教訓が記されていると」


 彼らも、していたのか。

 お父様、という単語がクレスの口から上った時、アリスの顔が一瞬厳しいものに変じていった。しみじみと思い返しているらしい彼女は気付かなかった様だが、余計にアリスの胸に苦々しいものが広がっていく。


「私、最初はただただこの物語の勇者様がカッコ良くて、眩しくて。人々を虐げていた悪逆非道の魔王を退治して、幸せに導く勇者様がすごく素敵に思えて」


 絵本を抱きしめながら、クレスは空を仰ぐ。

 そこに、幼き頃の自分が映っているかの様に。


「いつも見上げていました」


 勇者様も、今頃この澄み渡る青空を見ているのか。

 どんな風に思いを馳せているのか。

 何を夢見ているのか。

 いっぱい、いっぱい、話がしたかった。


「そんな風に憧れてきた勇者様は、今こうして目の前にいます」


 くるんと、可愛らしく回りながらクレスがアリスに微笑む。

 その子供らしくも愛らしい笑顔に、アリスは何故だか真っ直ぐ受け止めるのが苦しかった。


「想像していた通り優しくて、凛々しくて、暖かくて。自分の至らないところも、きちんと指摘して導いてくれました。今日だって、昨日の今日で疲れているはずなのに、こうして付き合ってくれています」

「……、それは」

「私が城下の人達を紹介したいってわがままを言ったら、こうして足を運んでくれました。……私、一つ一つが嬉しくて、夢なら醒めないで欲しいって、ずっと願ってしまって」


 頬をうっすらと染めながら、クレスは今まで見たこともない、柔らかくて溶けそうなまでに相好を崩した。



「勇者様に会えたこと。私、一生忘れません」

「――――――――」



 その一言が、やけに耳に付く。あまりの純粋な視線と想いが、アリスにはひどく痛かった。

 何故、そんなに無防備に己の本音を丸裸に出来るのか。

 自分には無理だ。不可能だ。

 何故なら。



〝――カー、ティウス?〟



 ――俺は。ずっと、憎んできたから。



 クレスが「ふふふ」と絵本の裏に笑顔を隠す様が可愛かったのか、子供達にからかわれていて。大人達にまで「青春ねー」と悪戯っぽく茶化されているのが、見るに堪えなくて。

 アリスとは、別世界の居場所。

 鈍器で殴られた衝撃だ。脳が激しく揺さぶられる。痺れはいつしか麻痺に取って代わった。

 聞きたくない。彼女の話も。魔族達の讃美も。



〝アリス。今日は、私の――〟



 白昼夢みたいに前触れなく響く、父の歓喜も。

 何もかも、聞きたくなかった。


「勇者様?」


 背中から不思議そうな声が追いかけてくる。

 だが、知ったことではない。ふらりとベンチから立ち上がってしまえば、もうやることは一つだ。


「んじゃな」

「え? ……え! ま、待って下さい、勇者様!」


 なけなしの礼儀でひらひらと片手だけ振って退場するアリスに、クレスはぱたぱたと慌ただしくついてくる。「みなさん、また来ますね!」という別れの挨拶を忘れないあたりが彼女らしい。

 そんな風に思ってしまう自分も嫌だった。



 もっと彼らと過ごしていても良いのに。一人にしてくれ。今は、誰の声も聴きたくない。



 そんな風に思考をぐるぐると泳がせている内に、気付けば日が沈む頃合いになっていた。

 一日の黄昏を告げて燃え上がる日差しが、街並みを暖かなオレンジ色に染め上げていく。世界が一面に熱く、穏やかに、静かに、壮大に表情を変えていく様は圧巻だ。いつ見ても圧倒されるが、それはこの魔都でも同じだった。

 魔王の考え方や魔族の接し方に気圧されたから、余計だろうか。アリスの目にも耳にも心にも、この夕暮れの街並みの光はいつもよりも深く、静かに効いた。

 楽しかったと口ずさみながら、夕焼けの美しさを堪能するクレスに、アリスは物思いに耽る。



〝――アリスッ!!〟



 真っ赤に染まる視界が、目の前の雄大な自然の美を塗り替えていく。ほのかな、血の香で包まれる。

 目の前に広がる赤い景色を、アリスはただ淡々と見つめた。

 あれは、もう過去のものだ。過ぎ行く人生の、ほんの一部分でしかない。

 それなのに。



〝……無事、か、……な。アリ、ス……っ〟



 頻繁に思い起こされる。

 あの日の悪夢が終わらない。未だ縛られし呪いの様だ。


「……っ」


 くらりと、世界が傾く。

 天地が引っくり返った錯覚を起こしたが、実際は自分の意識が歪み、視界がぶれているだけだ。

 貧血を起こした様に意識が遠のきそうになったが、アリスはほぼプライドのみで押し止めた。魔王の前で無様な失態を見せるなどもってのほかだ。

 片手で目頭を押さえ、アリスは意識を現実に集中させる。もう八年も経っている。耳にタコが出来るほど己に説教した。

 なのに、こんなにも揺さぶられる。感情ごと、身体機能にまで影響が出るほどに。

 これで、あの名高い『勇者』を名乗るなど、恥さらしもいいところだ。


「なっさけね……」

「勇者様?」

「……って、うわっ!」


 予期せぬ場所から覗き込まれて、アリスは咄嗟に地を蹴った。すぐさま数メートルほど距離を取り、構えの姿勢を取ってしまう。

 が、すぐに後悔した。


「あ、あの。どうかしましたか? また、私、何か……」

「あー、……いや」


 クレスが分かりやすく悄然しょうぜんとしていくので、アリスはまたも泡を食う。何故こんなに喜怒哀楽が激しいんだと、毒づきたくなった。

 何と言い訳したものか。そんな風に知識を総動員させていると。


「……勇者様。よろしければ、夕食前に私の部屋に寄って下さい」

「……あ?」

「あ、迷惑でなければ、ですが」


 迷惑も何も、端からこちらの意向を無視しまくっていた奴が何遠慮してんだ。

 喉元まで出かかった雑言を寸でのところで飲み込み、アリスはだるそうに目を伏せる。

 ここで断ったら、更に面倒なことになるだろう。このたった二日で嫌というほど実感した。


「……構わねえけど」

「本当ですか!? じゃあ、早速です! 勇者様の気が変わらない内に!」


 ステップでも踏みそうな勢いで手を引かれ、アリスはつんのめった。おい、と文句を言おうとして口を噤む。

 触れた右手が、火傷でもしそうなくらい熱を帯びている。

 見上げてみれば、クレスの耳が少し赤い。つながる手からも、脈打つ音が伝わってきた。


「……、何、無理してんだよ」


 よほどの勇気だったのだろうか。思い至って、益々アリスの顔が歪む。もう文句も喉から下へ引っ込んでしまった。

 繋いだ手は、元気な印象に反してとても華奢だった。アリスが少し本気を出したら折れてしまうのではないかというくらい、細い。

 小さいんだな、とか。白いんだな、とか。自分よりこんなに細いのに、やけに力強いんだな、とか。どうでも良い感想が、鈍った意識の中にひび割れた旋律の如く流れていく。



 ――そういや。久しぶりに手とか繋いだな。



 母親は、自分を産んですぐに亡くなった。

 父親とは、「恥ずかしい」「つなごう」と押し問答しながら、結局手を繋いだりはしたけれど。



 ――他人と手を繋ぐなんて、初めてだ。



 ぼんやりと、そんなことを思いながら。アリスは手を引かれるままに、こちらを向かない彼女の背中を眺め続けた。


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