第5話「霜鳥晶の一番長い一日(その後)」

Chapter A-4


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「お疲れ様でしたー、お先に失礼します」

「おつかれー。霜鳥さん、明日から工事で二週間お休みなの忘れないでね」

「はーい、予定が変わったらメールください」

「了解、またね」


時計を確認すると12時前……店長に挨拶してお店を出ると、花鶏さんがスクーターに横座りして待ってくれていた。


「花鶏さん、お待たせしました」

「お疲れ様、今日ぐらいお休みされてもよかったのでは」

「今日は〆のシフト入っていましたし、色々ありますから……」


あの後、飼い主の女の子に電話をして伝えるとすぐにやってきて、彼女は大声で泣いた。

私はもらい泣きしてしまい涙が溢れてしまった。花鶏さんも同じらしく、目元をずっとハンカチで抑えていた。

美柑ちゃんはというと……


「私はまだ、やる事がありますから」


と言い、虎猫さんの言葉を伝えたあと、飼い主の女の子を宥めながら一緒に庭の片隅に埋葬した。


「人と違って、動物さん達は短命ですからね」


穴掘りで土まみれになった手を洗いながら苦笑いしていた美柑ちゃんの横顔は、歯を食いしばっているようにも見えた。

強い子だ……そう思っていたけれど、迎えに来た花鶏さんの家の車の中で美柑ちゃんは私の膝の上で声を殺して泣いた。


「ごめんなさい、約束だから……今はこうさせてください」


彼女の言う「約束」が何なのか、私には判らない。

けれども危険を抱え込んで、自分にとって財を得る訳でも、名声を得る訳でもない「魔女」を続ける理由なんだと思った。


「花鶏さんは、どうして魔女をしているんですか?」


こんな質問に、彼女はきょとんとした表情をする。


「詳しくは教えられませんけれど……一つは私にしかできない事がある、からですわ」

「そうですか」


花鶏さんも美柑ちゃんも、理由の一つにはそれがある。


「霜鳥さんはどうして魔女になったのですか?」

「私は……教えられませんけれど、一つは花鶏さん、美柑ちゃんと同じです」


-お母さん、私はセレクトさんにしかできない事で救われた、だから私も自分にできる事をしていこうと思います。



私は彼女達が「道玄坂の魔女」として、どう向き合っているのか、なんとなく判った気がした。


そのあと、セレクトさんへの報告を花鶏さんと美柑ちゃんにお任せすると、私はバイト向かっていつも通りの仕事をこなす。

眠いし疲れていたけれど、不思議とやる気だけは充満していて、いつもより元気だと言われた。


「セレクトさんから、いつでもいいから顔を出すように、との事でした」

「はぁい、了解いたしました」


花鶏さんがヘルメットを差し出すので、受け取る。

電車はまだ動いているけれど、どうやら送ってくれるらしい。


「あっ……」

「?」


ヘルメットのストラップをつけていると、花鶏さんが何かを言いかけて俯く。


「どうかしましたか?」

「いっ、いえ……なんでも……うまくはまりませんか?」

「はい、慣れてなくて……」

「あっ……晶さん、首を上げてください、私がつけますわ」

「はい……はい?」


聞き間違いで無ければ、花鶏さんは私の事を「晶」と呼んだ。


「花鶏……さん?」


彼女は俯いたまま、ストラップをつけて、ぼそりと呟く。


「わっ、私だけ名前で呼ぶのはっ、おっ、おかしいですわっ……だからっ!! 私の事もこひめと……」


今日は本当になんていう日なのだろう。

天使に追いかけ回され、案山子に殺されかけ、学院中の注目を浴び、悲しいけれどすごいものを見て……道玄坂の魔女になった。

今日の事は一生忘れないと思う。


「はいっ、小姫さん……」


こうして「道玄坂の魔女」霜鳥晶の事件簿は幕を開けたのでした。

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