第29話 「Joker」から見る社会問題ー(4)-

(4)暴食の大衆―エリートの権威が形骸化する―


前回はエリートの話を前々回は大衆の話をしたわけだが今回はこれらを複合した話になる。大衆は日に日に拡大している。それは大衆が憧れていたかもしれないエリートにまで至る。エリートと呼ばれる人たちも全てがそうとは言わないが着実に意識を大衆に飲み込まれている。一番主体性を持たねばならない。もっと言えばそれが望まれるがゆえに尊敬されるはずの彼らが大衆意識の中にいるということはエリートがエリートではなくなったことを意味する。指導力を持たずただ追従するだけの群衆が指導力を発揮するべき少数側にまで入り込んできたというのはいよいよ破滅へのカウントダウンも近いということだ。エリート側にもその自覚がないのが呆れてしまう。映画の中で殺されたエリート層の連中もエリートという立場上分裂の中にあったが、その内面は全然違う。殺された3人は立場上、エリートでも内面は大衆側だ。その権威を盾に自己の欲求を果たそうとし上から目線で下の人間に絡む。それは根が大衆的だからこそのものだ。大衆化したエリートほどたちが悪いものはない。分裂した大衆の一部同じ性質を帯びているが権威を持っているがゆえにより傍若無人な振る舞いをする傾向がある。どれだけ高学歴でも「馬鹿」だと言われる行動をとるのはそこに原因があると考える。彼らの一部は大衆と内面が一緒なのだ。その共通点は群れをなすという部分・権威に弱いという部分・そして無関心だ。案外群れないエリートは組織内で浮いてしまうかもしれないがそれは主体性があると言う点でエリートだろう。殺された3人は弱者に対し無関心であり自分が強者であることをわかっていた。主人公に暴力を振るうわけだがその時彼らがそれをしても自分たちは許されると思っていたならそれは権威に甘えていたということだ。これはクズの所業だ。しかし、彼らはそうは思っていない。このように社会はその立場によって全然倫理観が違うのだ。例えば先月発覚した教師間のいじめ問題。生徒間のイジメと教師間イジメは例え内容が近くてもそれが意味することはまったく同じではない。まだ精神が未熟な未成年のやることと成熟し一定の社会経験も積んだ成人のやることが同じということは大変遺憾な話である。いじりとイジメのボーダーラインは曖昧で判別しにくいが大人であればやはりそのストレスのはけ口を他者に求めるのはよろしくない。しかも教師と職業が持つ意味を考えれば許されることではない。しかし、私はイジメという社会問題をなくす手法はその発生する構造を破壊するしかないと考えている。これは組織がある限り発生する可能性が常にあるということでなくすことができないと考えていることと思ってもらっていい。今の人間は大変自分に自信がなく自分の裏付けを社会的な立場に求める。それは悪いことではないのかもしれないが寂しいことだとは思う。自分の社会経験が自信になるのではなく他者からもらった肩書きが自信になるということだからだ。自分の自信を自分に求められない人生はいい人生なのだろうか。一部のエリートに主体性がなくなった今、彼らも肩書きと収入を権威にしてその立場に甘んじているのだろう。これほどまでに堕落した社会・エリートの大衆化・権威の失墜を感じた作品というのは私の知る限りあまりない。昨今の報道と合わせてみればエリートたちの大衆化は如実に表れており防ぎようのないことなのだろう。タレント化した東大生、収入重視の異性関係、拝金主義が強まり金に飢える人々、衆愚化した政治・経済。これを悲観せずしてどうするというのか。しかし、私はこう分析しても大衆はエスタブリッシュメントに社会の乱れの原因を求める。社会参加してこなかった自分たちではなく部分的に汚れていたエスタブリッシュメントに清廉潔白を求め少しの汚れを許さない。その癖自分たちの細かな不正は気に留めない。これほどまでに傲慢に権利を主張し果たすべき義務に対して否定的な連中が社会の大多数に存在することを恐怖しないわけがない。彼らの責任転嫁の風習は忌むべきものであり恥じるべきものだ。映画の最後、彼は象徴となり暴徒化した群衆の中でその名声を称えられる。無秩序になったことで人が褒められるなんてことはありえない。しかし、あの世界では現実だった。例えフィクションでもその風刺は多くのことを意味しているのだ。

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