第4話 春着【はるぎ】

心って

みぞおち辺りにあるのかもしれない......。


そんなことをぼんやりと考えているうちに

自宅に帰りついた。


楽しみにしていた仲間内だけの同窓会。

といっても、たった半年だ。

半年前は、まるで小学生みたいに、

それも相当アホな部類の小学生みたいに

みんなで笑い転げていたのに......。


笑えなかった。


みんな、それほど変わった様子もなく、

私自身、変わったつもりもない。


それなのに、何故だろう。


つまらない台本を

みんなで楽しげに演じているみたいだった。

そして私は、そんなみんなを

ガラス越しに眺めている

そんな感じ。


どうしよう。

みぞおちの辺りが

キュゥーってなる。


淋しい。


あんなに大好きだったのに。

みんなといる時間も

みんなのことも。


淋しい。とっても。



ボイジャータロットが

教えてくれたヒント

『 ⅩⅢ / Death( 死 )』



淋しいわね。

わかるわ。


着なれたお気に入りの洋服は

なかなか手放せないものよ。


例え、その服が

今の自分には少し小さいなって

感じ始めたとしても。


あなただって、気づいているのよね。

仕方のないことだって。


成長することは止められない。


そのスピードだって、みんなで仲良く

手を繋いでって訳にはいかないもの。


変わったことが悪いわけでも

変わらないことが悪いわけでもない。


それはもう、仕方のないことで、

受け入れるしかないことで。


今までの価値観を、今までの制限を

自らの手で解放し、新しい流れに乗らなければならないの。


それは、とても心細く、

寂しいかもしれないけれど、

チャンスなのよ。


新しい自分を創り上げるチャンス。


執着心を切り離して。


思いきって手を離せば、

次に掴むべきものが見えてくるわ。


大丈夫。

きっと、大丈夫。



..................。



ぼんやりと

聞くともなく、その声を聞いていた。


そういえば、昔、子供の頃

「正月になったらこれ着んさい」といって

母が春着を用意してくれた。

といっても、和服というわけではなく、

正月に着るための、新品洋服のことだけど。


私、本当は

着なれた服の方が好きだったけど、

それでも新しい洋服に袖を通すと

いつも背筋がシャッキリと伸びたっけ。


そして、お気に入りの着なれた服は

そっと箪笥にしまったんだ。


あぁ、これが

大人になるということなのかな。


まぁ、そうね。制服だってそうよね。

いくら気に入っていても

そのまま着ていたくても

卒業するときが来たら脱がなきゃいけない。


そして、大人になった今、

卒業のタイミングは

自分で決めなきゃいけないんだ。


そのサインだったのかもしれない。


ピンポーン。


そのとき携帯にメッセージが届いた。


次に携わるプロジェクトの

クライアントからだ。


意識を切り替える。


立ち止まってはいられない。


私が未来を見つめて前進し続ける限り

私の世界は広がっていくんだ。


そして、きっと、みんなの世界も

私とは別の方向に広がり始めている。


そうね。いいかもしれない。


それぞれに別の場所を見に行ってきて、

いつかまた、みんな、

笑顔で報告しあえたら、それで、

いいのかもしれない。


ありがとう。

かんばろう。


また、会いたいから。


Chiika🌺

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