第1話 Christmas【クリスマス】


記憶の扉は意思を介さず

突然開いては私を戸惑わせ、

慌てて閉めたのならその拍子で

別の扉が開いたりするものだから

実に厄介である。


あぁ、それならば

慌てて閉めたのがいけなかったのであろうと

物音ひとつ立てぬよに

それはそれは慎重に閉めてみても、

バンと大きな音をたて、

やっぱりこれまた

別の扉が開くものだから

まるで往年のコントのようで

私は呆れるでもなく途方に暮れて、

ただただ狼狽するのであった。


あぁ、なんで

今その記憶が頭をよぎるのか。


きっかけでもあれば致し方なく

諦めもつくのであろうけれど


あぁ、なんで

なんで、今。


次から次へと飛び出してくる

思い出へと昇華することのできなかった

記憶と呼ぶより他にない

厄介な過去の副産物。


私はこれから先も

これらの記憶に

支配されながら生きるのだろうか......


ボイジャータロットが

教えてくれたヒント

『sage of crystals / Knower(知恵の人)』


つらいわね。

記憶に支配されているという感覚。

わからなくもないわ。


自分ではコントロール出来ないことを

抱えて生きるのは、非常に困難なことね。


ただ、思いがけず開く記憶の扉に対して

対策をとることはできる。

そうは、思わない?


でしょ? それならね、

そのためには、記憶についての認識を

多角的にする必要があるわ。


思い出してみて。

不意をついて飛び出す記憶以外のものを。

あなたの中には、これまで

月日を重ねてきた分だけの記憶が

しっかりと蓄積されている。

それらは、自ら、その扉に手をかけて

開けなければ見つけられないものが

ほとんどかもしれない。

ただ、ひとたびその扉を開いたなら、

その扉の先に閉じ込めた記憶の煌めきに

目を細め、微笑むに違いないわ。


大丈夫。煌めく記憶を閉じ込めた扉を

知ってさえいれば。


過去の苦しみに襲撃されても

どんなに芋づる式に

つらい記憶が飛び出してきても

あなた次第で、

煌めく記憶の扉を開けることは

可能なのだから。


『記憶は

元々あなたの中にある』


そうとも言われているのよ。

私たちはいろいろな体験をして、

過去の記憶を思い出し、技術や英知、

経験をこの世で広く使い、

社会に貢献しながら、

自分の中にある

ダイヤモンドの原石みたいな記憶を

更に掘り起こして、磨いていくの。


つまり、あなたの中にはまだ

煌めく記憶になる原石が

ごろごろと転がっているはずなのよ。


視野を広く持ってみて。


大丈夫。きっと、大丈夫。


..................。



天使の声を聴いたのかと思った。


しかし、その声はどこか懐かしく、

そして確実に

心の奥から語りかけているのだと感じる。


ああ、クリスマス。

もうすぐ、クリスマスか......。


昼間は寒々しくみえた、

葉を落とした木々が、

夜にはイルミネーションの煌めきを纏い

華やぐ季節を彩っている。


ああ、私の

枯れ木のようにみえる記憶も

たくさんの煌めきに

紛れる日がくるのだろうか。


今は、まだ分からない。


ただ、今はただ、

目の前に広がるこの、

暗闇を彩る無数の煌めきを、

しっかりと心に焼き付けておきたい


そう、思ったんだ。


Chiika🌺

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