ドタバタ後編

聞き慣れてるはずの予鈴に終始ビクッとしながらも放課後を迎えた。

今朝のせいで外部音にすっかり変な条件反射が付いてしまっている。

これからの学校生活、大丈夫だろうか……?


さらに加えて、今日は授業も全く身に入っていない。というか授業中はおろか教室にいることさえ苦痛だった。

なぜって、八坂がずーーーーーーーーっと怨嗟の眼差しでこっちを見ていたから。それはもうずーーーーーーーーっと。

途中で小さく何か呟いているようでもあったから、もしかしたら呪いの言葉でも掛けられていたかもしれない。

そんだけの高濃度な負の感情を向けられてたら平常心なんて辞書から消えちゃうでしょ?多分我輩の辞書にでお馴染みのナポレオンだって驚く。

まだ2年生の1学期なのに……これからの学校生活、ホントに大丈夫であろうか!?


幸い当事者は三姫含め4人しかいないし、八坂本人がこんな事言うはずもないから変に噂とかは広がってない。

椎名、郡上は俺の近くにいてなんとなく事情を分かってるっぽく、二人とも何か特別なリアクションは今のところない。

まだその点では俺の学校生活はまだ終わりではないのかな。

八坂にはもう殺されそうな勢いだけど……。


そんな一日を過ごしてしまったもんだから、メンタルへのダメージはもう致死量間近。

しかもそんな日に限ってバイトが入ってんだから儘ならない事この上ない。

でも、親元離れて一人暮らしで学生生活を送る俺にはバイトはライフライン。何があろうと休むことは出来ない。

気持ちを切り替えて仕事を全うしようじゃないか。



……と、そう思っていたのがほんの数十分くらい前。

気持ちを入れ替えてバイトに励もうとしていた俺のその志は脆くも崩れ去った。

なぜって?

それはバイト先であるこの喫茶店になぜか八坂がいるからだ。

おそらく偶然などではない。

その理由は二つ。

一つは、お洒落なカフェじゃなくレトロな喫茶店にギャル系の八坂が似つかわしくない事。

もう一つは、お客様という雰囲気を一切出さずに俺をジト目で見続けているって事。

後者がもう決定的。明らかに俺が目当てのご様子。


「……」


席には座っているが特に注文とかをする様子もなく、ただひたすらに俺を視姦している。シチュエーションだけで言えば役得なのかもしれないけど、視られているその理由に心当たりがあるだけにどうにもやるせない。

とにもかくにも、このままじゃ埒が明かないからまずは接客だ。無理なくやりたいけどそうも言ってられない。仕事はせねば。


「いらっしゃいませ。何かご注文はお決まりですか?」

「……特に」

「ご注文なしですか?」

「あんたになら注文はあるけど」

「!?」


拍車のかかるジト目が俺の顔を覗き込んでくる。


「お、お水お持ちしますねぇ~……」


友好感が皆無ですが!?

嫌疑。軽蔑。不信。それらが混ざり合ったような視線が俺のあらゆる感覚器に突き刺さってくる。

思わずその場から一時離脱を強いられてしまった……。

喫茶店は本来コーヒーブレイクをするとこなのに、今ので俺のハートがブレイク寸前だ。

でも従業員である以上このお冷は持って行かなければならない。

なぜ水一つ持っていくだけでこんなにも腹を括らねばならないのだろうか……?


「お水です。どうぞ」

「……ねぇ」

「え?はい」

「今朝のことだけど、誰にも言ってないよね?」


女子らしからぬ目で俺を睨む。なんというかもうヒットマンのような眼光だ。

クラスのアイドル的存在である三姫のこんな姿そうそう見れるもんでもないんだろうけど、そもそもこんな姿見たくはない。

夢は夢のまま見ていたいのが多感なクラスメイトとしての願いだよ。


「ねぇ?」

「えーっと、もちろん言ってない」

「何その間。怪しんだけど」

「いやホント言ってないって」

「ホントにあたしの胸触った事誰にも言ってない?」

「ちょ、ちょい!ここ職場!社会の現場!話題と声の大きさを考えて!」

「知らないよそんなの。あたしだって胸触られてずっと穏やかじゃないんだから」

「ちょーい!」


周りにいた他のお客さんが何人かこっちを見る。

内容というか俺のリアクションの方に反応したっぽいけど、こんなの続いたら俺の身がもたない。


「言ってない!ホントに言ってないから!とりあえずここでするような話じゃないからその話題は後日話そう!」

「は!?ここでするような話じゃないって、これはあたしにとったらとんでもない問題なの!死活問題なの!!」


ヤバイ……。変に油を注いでしまった……。

俺の願いとは裏腹に強めの怒声が店内に響き渡ってしまう。

これをどうにか出来るトラブル対応マニュアルがあれば是非とも読みたい気持ちだ。


「す、すまん。俺の失言だった。謝る。だから一旦落ち着いてくれ」

「……もう!」


物凄い勢いでそっぽを向かれたけど、一先ず大炎上は免れたみたいだ。

それでも不服たっぷりな様子の八坂。どうにかして宥めないといけないんだろうけど、とりあえず零れてしまったお冷を取り換えに一旦俺はカウンターに戻る。


マズイな。それにしてもマズイ。

元々、クラスメイトってだけでそんなに面識があるわけじゃないのに、こんなにも問題が拗れてしまっているのは非常にマズイ。

関係性が希薄な中でマイナスをプラスへ修正するなんてもうそれは至難の業だ。しかもたった今マイナスポイントを累積してしまったばかり。

つまり、この時点ですでに窮地に立たされている。

そしてさらに。ここまで考えないようにしていたが、この他にマズイことが実はもう一つ。


『『『とつぜんのじゅうだいはっぴょうにごようじん』』』


業務を邪魔するかのように響く警告音。

そう。ここに来てからこれがずっと俺に訴え続けてきている。

本日三度目。もう頭が痛い。

どうにかこうにか気にしない方向でここまで頑張ってたけど、今の八坂とのやり取りで自制が完全に切れてしまった。もう気にしないっていうのは無理だ。

そもそも何なんだよ『突然の重大発表にご用心』って。せめてもっと具体的に教えてくれよ。

八坂が来てる今のタイミングじゃこの文言は恐怖でしかない。


「ねぇ覚士くん」

「え?あ、なんですか明日香さん?」

「さっきどうしたの?」

「さっき……あぁ。いやちょっとクラスの子が来てまして」

「……あの子?」

「はい」

「さっきからだけど、なんであんなに覚士くんのこと睨んでるの?」

「いやぁ、まぁ、ちょっと」


いつものように表情筋を全く動かさずに話をする明日香さん。

無表情ではありながらも語調は驚くぐらいナチュラルなもんだから、初めの頃はそのギャップに慣れるのに一苦労だった。

でも慣れちゃえば面倒見のあるお姉さんだって分かって、今となっては頼れる良い先輩だ。


「私行ってこようか?」

「えっ!?いや、いいですいいです!」

「あれだと他のお客さんの迷惑にもなりそうだし」

「大丈夫です!なんとかしますんで!」

「うん?どうしたんだい?」

「あ。マスター。あそこにいるお客さん追い出していいですか?」

「えぇ?どういうこと明日香くん?急にそんなのはダメだよ」


平板な表情から繰り出される好戦的な言葉にマスターも困惑している。

意外と負けん気が強い明日香さんは物怖じせずにこういう事をよく言うタイプで、いつもそれにマスターがたじろぐというのがこの店の定番でもある。


「なにがどういうことなの鏑木くん?」

「いやちょっとありまして……」

「あのお客さんが覚士くんに突っかかってたから追い払おうかと思って」

「そうなのかい?いやでも、それだけでお客様を追い払うのは早計過ぎるよ明日香くん」

「マスターが消極的じゃ困ります」

「い、いやでもねぇ……」

「わーストップストップ!俺が当事者なんでちゃんと処理してきます!だから明日香さん!そんなにマスターを圧迫しないでください!」


表情がないから逆にそうなのか、明日香さんの詰め寄りは問答無用で気圧される。

マスターよりは一回りも離れているのに、明日香さんはあまり関係なく毎回マスターを悉く圧迫していく。

上下関係≠力関係ではない構図。優柔不断気味のマスターは明日香さんには頭が上がらない事が多い。

でも今回の当事者は俺。マスターは完全な流れ弾なわけなんだから、ここはちゃんと俺がなんとかせねばいけない。

それに、八坂をこんな形で追い出したら次に学校で会った時に何を言われるか分かったもんじゃないしな。

てな訳で半ば勢いに任せて危険必至の地雷原へ再び向かうが、その間も上の掲示板はうるさく音を鳴らして点滅し続ける。

目障り耳障りが半端ないけど現状俺に打つ手は何もない。

もう郷に入れば郷に従えだ。その重大発表とやらにご用心したろうじゃないか。


「代わりのお水お持ちしました」

「……」

「……」

「……あのさ」


早速来たな。


「さっきはおっきな声出してごめん。でもバレるのはホントにヤバイの……」


あの胸の事だよな。


「最初は出来心だったの。でも次第に周りの期待がどんどん大きくなっていって」


それで比例して胸も大きくしていったって事?


「ホントはAなのに気付いたらHにまでなってたの」


Aだったの!?それをH!?まさかの7段階盛り!?

女子のそういう事情はよく分からんけど、それはかさ増しし過ぎじゃないのか?

これが重大発表……いや、ぽくはないな。


「三姫なんて言われて気持ちよくなってた部分もあるかもだけど、もう全然あとに引けなくなっちゃって……これがバレたらあたしの高校生活終わっちゃうじゃん……!」


確かに三姫は今じゃクラスの絶対的存在だ。学校全体で見たってかなり株価は高い。

その地位を確立するに至ったアイデンティティーが実は完全な偶像だったと知れ渡れば、八坂の株価は瞬く間に大暴落するのは火を見るよりも明らかだ。


「だからさ……」


八坂の言葉に何か重みを感じる。

これは用心か……?


「あたしと付き合わない?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……え?」


なんだ聞き間違いか?付き合わないかとかって言われなかった今?


「え?え?今なんて……?」

「だから付き合わないって」

「え?ド突き合う……?」

「いや言ってないし。付き合わないって告白してんじゃん」


告白……告白!!??

聞き間違いというか、その単語自体に聞き馴染みが無さ過ぎて言葉がうまい事入ってこなかった!

どういう事だ?八坂が俺に?えっと、どういう事だ!?


「いやいや!どういう事!?」

「だって、恋人同士になっちゃった方が秘密の共有できそうじゃん」

「秘密の共有って、それは恋人というか共犯と言うんじゃ」

「違うし!何も悪い事はしてないから共犯とかじゃないし!えっと、なんだっけ……そうそう!共同体!共同体だし!」


なるほど。意図は分かった。

要は秘密を公言されないよう密接な関係になることで、俺が簡単に口を割らないよう管理したいって事だな?

そりゃ八坂が俺みたいなのに本気で愛の告白なんかはしないわな。言ってみれば政略交際を提案してきてる訳だな?

……なんか分析してて悲しくなってきたけど概ねそういう事だろう。


「うーん」

「え?なに?あたしとじゃ不服なわけ?」

「いや不服とかじゃないんだけど、多分この告白には恋愛感情は入ってないよね?」

「うん。ないかな」

「うっ……ハッキリ言うね。まぁいいんだけどさ。でも秘匿が目的なら別に恋人になる必要性はあまりなくないか?俺が喋らなきゃいい話だし」

「だから喋らないってのが信用できないの。うっかり漏らしちゃうとかもあるじゃん」

「恋人だからイコール信頼度高いともあまり思えないんだけどなぁ。それなら友達っていうのでもさして変わらない気が」

「なんなのさっきから。あーだこーだって、やっぱあたしと付き合うのが嫌なわけ?」


そんなことはない。嫌なはずがない。

理由に打算しかないとは言えあの三姫から直々の申し出だぞ?そりゃ宝くじでも当たったような感覚だ。

でもだからか。美味しい話にはどこかでツケが回ってくるんじゃないかと勘繰ってしまう。

保身。それが二つ返事で首を縦に振れない俺の理由。

こんなんだから青春を謳歌できないんだよ。

自分でも分かってて、それはそれは惨めになる。


「全然嫌とかじゃないんだよ!ただ恋愛感情もないのに付き合うって、八坂にメリットがあるかどうかも疑問だし」

「……別にメリットだけでこんなこと言ってるんじゃないんだけど」

「え?ちょっと小声で聞き取れなかったんだけど」

「と・に・か・く!秘密がバレるのは何がなんでも阻止したいから、今ここでちゃんと返事ちょうだい!」


昂る感情と連動して八坂がテーブルを乗り越える勢いで身を乗り出し、互いに息がかかるぐらいの距離まで顔が近付く。

予想以上に近い顔と強制見つめ合い状態に、驚きと照れが同時に襲い掛かって来る。

そして。今もなお主張が止む気配がない掲示板。

重大発表ってこれの事を言ってるのか?この返答に対して用心をしろって事か?

そうだとすると、正解はYES……?NO……?


「えーっと……」

「どっち?」

「うーん……」

「ねぇ」

「そのー……」

「もう!焦れったい!早く!」

「すいませんお客様。少々静かにして頂けますか?」

「「!?」」


俺と八坂のインファイトを打ち消すかのように、明日香さんが俺らの傍らに立っていた。

まるで気配が無かったから素で驚いた。

それは八坂も同じだったようで、少し体を仰け反るようにして明日香さんに驚いた視線を遺憾なく送っている。


「な、なにあんた?」

「他のお客様もおりますので静かにして頂かないとご迷惑です」

「関係ないじゃない」

「あと、覚士くんにも迷惑です」

「は!?」

「ちょ、ちょっと明日香さん?」

「さっきから聞こえてましたけど覚士くんに一方的過ぎじゃありませんか?」

「え!?き、聞えてたってどこが!?」

「付き合うだのなんだのってやつです」

「あ。そっちか。はぁ~~~」

「とにかく覚士くんに付き纏うのはやめてください。覚士くんにも選ぶ権利が当然あるので」

「は、はぁ!?」


表情がコロコロ変わる八坂と無形の明日香さん。

対極の二人の間にいる俺は、まるで赤道にでも立たされているような気分だ。

後輩の俺を心配して明日香さんが出張って来てくれたんだろうけど、事態は悪化の一途を辿っている気がする。

いや。辿ってる。


「なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないの!?関係ないじゃん!」

「関係あります。バイト仲間が絡まれてたら助けます」

「絡んでないし!てか、大事な話をしてるだけだし!」

「そういう風に見えなかったからこうして言ってるんですよ」

「見える見えないじゃなくてホントに大事な話をしてたの!部外者は入ってこないでよ!!」

「お店にいる以上スタッフは部外者じゃないです。迷惑行為を止めるのは仕事の一つです」

「いぃぃぃぃ!!!」


……無理です。止められません。

さっきまでは地雷原だと思ってたけど、急転してこんな白兵戦になるとは思わなかった。

避難したいけど、一応この渦中にいる俺はそれは許されないと思う。

ダメ元でマスターに視線でSOSを送ってみたけど、コンマ何秒の反応で首を横に振られた。

救援は絶望。俺にはもう経過を見守る事しか出来ないと思う。


「迷惑迷惑って、あたしそんなに迷惑だった!?」

「え?」

「だったの!?」

「えっ、いや、その」

「困ってるじゃないですか」

「そうなの!?」


見守ると決めた刹那に引きずり込まれた。ここにいる時点で安寧はないみたいだ。

顔を紅潮させ詰め寄る八坂。そこに淡々と視線を送る明日香さん。

俺は今、おそらく銃口を押し付けられているのだと思う。


「迷惑って言うか、思いがけない事を知ってしまってどうしたらいいか悩んでるっていうか、急に告白されてテンパってる部分もあるというか……なんというか……」

「ほら!迷惑とは言ってないじゃない」

「迷惑そうにしてるのは明白です。特にその告白っていうのが」

「なんで私の告白が迷惑なのさ!?自分で言うのもなんだけど、これでもかなりモテる方なんだから!モブっぽくて誰とも付き合った事無さそうなあんたとは全然違うんだから!!」

「モブとか関係ないですし、私はちゃんとお付き合いもしてます」

「どうせ冴えないヤツでしょ!」

「冴えないかどうかはよく見て下さい」

「え?」


明日香さんが徐に指を指す。

その先を辿ると、顔を青褪めさせて尋常ない汗をかくマスターがいた。


「……え?明日香さん、マスターと付き合ってるの?」

「うん」

「いや、初耳なんですけど……」

「初めて言ったから」


淡々と暴露する明日香さんの延長線上で、青褪めたままのマスターがなぜかゆっくりと首を左右に振っている。


「ふん。やっぱり冴えないじゃない」

「普段は冴えなくても男らしいところはあるんです」

「どこが?」

「そうですね。強いて言うなら夜なんかが特に」

「ちょいストップ!職場仲間で年上二人のそういう話は後輩からしたらちょっと聞けないです」


明日香さんも表情からは汲み取れないけど少しムキになってるのか、助走なしの暴露トークに俺は慌てふためる。

しかもそのまま艶めかしい話に突入しそうでなお危なかった。友達ならまだしも、職場仲間のそんな話はおそらく耐えられない。


「ここはお互いクールダウンしましょう」

「……ごめん」

「いやいいんですよ。勢いなんて誰にでもあるもんだし」

「いやそうじゃなくて。覚士くん。年上って私?」

「え?はい。そうですけど」

「私、覚士くんの年上じゃないよ?」

「え?何言ってんですか。もう冗談疲れしそうですって」

「全然冗談とかじゃなくて」

「え……?年上じゃないんですか?」

「うん」

「え?もしかして同い年?」

「ううん」

「え?え?明日香さんいくつですか……?」

「13」

「「は!?」」


おそらく八坂も俺と同様の認識をしていたんだろう。店に俺と八坂の綺麗にハモった驚嘆が響き渡る。

え?どういうこと?13?明日香さんが?

いやいやいやいや。確かに女性にそれを聞くのはって思って直接は聞いて来なかったけど、13はないでしょ。明日香さんは完璧22でしょ。そういう風貌だもの。絶対年上でしょ。

……でしょ?いや、そうじゃないと色々おかしい事が出て来るんだけど。特にマスターとお付き合いしてるって件がスルー出来ない案件になると思うんだけど。

冗談ですよね?っていう気持ちでマスターの方を見ると、あの名作ボクシングアニメの1シーンのように椅子にもたれ掛かって白く燃え尽きていた。

おいおい。その姿でもう物語ってるじゃねぇか。


「ちょ、ちょっとあんた。ホントに13?」

「そうですよ?」

「ホントにマスターあの人とつきあってんの?」

「ですね」

あっちもしたの……?」

「?。はい」

「マジ……?」


質問を重ねる度に顔が引きつる八坂。

うん。八坂は常識も倫理も分かるギャルだったようだ。

そして俺も、今どんな顔でどんなリアクションを取ればいいのか完全に見失っている。


「どうしたの?」


そんな俺ら二人を見て首を傾げる明日香さ、いや、ちゃん。

この様子だと事態のレベルに気が付いていない。てか、おそらく事態そのものを知らないんじゃないか?

無知で無垢。だからこそ、この会話が丸聞こえで店にいる他のお客さんまでもが全員こっちを向いて目を見開いている事に気付いていない。


「すうぅー…………………………マァァァスゥゥゥタァァァーーー!!!」


その日一番、いや、人生で一番の雄叫びがまさか「マスター」とは俺も思いはしなかった。

気付くと頭上の警告音を止んでいて、いつのまにか済の文字がもう打たれている。

そして、どこからともなく聞こえ出す『蛍の光』。この店のじゃなくおそらく俺にしか聞こえていないやつだ。

すると、掲示板の文字が一度消えそこから再び文字が浮かび上がってくる。


『強肩に襲われる』

『学校で胸囲ない女子からの一撃』

『突然な十代発表にご用心』


あー、答え合わせかな……合わせられるかぁ!!!

なんだ最後!?十代発表!?分かるか!!!ご用心のしようもないわ!!!

なんなんだよもうーーー!!!


最後は心の中だけに止まらず、叫びが口から飛び出ていた。

後日。

用心をする事が出来なかった俺は、不用心に不祥事を起こしたバイト先を失い、結果ライフラインも失った。

現在は絶賛もやし生活中。

栄養が足りてないからか、学校での居心地の悪さのせいか慢性的に頭が痛い。

そんな中でも鳴り響く警告音。

もう碌なことが起きる気がしない。

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ドタバタぷろじぇくしょん 結城あずる @simple777

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