彼女は待っている。
スミンズ
彼女は待っている。
セックスが気持ちいいのは、もしセックスが苦痛を伴うものだとしたら、だれもセックスをしたくなくなり子孫を残せなくなるからだ。
そんな説を聞いたところで、まだ童貞の僕には些かため息の出る話だった。
気持ちよくなって子供を産むなんて贅沢なことだこと。
そんな皮肉めいた思いを心のどこかにしまいこんでしまった。
だが確かにセックスがただの苦痛でしかなかったら、淫らな事件やいかがわしい商売も消えてしまうのだろう。それはある意味良いことではなかろうか?
僕はそれから、セックスが苦痛を伴うものであればいいのにと、また心の中で願ってしまっていた。だが事実、大学に入る前にもう童貞を卒業している奴らは、その気持ちよさゆえセックスを何度もヤっていたと言う。
不公平だ。そう思った。セックスは恋愛のしるしと言うけれど、子供産むわけでも無しに、コンドーム付けて安全に気持ちよくなっているのが、何かと不公平だ。
単刀直入、そういう経験のない僕にとって、コンドームを付ける奴は悪者だ。
と言った僕だが、明くる日に女の子を抱いていた。その女の子は大学2年の同級生。
僕が初めて愛した人。僕を初めて受け入れてくれた人。
そんな人からのセックスの誘いを、まさか断れる訳が無い。僕は、昔の自分とおさらばした。
だが、セックスの暖かみを感じれるようになればなるほど、その女の子がいとおしくなる。絶対に逃したくない。その温もりを自分の物だけにしたい。
だが、振られたら僕は何も行動なんてできないだろう。ただただそっぽを向いて歩いていってしまう君を、止めることもできずに地面に突っ伏して泣いてしまうだろう。
だが、以外にもその恋とは短いものではく、気がつくと僕らは卒業をしていた。別々の会社に入っても、好きあらば会って、食事をしたり、遊んだり、時にはセックスをした。
そんな関係の僕は、地味に友人からも羨ましがられた。女を何人も犯したと豪語していた野郎も、気がつけば立派な大人になっており、そいつでさえ僕のことを羨ましがっていた。
そうである。今まで僕らの世代がしてきた恋愛は、大抵短命なものだったのだろう。僕だって、この恋がこう3年も続こうとは思わなかったのだから。
だからこそ僕は誇らしい。彼女がここにいることが。
僕は、ベットの上で裸の体を彼女に寄せる。すると彼女もその何も纏っていない体を僕の体にくっつけると、二人そのまま横になった。
そして、彼女が話し出す。
「ねえ、私たち、何でカップルになったんだろうね?」そんな疑問を突然振るってきた。
「………さあね。でも確かに言えるのは僕が今でも君が好きだからかな」そんな臭い台詞を言ってみる。すると彼女はフフッ、っと小さく笑った。
「じゃあ、何で今も私が好きなの?」
「なんだよそれ、意地悪してんのかよ?」少し咎めるようにそう言うと、彼女は「いいや、別に」と言って部屋の天井を仰ぎ見る。
「私もあなたが好き。だけど何で今も好きなのって言われたら、きっと私、待っているんだよ」
「待っている?」僕は訪ねる。すると彼女は横を向いて、僕の顔に微笑みかける。
「うん。私は待っているよ。いつだって」
そう言うと彼女は静かに僕の上に重なってきた。僕はいつも通り、コンドームをひとつ手に取り装着した。
セックスが愛の印ならば………。
彼女が僕の何を望んでいるのかなんて、僕にはもう理解できたであろう。だけど僕には、まだそんな勇気はなかった。
もっとしっかりとした大人になってから。
僕は待っている彼女に、ちゃんと生命を紡げるのだろうか?
彼女は待っている。 スミンズ @sakou
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