私はその日は緊張していた。一番緊張していたのは、もちろん大希に決まっているのだけど、私もそれぐらい緊張していた。実は大希は中学生のときは野球を止めていたようで、高校になって肇の勧誘で始めたようだった。個性を殺してまで生きたという中学生活、高校の一年半を挽回すべく、彼はがむしゃらに練習していった。私は、彼の個性はうざがられるものだとしても、絶対にうざがる人よりも偉いことだと言うことを熱弁して彼に刷り込ませた。実際に根暗だとうざがりをしていた私が言うのだからなんて説得力があるだろう?


 そしてその日は、彼が初めてベンチになる試合だった。もちろん初ベンチなんで、試合に出させてもらえる保証なんて無かったけど、それが緊張の種でもあった。私は早く大希の試合姿を見たかったから、いつ出るんだろうか?と試合前から心を踊らせていたのだ。


 この試合は日曜日で、全校応援では無かったので行きたい人だけ行くという感じだった。だから私は新しく出来た友達たちと一緒に、相手の高校のグラウンドに応援に来ていた。


 私はあの日のグローブを手に手にはめていた。そのグローブは、私が久しぶりに大希のボールを受けたグローブで、それは大希からの誕生日プレゼントだった。しかも新品であったのだから、大希はまあ大奮発してくれたなあ、と思う(正直キーホルダーとかで良かったんだけど)。


 そしてついに試合が始まった。うちの高校が先行だった。友達はそれぞれ自分のファンの野球部の人を応援していた。それらはみんなスタメンだったので、ずっと応援しているに等しかった。私は同じ学校のチームとして、全選手に均等にエールを送ろうと頑張っていた。


 それからうちの野球部は、順調に試合を繰り広げていった。相手はうちの高校のライバル校と呼ばれるような所であったが、7回が終わるまでにこっちが3点を取り、失点は0に抑えていた。


 私は7回が終わり、8回のうちの学校の攻撃が始まるとき、祈った。どうか、代打でも代走でもいい。大希が出てきて欲しいと。


 そしてその願いは叶うこととなる。7番バッターの所で代打に大希が出てきたのだ。私は思わず「やったあ!」と叫んでいた。回りの友達は、そんな私をどう思ったかは知らないけど、それが自分のことのように嬉しかったのだった。


 帰り道、私は盛岡駅で友達と別れると、駅前の広場で大希を待っていた。そして、しばらくしてから大希は広場にやって来た。


 「あ、お疲れ、大希!かっこ良かったよ!ヒット」そう言うと彼は少し照れぎみに頭を掻いていた。


 「そうかなあ?」そう言い返してきた彼には、「そうだって」と言い返した。かっこ良かった。もちろん、大希よりも活躍した選手はいた。だけど私は、大希が一番かっこ良かった。贔屓しているみたいだと思われるかも知れないが、実際に私は大希を贔屓しているんだ。


 「ねえ、大希。次はネクストバッターズサークルに入ることだね」そういって私は彼の腕を掴んだ。すると彼は 「うん、当たり前だ」と言って頷いた。私は、不意に唇を大希の側に寄せた。しかし彼はそんな私を「人目のあるところで止めてよ」と少し離してきたが、彼の顔は真っ赤だった。


 そしてその日、私は大希に告白した。自分でも貶しておきながら告白するなんて馬鹿みたいだ、と思ったけど、大好きで仕方がない気持ちが込み上がっていたのだ。彼は少しの沈黙のあと、「いいよ」と呟いていた。

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