私は髪を少し茶髪に染め、スカートを短くしていた。それは生徒指導の先生に歯向かう行為であったけど、それがまた楽しいと感じていた。今の私なら馬鹿馬鹿しいと思い、きっとそいつを軽蔑していると思う。そんなチャラかった私は、それこそ同じようなチャラい子達とつるんでいた。教室では人目も気にせず大声で話をしたり、人の噂話をおかずにご飯を食べたりしていた。それは小学生の頃の私から見ても異常だし、今の私から見ても封印したい自分だ。少なくとも誰かを見下していたし、それは私と大希君との大きな違いだと今なら分かる。だけどあのときの私はそんなことどうでも良かった。もしかしたらあのときの私は、大希君が恩人だということも忘れていたのかもしれない。だから今では、あのときの私は本当に私だったのだろうかとたまに思い悩む程だ。


 そしてそんな高校2年生のある日の朝、転校生がやってくるという噂がたった。私たちは例のごとく「イケメンだと良いね」「でも前3組にきたやつ、根暗だったよねえ」「ああ、ああいうのは勘弁」とそんな会話をしていた。そして朝のホームルームの

時、彼はやって来た。


 私は一目で分かった。先生に連れられてやって来た少年。それは宮木大希だった。小学校で一旦お別れし、もう一度会いたいと心のどこかで思っていた人。私は少し、ニコニコしながら黒板の前にたった彼を見る。しかし、何故だろう。昔の彼と、雰囲気が違った。にこりともせず、おどおどとした感じをしていた。私はだから、なんだ人違いか、という思いを感じながらニコニコ顔を元の素っ気ないのに戻した。


 そして彼は、小さい声で自己紹介を始めた。


 「初めまして。僕は宮木大希と言います。一旦茨城県に引っ越してましたが、実は出身はここ盛岡市なので、初めましてじゃない方もいるかもしれません。ともかく、よろしくお願いします」


 そして彼は私の横に用意されていた机に近づいて座った。そして私はキョトンとしていた。


 こいつが大希?小学校の頃、私が憧れていた人?


 私は悩んだ。そしてふっと笑みを浮かべた。少女の頃の私と高校の私とは違う。あの頃の憧れなんて今の私には関係ない。そう考えた。そして、隣のやつは、どうでも良いやつとなり、そしてあろうことか、根暗な奴と言うことでグループの話題の人となっていた。私もそれを面白可笑しく言い合いながら、裏で大希をけなしまくった。今思うとそれは後悔でしかなく、どうやっても償えないような罪であるような気がする。


 だが、秋の幾日か、彼はまさかの展開を迎える。彼はまた、野球部に入ったのだ。いや、別におかしいことじゃ無いのだろうけど、あの根暗になった大希がまたあのグラウンドに立つと言うのが、とても信じられなかった。


 私たちは帰宅部だった。それなのに関わらず用もなく放課後は学校内をウロチョロしていた。講習のひとつでも受けておけば良かったものの、あろうことか活動している部活に顔を出しては、気の向く知り合いにちょっかいをかけていたのだ。それでいつの日にかは野球部にも顔を出した。そこには小学校、中学校と同じ水城はじめがいるのだ。肇は野球部の副部長で、眼鏡を掛けているがイケメンだと言われている。そんな彼に私はグループから抜け出して近くまで行き「肇、おひさー」と声をかける。すると彼はいつもなら「おう、須田」と素っ気なくも返して来るが、今日は声をかけても返事が返ってこなかった。バットを振るってはいたが余裕はあったらしく、彼はただ私を見て、まるで汚いものでも見ているような顔をしていた。私はなぜそんな顔をされているのかもわからず、再び「ねえ、肇」と呼び掛けた。すると肇は突然バットを地面に転がすと、突然私の方に走って来た。そして彼はどうしたのか、右手をグッと握って私の前でそれを思いっきり振るってきた。


 「キャア」私は思わず声をあげる。そして目を瞑った、しかし痛みは来なかった。目を少しずつ開くと、拳は私の顔の前で止まった。私は怖いと感じたためか少し笑っていたが、彼はただ私を見て、本当に怒り心頭である主を無言で語りかけてきた。


 「肇、ど、どうしたのさ?」私は出来る限り冷静を努めてそう尋ねてみた。すると肇は「いいさ、もうお前とは絶好だ。お前ほど心のない奴は始めてみた。見損なったよ」といった。


 それはとてつもない罵倒だった。見損なったよ。それを10年来の友達に言われたのだ。私はヘナヘナと腰を落として、膝を地面に付けた。それを見て肇はどうすることもせず、歩き去っていった。不意に、それから自然に涙が溢れ、私は声を出して泣いていた。グループの人たちはそれを不思議そうに思いながら近寄ってきて「菜矢芽、振られたんだ。かわいそうに」と全く見当違いな慰めをしてきていた。私はその言葉を聞くなり、なぜか知らないけど走り出していた。今日はなぜかとても自分が醜い。そんな気がしていた。


 肇がなぜ私に絶望したのか?なぜ私はここまで自分を醜く思ったのか?それはわからないようでいて実は分かっていたのかもしれない。不意に、肇と大希がとても仲良しだったことを思い出していたし、肇はいつも大希の悩みを見抜く才があったことも知っていた。だからこそ、私は自分を醜く思ったのだ。私は、感謝しなければならない人を馬鹿にして、その友人の気持ちまでグシャグシャにした。それは人生一の大失敗で、汚点であった。だからこそ、私は自分で片をつけようと、良い意味ではまた成長し直そうともがき始めたのかもしれない。

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