第5話
「五風十雨」
「早速だけどこの子の事から話していいか?」
一人が口を開く。
「うん、カズくんの子供?」
早く聞きたくて仕方ないのか、話を聞く前に早速質問をする三月。
この3ヶ月の事を軽く説明した。
少し驚きつつも、三月は全てを黙って聞いてくれていた。
一通り聞き終えた後に三月は意外な事を口走った。
「事情はわかった、私も一緒に育てる。」
一人は驚いた。
言葉が上手く出ない。
けど、男手一人で子育てが大変なのは身に染みてわかっている。
正直な所、一緒に育ててくれるのは助かる。
だけど僕達はもう終わってるんじゃないのか?何でそこまでしてくれるんだ?
色々考えたが先に口に出たのが
「その話は置いといて…この1年間何をしてたの?」
まずその疑問をハッキリさせたかった。
三月は困った顔をしたあと、少し間を置いて
「今はまだ話したくない。とりあえず一人で子育ては大変でしょ?私も手伝うからバイトだけでも探してみれば?」
僕は彼女の意外過ぎる発言に圧倒されつつオッケーしてしまった。
「そうと決まれば、今日から私もここに住むから」
ほんと強引だ。
こういう所は昔と全然変わってない。
優柔不断な僕とは正反対だ。
だからこそ僕は彼女に惹かれたのかもしれない。
色々聞きたいことはあるが、彼女のペースに乗せられ二人で子育てをする事になる。
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3人で暮らし始めて5ヶ月が経った。
無数に不安はあったものの、不思議な程に問題なく時は過ぎていた。
「ねえねえ、カズくんは二葉ちゃんに自分の事なんて呼ばせたいの?」
急な質問だがそろそろ言葉を覚えてもいい頃だ。
確かになんて呼ばせるかは今のうちに決めておいた方がいいのかもしれない。
「やっぱり女の子だからパパとかかな?」
自分は一人息子で妹や姉も居なかったから平凡にお父さんお母さんと呼んでいた。
そのためパパやママという響きが新鮮でくすぐったい感じはあるが、少し憧れていた。
「じゃあ私はママだね!」
三月は笑いながらそう言った。
二人で少し照れながら話をしていると
「まっまっ」
二葉の声でママと言った気がした。
もしかしたら聞き間違いや、単なるオウム返しのようなものかもしれない。
「最初はパパじゃないのかよ!」
と笑いながら軽く嫉妬混じりのツッコミを入れたものの娘の初めての言葉だ、嬉しくないわけがない。
僕より先に名前の呼ばれた三月は、さぞドヤ顔をひけらかしている事だろう。
そう思い横を見てみると、三月は泣いていた。
その涙の理由は僕の予想をはるかに超えるものだった。
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