刹那的な友人関係
既に日付を跨いだ最終電車に揺られながら、俺は本日アップデートが入ったソーシャルゲームの話題についてSNS上での会話を咲かせていた。『彼』も控え目な態度でその会話に加わっている。直接的なやり取りをした経験は未だに無かったが、口調や言葉遣いの丁寧な所に俺は好感を持っていた。
『彼』は、友人達の中では一番最近に知り合った人間だ。聞くところによれば、学生組の知人という話らしい。あまりこういった表現はしたくは無いが……いわゆる新参者という事になる。
3年も月日が経てば、友人達の中にも姿を眩ませる人間がちらほらと現れるようになっていた。当初俺が彼らと知り合った時の人数はもっと大所帯で、音声通話などしたら収集が付かなくなる程だった。今では全員を集めたとしても10人に満たない人数しか居ない。草野球をすれば、確実にポジションは埋まらないだろう。
無暗やたらと人数が増える事は望ましくないが、定期的に人を増やす事はある程度許容しているのが、現在の友人達の間で築かれているルールだった。
ネット上の繋がりは非常に刹那的な側面を持っている。それは関係の崩壊が起きたとしても容易に断ち切れる、リセットが利くという意味であり、不用意に個人情報を漏らさなければ利点とも言えよう。無論、その利点を良しと思いたくない節もあるのだが。
仮に俺がこれからボタン数回の操作をするだけで、今操作しているSNSのアプリを消去出来る。3年の付き合いがある友人達だろうと、関係を断つのに必要な行動がたったの数秒で済んでしまうという事だ。
プライベートの都合で黙って姿を見せなくなった友人も居れば、友人間で喧嘩別れをしてそのまま界隈を去ってしまった友人も居た。そういった人間をこれまで何人も間接的に見送って来た立場としては、寂しくも感じられる。
話を戻そう、俺は『彼』が『僕』と自称して会話に加わっている姿を見てふと思い出したのだ。「昔の自分もこんな時期があったな、そういえば」と。
深夜の1時を過ぎようかという時間、ようやく俺は自宅に到着した。片手には、ガサガサと音のするコンビニの袋を引っ提げている。今から自炊して時間を費やす程度ならば、喜んで市販の弁当で夜食を済ませよう。そう思って、帰り道の途中で購入してきた物だ。
既に眠っている家族を起こさないようにと、そっと自室の中へと入る。普段から扱っているパソコンの前にコンビニ袋を置くと、ハードの電源を付けて夜食の準備を始めた。
我が家の壁は少々薄い、テレビでも付けようものなら確実に家族の誰かが目を覚ましてしまうだろう。深夜アニメの鑑賞はこちらでも出来るのだから問題は無かった。
月額登録している配信サイトのラインナップを眺める。いつでも再生出来るように、愛用のヘッドセットは常時挿しっぱなしだ。
準備を終えると、俺は夜食に
とは言え、翌日の仕事を考慮するとあまり長い時間を掛けてもいられない。俺はちょうど1話分の視聴と同時に食事を終えると、パソコンの方で先程のSNSサイトを開き始めた。今しがた鑑賞していた作品の反応を調べる為である。
SNSサイト内の検索は、大手検索エンジン以上に使い勝手が良いと感じる時がある。こういった少々アングラな内容について調べる時である。深夜アニメも昔に比べれば人権を得たとは言え、個人個人の感想を知りたいのならこちらの方が向いていた。
ざっくりと調べ物を終えると、良い具合に食後の眠気が襲って来た。このまま翌朝のアラームを設定して寝てしまおうかとSNSサイトの画面を閉じようとした……その瞬間。俺の視界に、一つの気になるニュース記事が飛び込んできた。
ジャンルはエンタメ。サイトのトップページ内の小じんまりとしたスペースに、その記事はささやかと言っていい程度の微かな存在感を放っていた。
――〇〇〇、解散決定。再結成から1年。
「……再結成してたのか、知らなかった」
その文面を見て、俺は思わず一人きりの自室で声を漏らしていた。
何の偶然だろうか、ニュースの表題を飾っていたそれは昔の俺自身が『僕』と自称していた頃の残滓。人生で初めてインターネット上のコミュニティと呼ばれる物に属した切っ掛けでもあった。
当時の俺は、ある音楽グループのファンだった。
いや、もっと詳細を包み隠さず告白してしまえば『アイドル』のファンだった。
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