世之介の変貌

1

 ぴちゃぴちゃと音を立て、微小機械ナノ・マシーンの群れがゆっくりと、しかし、確実に、仰向けに倒れている世之介に近づいてくる。

 世之介は顔を音の方向に捻じ向け、じっと待ち受けた。もう、指一本、ぴくりとも動かすだけの気力も、体力も失われている。

 どうなるんだ……。

 漠然とした恐怖が込み上げるが、すでに考えることも面倒だった。

 どうにでもなれ……。世之介は退嬰的な思考に陥っていることを、ぼんやりと自覚していた。

「おいっ! そこの奴! 何、ボケーッとしているんだ? とっとと立ち上がらねえと、呑みこまれるぜ!」

 表示装置の画面からは、勝又勝が目を一杯に見開き、口角泡を飛ばして叫んでいる。

 うるさいなあ……。

 世之介は大の字に寝そべって、近づいてくる微小機械の黒光りする群れを待ち受けた。

 遂に微小機械の、ぬらぬらする触手が、世之介の〝伝説のガクラン〟に達した!

 瞬間、異様な衝撃が世之介の全身を貫いていた。

 微小機械と〝伝説のガクラン〟は、元々が同じものである。微小機械から〝伝説のガクラン〟は産まれたのだ。

 二つの微小機械は、今お互いを認識しあっていた。ガクランを構成している無数の微小機械の先端が情報端末となって、溢れた微小機械の本体と接触を開始している。

 一瞬の間に、ガクランと微小機械の間で、大量の情報が遣り取りされていた。

 水槽のあった部屋で、木村省吾が用意した計算機コンピュータに向けてガクランが発信した時とは、質的に違っていた。何しろ、直接お互いの端末を接触し合い、量的にも格段の相違を持った情報量が一気に遣り取りしあっているのである。圧倒的な違いであった!

 情報の一部は、脳細胞を通じ、世之介の中にも流れ込んでいた。

 今、世之介は万華鏡カレイド・スコープのような視界を、我が物としていた。

 微小機械が支配する、番長星のありとあらゆる場所に設けられた、端末の情報が世之介の中にあったのである。

 世之介の意識は、否応無しに変貌を強いられていた……。

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