3
「茜、おめえかあ!」
画面の向こうの勝又勝は、最初驚きの反応を見せ、次いで思い切り顔を顰め、苦りきった表情になった。唇をへの字に曲げ、眉を寄せ、首を何度も振っている。
「何でわざわざ、やってきたんだ? その様子じゃ、【ウラバン】と一緒らしいな」
怒鳴り声に近い。茜は気分を害した様子で、ぐいっと画面に顔を近づけた。
「何を言ってんのよ! お兄ちゃんが勝手に家を飛び出して、父ちゃんや、母ちゃんがどんなに心配しているのか、判ってんの? まったくもう……男ったら!」
画面の中で、勝は「助けてくれ!」とばかりに天を仰ぎ、手の平をぱっと開いた。
省吾は口早に、勝に向け話し掛ける。
「勝! 今、大変な状況になっている。風祭という男を知っているだろう?」
勝の眉が下げられ、ちょっと考え込む表情になる。
「風祭? ああ、賽博格志願の奴だな。あんたが、あいつを賽博格に仕立てた、ってのは知っている。奴が、どうした?」
省吾は手短に、現状を説明した。有能な大番頭らしく、少ない言葉数で、しかし的確な説明だった。聞いている勝は「ふむふむ」と相槌を打っていた。
ところが、微小機械の爆嘯に話が及ぶと、口をポカンと開けた。
「つまり、どういうこった?」
要するに理解できていない。焦りに、省吾の顔から汗がポタポタと滴る。
「番長星の危機なんだ! 風祭は微小機械に取り込まれ、自分の意思を失っている。だけではない! 賽博格の身体に〝伝説のガクラン〟の要素を取り込んだ結果、怖ろしい怪物に変貌している!」
「怪物?」
勝は省吾の最後の言葉に反応した。爆嘯などの複雑な話題にはついていけないが、本能的に戦いの話題となると理解できるらしい。省吾は勢いづいた。
「そうだ! 怪物だ! あれと戦えるのは、お前だけだ!」
「戦い? 喧嘩か?」
勝の目が、ぱっと輝く。血色が良くなり、態度も生き生きしてきた。
世之介は口を差し挟んだ。
「おい、省吾。いったい、何を話しているんだ?」
省吾は世之介に振り向き、口を開いた。顔付きは、以前の忠実な但馬屋の大番頭に戻っている。
「坊っちゃん。あれと戦えるのは、ここにいる勝又勝だけなのです。なぜなら……」
省吾が言いかけた時、制御室全体がぐらぐらと揺さぶられる。微かな物音に世之介は入口を振り返る。
なんと! 入口から、ヌラヌラした黒光りする流動体が迫ってきた! 水槽から溢れた微小機械が遂に迫って来たのだ。
「あれを見ろ!」
世之介の叫びに、全員ギクリと身を強張らせる。茜は立ち上がり、顔色を青ざめさせた。
画面の中から、勝が声を張り上げる。
「おい! 今のは何だ? 何が起きた!」
省吾は悲鳴を上げた。
「あれが! ここまでやって来た! 逃げないと呑み込まれる!」
光右衛門が鋭い声を上げる。
「他に出口は、ないのですか?」
省吾は、おろおろ狼狽しているだけで、完全に
「助さん、格さん。あなた方の力で、何とか脱出できませぬか?」
二人は力強く頷いた。格乃進が答える。
「やって見ましょう! おい、助さん。あんたは、ご隠居と、この大番頭を抱えてくれ。俺は、イッパチと茜さんを抱える」
世之介の顔を見て言葉を続けた。
「悪いが、世之介さんまで面倒を見ることはできない。しかし、あんたなら、自分で何とかできるはずだな?」
「当たり前だ!」
世之介は素早く頷いた。格乃進はニヤリと笑い返し、助三郎に命令する。
「よし、微小機械に捕まらぬよう、全力で脱出する。しかし、加速状態にはなるな! 超高速で動くと、生身の人間は衝撃で、生きていられないからな」
助三郎は立ち上がり、答える。
「判っている。では、ご隠居、まいりますぞ!」
助三郎が両腕に光右衛門と木村省吾を、格乃進が茜とイッパチを抱え上げた。
「では、行くぞ!」
助三郎が宣言し、出口へ猛然と跳躍を試みる。微小機械に触れぬよう、壁を蹴り、宙に飛び上がる。格乃進も同じように、両腕に二人を抱えたまま、床を蹴った。
加速状態に入っていないとはいえ、さすが賽博格の動きである。壁を蹴り、空中を飛翔する二人は、まるで無重力の中にいるかのようだ。忽ち二人は出口から外へ飛び出、姿を消した。
世之介は、ぐっと全身に力を込め、目の前に迫ってくる真っ黒な微小機械に立ち向かった。
だっと床を蹴り、飛び上がる。が、すぐに世之介は、痺れるような恐怖を味わっていた。
力が抜けている!
充分飛び上がることができない。世之介は床に叩き付けられるように横たわった。
やたら身体が重い……。まるでガクランが鉛のように思えた。全身がねばねばした疲労に包まれている。
糞っ!
世之介は歯噛みした。体力の喪失の原因を悟ったのである。
風祭との
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