閑話 王国の意思

 

 不定期のおっそい投稿ですいません。前話に続き、主人公以外の登場人物達へ掘り下げられたお話で。主人公、全く出ません。


その辺りをご了承の上、お読み進めください。


――――――――――――――――――――――――――――――――




――ギィイィッ バタンッ



「――…御待たせしてしまい、申し訳ございません。陛下…。」


「よい、メルディア。勇者達の"先導"をしていたのであろう?ご苦労だった。さぁ、座りなさい。…茶でも飲みながら話すとしよう。」


「…はい、御父様。」



 ――豪奢で、華美な装飾をふんだんに施された、エヴェドニア王国・王宮のとある一室…。



 日時は丁度レギが王城を出た後、六人の勇者達蒼汰達がアーサンダー率いるエヴェドニア王国指折りの実力者達と邂逅をなして……少し経った頃。六人の勇者達の今日の様子を見届け、急ぎこの一室――「王の執務室」へと足を運んできたメルディア第一王女は。父…ガゼストラ王の心遣いに添い、重厚な黒檀の執務机の前へ置かれた接待用の深緑のソファーへ座ると。その瞬間を見計らい。既にメルディアが入室する少し前に準備を完了させていた、「王宮付き上級召使」達が淹れたての暖かなお茶――"ヴィリア・テアー萌葱色のお茶"を、美しい白磁に金と緑の装飾の施されたティーカップへ注ぎ入れ。ふわりと甘く、香ばしい薫りを漂わせる焼き菓子をメルディアと執務机に座るガゼストラの前へ置くと。静々と部屋の隅へ控えると沈黙し、何か所用を命じられる時をただひたすら待つ召使達……。



 そんな彼女達を特に意識する事なく、二人はティーカップとソーサーを持ちあげ……他国では余り好まれない独特の苦みと渋み、そしてその奥にある仄かな上品な甘味と爽やかな香りを持つ茶を一口含むと。茶菓子にも手を付け、一息を入れると。視線を交わし、互いに姿勢を正し意識を切り替え。漸く、今日の本題へと話を進めて行く。



「…さてメルディア。今日の、勇者達の様子は如何であった?確か……今日はアーサンダー等との顔合わせと、簡単な説明と指導であったと思うが…。」


「はい。…六人の勇者達は、問題を起こしておりませんし。今日の様子に至っては、まだ初日ですから…特別不穏な行動や言動は見受けられません。彼らの心情も、特に重度な混乱や不安を抱えてはいないようですし。概ね、問題はありません。」


「ふむ……嘗て『勇者』が召喚されてから、ちょうど1000に成るが…。今代の『白燕の勇者』も、如何やら"豊作"であるようだな……。」


「ええ、喜ばしい事です。…ですが――。」


「ああ、解っている。例え我らが女神ヴェリタリスの"使徒"であれ……である保証はない……。親交を深め、より硬い繋がりは保持しつつ…恙なく、彼らの意思決定の重きを見定め。我等、ひいては世界にとって「」をせねば、な……。」



 然して暖かみのない…冷たい冷静なる言葉を連ね。互いに小さく同意を示す仕草を返しながら、王と王女の会話は続いてゆく…。


 …彼ら、二人が蒼汰等『白燕の勇者』へ期待している事は――いずれ訪れる『魔皇』への「強力無比な即戦力」と、その後自国が得られる最大の恩恵「勇者擁立による莫大な栄誉と信頼」の二つあり…。ある意味俗物的で余り良い感情は抱き肉かもしれないが…。しかし、これらは他三つの『勇者』を保有し得る国家において。それは「最優先事項」の最たるもの一つであり。『勇者』を保有する=『魔皇』との熾烈な死闘を演じるというという……。世界の安寧と秩序の為、その超弩級の"悪夢"へと足を踏み例れなければならないエヴェドニア王国含む「四大国」は。例えそれが俗物的な後ろ暗い栄誉と報酬であっても、手を伸ばさし…伸ばさなければ国を守れないのが。この異世界の大国の"宿命"であり、現状である……。



「――しかし…やはり他国の召喚から出遅れたのは痛いです…。まさか……このような大事の時に……まして"聖女"のが重なるなんて…。」


「…確かに。しかし、最早それも致し方ない事。………『白燕の勇者』を無事召喚でき、其れを成し得る力を持っていたがあった奇跡に…。それを齎してくださったであろう女神ヴェリタリスへ感謝し、進むしかなかろう…。」


「ええ…そうですわね……。」



 ガゼストラの諭しに、頷いたメルディアは。ガゼストラと共に互いに座ったままの姿勢で、静かにヴェリタリスへ簡易礼拝による感謝を捧げ。同じくその会話を控え聞いていた上級召使達も又、親愛なる神への感謝を意を示す…。


 そうして…ささやかな祈りの礼拝を済ませると。二人は数舜間を空け、あると、愛しくも…少々困った言動の多い"第二王女"――ケティルリナについて話始める。



「それにしても…あの子は、一体何を考えているのかしら?確かに「勇者召喚の儀」に巻き込んでしまった私に……私達にも、責任はあるにはあるけれど。最短とはいえ、3年もの庇護を与えても正直どうしようもないでしょう……。どちらかといえば…其のまま放逐するより、来るべき日に備。我が国で囲い込んでおいた方が「安全」だわ。」


「まぁ……そうではあるのだがな。……ケティルリナの"我儘わがまま"なぞ、他の貴族の子女と比べれば可愛いものだと思っていたが…。あそこまで粘るとは…。」

 

「ええ、本当に…。とても優しい子であるとは思っていたけど……あそこまで強情になったのは、初めて見ましたわ…。」



 ふう…っと互いに小さく溜息をつき、その元凶であるまだ拙く可愛い娘と妹を思い。姉・メルディアと父・ガゼストラは、既に約束され決定事項となった。となった。あの"少年"――安堂あんどう礼儀れいぎの処遇に思いを馳せる………。



 ――…ただ単に"巻き込まれた"だけの、「不完全な神々の加護」を授かった。『勇者』にはなり得ない……不遇の少年。彼の第一印象は少々頼りなく、蒼汰等六人と比べると余りパッとしない容姿に。召喚当初、唯一……混乱しながらも、冷静に周囲を伺っていた少年…。勇者等六人と同じ、同郷の者で在るようだが。親密な関係とは言えず……六人へ然程親近感も余り湧いていないようであった彼は。正直…如何遇するべきか非常に悩ましい人物であった。


 先ずかなり古典的な美しく清らかな容姿と気高き血筋のメルディア・ケティルリナの"誘惑"に対して。勇者である三人の少年等が、多少なりとも興味を示す中。……一人だけ然して興味を示さず、"女の色香"に少しも酔う様子を見せなかった彼を見た時。「…少し、面倒な子ね。」っとメルディアは思ったものである…。そしてその後起こった、「安堂礼儀への庇護の約束」を口走りるケティルリナには。表情では余り出さなかったものの、内心「何て事を言っているの!?」っと叫び出していた程で。ガゼストラも又、それと同じ様な心境であっただろう…。


 更にその後白熱したケティルリナの安堂礼儀への庇護を求める、少女趣味染みた言い分を聞かされ。あまつさえ…何故か、ケティルリナに守ってもらっている筈の少年・安堂礼儀が。ケティルリナをやんわりと宥め、彼本人も「何故このお姫様は僕の見方をしているのか?」っと。その疑心を露とさせた……ケティルリナなどより、よっぽど不安げな表情で健気にこちらの交渉に応じている始末で。王と王女、父と姉の立場にしても…非常に疲れる話し合いであったし。何より其の話し合い――ケティルリナに振り回されながらも、必死にもがいていた少年は。……傍から見ても、非常に、哀れで在った…。


 だが、その"哀れさ"もあいまり……。他に同席していた忠臣達からの憐みや、譲歩を引き出せたのだから。ある意味で、「不幸中の幸い」であったのだが……。



「……まぁ、哀れなあの少年を助けてやりたいという気持ちも分かるし。余り『勇者』とは友好な関係ではないようだが……一応同郷の人物を足蹴ざまに悪く扱うのは、決して賢い判断でもないのも又分かる…。が、何故あの子は、あの少年のまで望むのか……。」


「本当に、不可解ですね。……あの子は性格もとても愛らしく、容姿も《《

御母様》》似て優れていますし。頭だって、決して悪くはないのですけど……あの"奇行"だけは、いつか…治って欲しいものですね…。」



 …ケティルリナという王女――少女は、幼い頃より非常に愛くるしい"姫"として王国貴族、ひいては王国国民にさえ認識されているほどのある種の"人気"を誇るが。其れと比例して貴族の間で有名な……"おてんば姫"として広まっており。最も近しい王家はもとより、周囲の高位貴族も少々頭を悩ませる姫君であり。もっと幼い、4~5歳児であった頃は。折角美しく整えられ、花の咲き乱れている王宮の庭園の花をちぎり…。其れを自身の寝室へ撒いて、「お花のベット」をつくってしまったり。時には王城の高官専用の厨房に入り込み。王侯貴族が食べる事のない……下町の平民の菓子を料理人にせがみ、自身もソレをつくりたいと手と顔をべとべとにさせて菓子を作り。いなくなった幼い王女を探す召使達と、忙しい料理人達を困らせる事が。姉であるメルディアや父のガゼストラへ、構って欲しさに悪戯をする事もあった……。


 

 15歳となり、多少はその奇行は収まり…。最近ではその麗しさから、嘗ては余り婚約者にと自ら進み出てくる子息が居なかった中。ケティルリナのかつてより安定した素行をみて、どうか我が子の婚約者にと推する声や。それを匂わせる頼りが、他国から送られてくるようになっていたのだが…。それも、まだ少々不安な処である……。



「……面会は…まぁ、彼の下へ付かせている召使へ渡りを着ければ…。あの子の御転婆さを知っている貴族達も、然して気にも留めないでしょうから。可能ではあるけれど……どうせ面会するのなら。自身の、「」と会って欲しいのだけど……。」


「……それは仕方あるまい…。貴族に…王家に生まれたからには、然して見ず知らずの者と共に一生を終える事は"当り前"だが…。あの子には…まだわからぬだろうからな……。」


「御父様…そうやって、何時までも…あの子を甘やかさないでくださいませ。……私が、言えた義理ではありませんが…。あの子ももう15歳の"王女"、既に婚約者がいてもおかしくない年頃です。……気高き血脈に生まれた女ならば、誰しもが、通らなければならぬ道……。それは、私とて同じ事です。」


「…………。」


「…これは、"好機"なのですよ?御父様。彼のとの引き裂けた国境を繋げ、新たな友好の輪を広げる……。300以降…頑なな態度を崩す事のなかった彼の国との、融和の道へと進み出る最大の鍵に。ケティルリナは必要不可欠ですし。今しか、その時は在り得ません。」


「ああ…解かっている、メルディア。…解っているとも……。」



 メルディアの正しく…最も優先せねばならぬ事柄への強い念押しに。理解は示すものの、憂鬱な雰囲気を隠そうともしないガゼストラに。メルディアは深く、溜息をつくものの。それ以上、深く話し合う事はなく。王であるガゼストラの意思を、ただ信じる事とするメルディア…。っと、その時…――。



――コンコンコンッ


「…あら?御父様、私の他にも誰かお呼びに?」


「む?いや…特に、その様な事はないが…。」



 突如執務室に響いたノック音…。それに心当たりはないものの、隅へ控えていた召使の一人に小さく無言で頷き。訪問客を確認させる。すると執務室の扉を僅かに開き、その訪問扉の向こうに居た訪問客を見て驚きの表情をつくる召使。それの反応に、若干"嫌なもの"を感じるも…。メルディアとガゼストラは互いの顔を見合わせ…諦めの表情をつくると。その様子に言いずらそうに……訪問客の名と、その訪問理由を告げてくる召使に。部屋の主であるガゼストラは、致し方なく…その突然の訪問客の入室を許可する…。


 召使が静かに、ゆっくりと執務室の扉を開き。訪問者に向け礼を取ると、中へと招き入れる。するりと…滑らかな足さばきと姿勢によって生まれる美しい所作で、入室して来た。二人が思った通りの……お気に入りのあのパステルブルーのドレスに身を包んだ、甘やかなミルクティー色の髪がたなびく可愛らしい少女は…。晴やかな満面の笑みを顔に浮かべ、ふわりっと僅かに腰を落とし。弾んだ声で、既に先に入室していたメルディアと部屋の主であるガゼストラに対し。丁寧に、そして可愛らしく、言葉を述べる――…。



「――――…事前の申し開きもなく、こちらへ足を運んでしまい申し訳ございません…。けれど…ぜひ!お話いたしたい事があり、こちらへ馳せ参じてまいりました。今、よろしいでしょうか?お姉様、お父様?――…。」





   *



   *




「…――でわマルナ、頼みましたよ。」


「はい。確かに、仰せつかりました…。」




 ……時刻は。"安堂礼儀"改め――"レギ・アンド"と、王都の「東部第一駐屯兵舎」の食堂で再び合流を果たし。予てより話し合われていた、普段着等の生活用品の「買い出し」を済ませてレギと別れた。もう随分と日が沈んだ、夕方の"三刻半さんこくはん"(午前6時)頃の王城の。とある人気のない、明かりの少ない通路の角…。


 先日「礼儀専属召使」となった彼女――"マルナ・ヘルツ・コントロウ"は。自身と同じ召使であり、又彼女の直属の上司に当たる。美しい妙齢の女性「第一王女付き召使長」――"アルメラ・ルーレン・デモルカ"へ。下された"命"へ両省の意を伝えると、軽く礼を取り。その後は振り向く事無く、独りその場を離れて行くマルナは…。背後と周囲の人の気配へ気を気を配り、しかしそれを悟らせぬ見事な所作で。召使達も余り近寄りたがらない、通常の通路より数段灯りの淋しい通路を抜け。明るく、より綺麗な方の召使用の通路へ足を踏み入れ。マルナはただ無言で、真っ直ぐ自室へと向かっていった――――…。




 …――――王城の片隅……主に王城・王宮で働く召使や使用人男の召使、料理人にプロケルの世話番、庭師等の様々な下働きの者達が寝泊まりする「宿舎」の塔が立ち並ぶ場所…。そこへ漸く辿り着いたマルナは、当然の様に……下級召使達が使う立派な木造の塔とは違い…。其れよりもさらに立派な、石造りの使が使う塔(女性塔)へ向かい。その入り口へ並び立つ、守衛の女性下級騎士へ顔を合わせると。既に互いに顔を覚えあっていた事もあり、すんなりと通行を許され堂々と中へ進み行くマルナ。


 しっかりと造りこまれた、石造りの宿舎は下級召使の塔とは違い。質の良い火の魔石を用いた、光量の高い灯篭ランプが通路へ設置され。暖かな、仄かな暖色の光が通路を照らし出している。又女性塔という事もあり、ささやかであるが綺麗な花々が活けられた花瓶も置かれている。…透き通った硝子の頑丈そうな窓も取り付けられており。其処から見える風景は、もう夕闇に隠れ今は殆ど見えないが遠くに灯る明かりだけがくっきりと見えていた。


 そんなマルナにとって、いつも通りの自身の生活の場を眺め。ひたすらに自室へと向かう通路を歩いてゆくが。ふとマルナの鼻をくすぐる良い香りが、辺りの空気を染め始める……。



「あら…もうの夕食の時間なのね。…先に、夕食を終えておいた方が良いかしら?」



 そう思い立ち、マルナはちょうど少し行った先にある食堂へ足を向け歩き出す…。


 …一回目の夕食とは。朝昼夜と多忙な召使・使用人達の勤務時間に合わせ作られる、朝は一回、昼は二回、夕方は三回ずつの食事の配給の事で。互いに交代しながら、召使達は順次食事を取る事が出来る様にある程度配慮されている。と、言っても。下級召使達ならともかく……上級召使の様な者達は早々替えの効かない仕事や接待をせねばならぬ事もあり。半分以下ではあるが、ある一定数はその食事時間に間に合わない者達が多くいるのだが…。そういった事態に備え、予めそういった召使用に軽い軽食――サングイサンドイッチの様な食事が用意されていた……。


 そして、幸運にも。今の処は……そうした多忙な仕事から外れ、悠々と第一回目のしっかりとした夕食へありつく事の出来るマルナは。開かれた食堂の扉を潜り、既にマルナと同じく幸運にもこのちょうど良い時間帯での夕食をありつける召使・使用人達へ目礼を返しながら。適当な長椅子の食卓へ座り、給仕を待つ。するとまだ一回目という事もあり、直ぐに給仕人が暖かな食事をマルナの下へ運んでくる…。



「まぁ、珍しい……今日は"フリートコロッケ"なのね。…種には何を入れているの?」


「はい、今日のフリートには"ウォニオ黄色い玉ねぎ"と"カル鶏の様な魔獣"の挽肉の種を塩と"ローマリ《香草の一種》"で風味をつけております。……こちらにある"キトレムレモン形のライム?"のソースをかけ、お召し上がり下さい。」



 そう給仕人に促されると、早速マルナは綺麗に磨かれた食器を手にし。じっくりと…しかし、気持ちはしたなくない程度に急ぎめで食事を進めて行く――…。



 ――二種の葉野菜の上へ調味油で和えられた米と小さな黍の様な穀物に、真っ赤な凸凹の実の半カットが添えられた"前菜"の「米のリゾットサラダ」に。


 今日の目玉である…今だパチパチと弾けるサクサクのパン粉の衣を纏う"主菜"の「カル挽肉のフリート鶏挽き肉のコロッケ」。


 数種類の野菜をじっくり煮込み、カリカリのクルトンが浮かべた

コーソ・イースコンソメスープ」。


 そして、焼き立ての米粉…"オーリ・パッス"と。新鮮な間黄色の果肉の林檎モドキ"ボヌ・マール"や、丸い果肉の詰まったオレンジモドキ"アーウレム"のデザートを頂き。マルナはヴィリア・テアー謂わば緑茶で一服すると、食安めに。暫く、食堂で独り佇む…。



「はぁ……美味しかった。本当たまにはこうやって、ゆっくり食事するのもいいものよね。」




 ……たっぷりと味わった料理の満足感に酔いしれながら、マルナはあの少年……自身の世話人であるレギへ、想い馳せる――…。





 ――…『勇者』ならぬ彼の下へ、上級召使」であったマルナが付けられた理由は……。


 それは、彼"レギ・アンド"の人格や思想の調査と監視は勿論の事…。何よりも彼に授けられた、「不完全な神々の加護」が。一体どれ程の力を秘め、又彼がその力を使いこなせるのかを見極め…。可能であれば其の力の制御を補助し、こちらへある程度恩を売り。そしてそれが不可能又はその才能が皆無であれば……彼の其れまでの行動や習性を鑑み。…常に、"最悪の事態"を防ぐ「矯正役」として。


 最悪の場合………彼の"処分"についての是非を決定づける、重要な「情報源」としても運用する為である。




――…"最悪の場合"…か……。まだ、二日間足らずの接触だけど……特に悪い点は見えないし、それなりには賢そうだけど。…どうなることか……。




 …マルナの礼儀――レギの第一印象は「少々頼りない世間知らずな少年」であり。その身に宿す"力"や、異界よりの"召喚者"という立場でなければ。多少容姿の良い、そこらの商人か下級貴族の御子息で通りそうな……言ってしまうと、其れだけの"普通の少年"…。性格も温厚で激しい情緒の不安定さも見受けられず…一緒に召喚された『勇者』である六人への敵意もない。が、彼らとはそれ程親密な友好関係はないのか。話に聞く限り、レギの処遇についての話し合いの際は特に『勇者』等が口を挟む事が少なく。最終的なレギの処遇が決定した際に、その"証人"として六人全員が声を上げたらしいが。結局の所…やはり王族であり末姫であったケティルリナ王女殿下の計らいと、献身的かつ手厚い擁護の鶴の一声があったのが大きく。余りでしゃばり過ぎない様にしたにしても、同郷の知人への対応と考えると……少々冷たい対応であると、考えざるおえない…。




――"助けた"のか、ただ"哀れんだ"だけだったのか……。何かちぐはぐな…同郷の者に対して、そんな中途半端な対応は如何なのかしら?…まだ15歳の少年少女とは聞いていいるけど……まだ精神が"未熟"という事なのかしら?




 同郷と言っても、特に特別密な関係を築いていなかったから大して"共感力"力が働かなかったか。自身等が『勇者』で、彼が"そうでない"からそこで線引きをして割り切っているのか…。険悪な関係では決してないそうだが、なら彼らは一体どんな関係・力関係在るのか…謎は深まる。


 又彼らに対しレギ本人から、その話題が出ないのも謎である。が、直感からして。その話題は彼ら……特にレギとしては、非常に繊細で微妙な話題であるように思える為。元あるじである敬愛なるメルディア王女殿下とガゼストラ王も含め、それに軽々に触れ逆鱗を撫でる事に成る事を危惧し。今のところは「様子見」をしている状況であり。又レギに関しては3年間という期限と、独り立ち出来るだけの地力をつける為。仮の従軍が決まっている為、その機会が限りなく少ない…。しかし、3年間もの多数の人間との共同生活では否応でもきずなが深まり。それにつれ彼本来の"性格"や"性質"が浮き彫りになるもの……。


 流石に、一応はただの「優しく頼りになる召使」として動いているマルナが、レギと共に従軍するなどは出来ないが。大抵……討伐任務以外の期間の大半を王都、王都の警邏任務で消化するあの"部隊"ならば。その期間の間にレギと接触を図り、又は遠征の際の過程で通過する都市や街へ先回りしその様子を観察する事は出来る…。本来ならば、もっとついて離れずについてやる必要がある様に思えるが。第二王女と『勇者』の連名で彼へ庇護を与える約束をしたからには。例え秘密裏でも……無下にその約束を侵し害するのは、其れは余りに"不誠実"であり……"屈辱"である…。




 ……そうした、思い考えを十分に巡らせてたマルナは。少しずつ騒がしくなってきた食堂の席を立つと、通りすがりに顔見知りの召使達と軽く言葉を交わし。今度こそ、マルナは自室へ向かうべく足を運ぶ。


 マルナがこの王城へと帰還し、人知れず交わされたあの通路での会話…。第一王女の上級召使を纏め、又第一王女の手と成り足と成る彼女…アルメラから言い渡された"命令"。其れは「東部遠征部隊第一分隊に従軍したレギ・アンドが、遠征の際通過する街"マーツ"へ先回りし監視せよ。」というもの…。移動の為のプロ車は既に手配が済んでおり、後はマルナの荷支度が済み次第出発できる状態となっていた。




――…出発にしても、まだ明日の昼からでも間に合うでしょうけど…。やはり、早朝には出てしまった方が"もしも"の時の為になるかしらね。




 食堂を出てまた何人かの召使や使用人達と顔を合わせながら、明日の早朝にあ出発する段取りを頭の中で済ませ。考えている内にあっという間に到着した個室の自室の鍵を開け、中に入ったマルナは。テキパキと明日からのプロ車の旅の支度を用意し、"もしも"の時……を選抜し。大きく上等な革張りの旅行鞄の魔道具――「収納の箱アルバ・アルカン」へ、数日分の衣服と様々な必要な荷物を詰め込むと。レギと共に王城を出る際に着ていた「一般的な王都民の装束」を取り出し、ベット横の机へ置くと。


 マルナは部屋に設置された時計を見つめ。分厚く柔らかな大きめの布巾と小さめ布巾、そして替えの下着を其れにくるむと。明日からは早々堪能する事の出来なくなる、たっぷりの暖かい湯を浴びるる事の出来る"湯浴みシャワー"で身を清めるべく。マルナは、部屋後にした――――…。





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