第6話  初めての遠征



 ――マルナとの「買い出し」を終え。諸々の私生活寄りの「一般常識」を出来る得る限り頭に入れながら、その後すぐに兵舎へ戻り。レギへ与えられた第一分隊隊員の大部屋へ、生活用品や備品を搬入し。その後マルナから此れから余り頻繁には会えないという事と、定期的に一週間(7日間)に一度適当な兵舎の外で連絡を取り合おうという話をし。「でわ、一週間後に……。」っとマルナと別れ、兵舎に戻ったレギは。


 何故か妙に楽しそうなエレとマードの姿を目撃しながら、昼と同じく分隊員達と。緑と黒い豆のスープに、白米に鶏肉?と黄色い根菜の炒め物、緑色の乾燥果物?とケルシュ白濁した米の濁り酒の夕食頂き。予め覚悟していた湯船のない…ただの水の入った木桶と木綿のタオルを貰うと。水場と呼ばれる木のすのこが敷かれただけの場所で水を被り、垢擦りの要領で体の汚れを取る「湯浴み」を済ませると……。男分隊員の大部屋の一番入口に近い二段ベット――マードのベットの上に昇り。少しだけ、マード以外の比較的若めの先輩隊員と手短に言葉を交え、無事、就寝したレギだったが…。





 ……翌日の、朝"二刻半午前4時"頃――…。




「――――レギ!!早くしろ、置いてくぞッ!」


「は、はい!今行きます!!」


「こらッ、此れも持ってけ新入り!!」


「あっ、すいませんッ!!」



 まだ薄暗い早朝の"二刻半午前4時"に慌ただしく、昨日の夜渡されたずっしりと重い…鎖帷子チェーンメイルを薄い肌着の上から着込み。事前に用意しておいたという荷物を持って廊下を走り、兵舎の敷地内に留めてある隊の荷車へ自身の荷物を運びこむレギ――。



 ……突如、二段ベットの上に寝ていたレギは、下のベットに居たマードに思いっきり上ベットの底板を蹴られ起こされると。「ササっと起きろ!初任務だッ!!」っと満面の笑みでレギをどやすマードと、他隊員からの指示で。

今現在……訳の判らぬ儘、急かされながら服を着替えた後。ドカドカと積み上げられた「レギの荷物(※レギは用意してない…)」を指示どうりに急ぎ運び込んでいた……。


 …一応、夜は思いのほかぐっすりと熟睡出来た為。今はもうパッチリと瞼は開き、頭も冴えている。が、「任務」の事など一言も知らされてなかったレギとしては、「い、一体何なんだよ!??」っという気持ちが一番勝っている………。


 そうして、訳の判らぬ儘荷物を運び込むと。早朝だというのに嫌に元気そうなマードに又も急かされ、既に何人かの第一分隊の隊員達が食事を掻き込む食堂へ着くと。木の長方形のトレーへ、昨日の夜と同じ豆のスープに白米の入ったサラサラの雑炊と、もっちりとした食感の焼き立て"米粉パン"一個、オレンジ色の乾燥果物の朝食を貰うと。レギの両隣へ座ってきたマードとエレへ朝の挨拶をすると、キッと一瞬睨まれるも。小さく挨拶を返され、エレから、急ぐようにせかされる。



「…もうッ、早く朝食を食べなさいよね。もう出発まで、後"中刻30分"しかないんだから!」


「え?そうなの?」


「当り前だッ。サッサと食え、置いてくぞッ!」



 そう言ってあっという間に朝食を食べ終えたマードが、食器を持ち席を立つと。ワンテンポ遅れてエレも席を立ちあがりレギへ、「ホラ!早くッ!」っと頭をバシッとはたいていく。続々と席を立ち朝食を食べ終える兵士達に、何とか朝食を掻っ込み。ギリギリ同じ第一分隊の最後の隊員に引っ付き、食堂を後にし前を行く隊員と同様に走り出すレギ。


 兵舎の馬屋近くの広場へ留められた二頭立て荷車二台の傍では、殆どの隊員が薄片鎧レームアーマーを着込み終えており。残り10分ほどでやって来たレギは予めおいてくるように言はれ、荷馬車付近に運び出していた鎧を着込むが。着慣れぬ鎧に、もたもたとしていると。「遅いッ!」っとマードとエレに又もどやされ、はたかれ揉みくちゃにされながら。二人の手伝いで、何とか鎧と深緑の外套クロークを着込み終えると。


 片手半剣バスターソード円盾ラウンドシールドと、「見習い兵士」の基本装備である2mちょっと程の長槍を持たされ。其処へ副隊長ノーマンを後ろに連れた隊長デーガンが、完全装備で姿を現すと。隊員達が全員いる事を目視で確認すると、声を張り上げ兵舎からの出発を告げる。



「…よしッ、全員揃たならサッサと出発するに限る!王都を出てしばらくしたら、いつも通りの陣を組んで今日の夕方辺りには"ヘルツェ"に着くぞッ!!。」


「「「ハイッ!」」」


「っで、後そこの"新入りレギ"!!お前は今日の事を何も……悪いがお前を置いていくっていう選択肢はねぇ。ギャーギャー泣き言を言おうが、へたり込もうが、蹴り飛ばしてでも連れてくから、そのつもりでな!!」


「…えっ。あ、は、はいッ!」



 フンッ、っとレギへ辛辣に釘を刺してくるデーガンへ、若干引き気味にレギが返事を返すと出発の号令が出され。に朽葉色の毛色の"鹿"っぽい外見に。其れにしては余りにも大きく頑健な体と足を有する、"馬"ならぬ――"プロケル"に鞭を打ち。兵舎の正門から出立した第一分隊は。ガランっと人気のない……ポツポツと煙突から立ち昇る煙だけが、確かに人がいる事を示す早朝の王都の開けた本通りを抜けゆく……。


 東から刻々と昇ってくる陽の光が強まり、薄っすらと青み掛かっていた周囲が僅かに赤みを増し。漸く王都を囲む防御壁が間近にまで近づき、東大門へ着いた頃には。まだ上春の、少しひんやりとした空気に包まれる石の都へ。暖かな日の出の光がサァッと射し込み、美しい石造りの家々の屋根に色が付き始める。守衛の第三軍の兵士へノーマンが任務の指令書らしき厚紙らしきものを見せると、兵士は其れを確認し通行の許可を出してくる。


 其れに従いプロケルへむちを打ち荷車を進ませ、東大門を潜り抜けると…――。




「――…うわぁ。」



 遠い、正面に広がる大きく長い山脈から零れる、美しい黄金色の日の出に。レギらから数十メートル離れ、平地から少し掘り下げられた田畑へ日の出を浴び、若草色の茂る――"陸稲畑おかぼばたけ"が延々と広がる光景…――。



 水は張れてはいないが……。綺麗に区画分けされ掘り下げられた田園の様な田畑の隅には、しっかりと舗装された水路が引かれ。丁寧に石が除かれ踏み固められた平らで広い街道を歩きながら。周囲に広がる"緑の海"を惚けて眺めるレギを、エレが小突き注意を促す。


 陽が完全に山脈から顔を出し、一帯を明るく照らす中。街道の端へ寄り、擦れ違う小さな"国家認定"を示す勲旗くんきがたなびく大きな商隊の隊列に、其れに当て嵌らない小商人達や他都市から来た一般人達を運搬する――大抵、主要都市間にのみ運航する

"乗合プロ車"(「乗合馬車」と同義)が通り過ぎるのを見届け。ひたすら街道に沿う様に進み続ける第一分隊は、先頭・後部に目耳の効く索敵を得意とする隊員を配置し。二台もの荷車を囲む様に陣を組み、その最後尾の荷車へ就かされたレギは。


 今更ながら……ずっしりとした存在感ある薄片鎧レームアーマーと、鎖帷子チェーンメイルの重さに。少々、堪え始めていた…。



「……お、重い…。」



 ……全身鎧フルプレートアーマー等と比べれば比較的軽量で且つ機動性・柔軟性に富み。特殊な溶液と樹脂を混ぜ煮しめた頑丈なプロケルの革又は厚手の布の裏地へ、約3㎜~5㎜程の金属薄片を少しずつずらし重ねながら体の側面へ流れる様に組み。しっかりと薄片の上下を複雑に、同じく溶液で煮しめた頑丈な革紐等で裏地へ縫い留めて造られる「薄片鎧レームアーマー」は。軽量とは言っても、その総重量は"地球"で言うと20キロ以上の重量を誇り。鎖帷子チェーンメイルにしても、大体15キロ程はあるとされる防具である…。



 本来…単純に計算しても、合計約35キロかそれ以上にも及ぶ防具を。異世界人地球人の…「只の中学一年」であった礼儀レギに、耐えられる物ではないのだが……。



 此れは、この名も無き"異世界"へ礼儀レギを呼び出した(※完全な事故)「勇者召喚の儀」のに組み込まれていた。「勇者地球人に働いている"異界地球ことわり"を、こちらの"世界異世界の理"へ」術式の効果と、この術式に結びつけられた四柱の「神々の加護」の力が働いている為であり。此れがなければ礼儀レギは勿論、真正の『勇者』である蒼汰達でさえ。才能云々と言うより純然たる"肉体能力"に於いて、この異世界の住人であり、大した戦闘経験もないただの"農民"にさえ劣ってしまう……。


 

「……なんだレギ。こんなんで一々ヒイヒイ鳴くな、情けない…。」


「そうよ。って言うか……まだ、"ヘルツェ"まで半分も歩てないのよ?倒れれば荷馬車に乗せてもらえるとか、甘い考えは捨てなさいよ。この隊に入ったからにはこんな事、日常茶判事なんだから。」


「…うう…すいません…。」 


「……本当に情けないわね……あんたは。」



 ……一応不完全ではあるが、四柱の「神々の加護」を受け。何の訓練も経ていないこの"異世界"の15歳の少年としては、中々の肉体能力を授けられたレギであったが

。着慣れぬ重い鎧を身に着けた状態での、朝っぱらからの長距離行軍は流石に堪えていた……。


 情けなく言葉を零すレギへ、冷たく言葉を投げ掛けつつも。微妙に嬉しそうな表情を浮かべるエレとマードの態度に、密かに頬を引き攣らせるレギ……。隊員同士で多少はふざけ合う様に会話はなされるが、決して度を越したバカ騒ぎをする事は全くなく。程よい緊張感を細く長く維持する、独特な雰囲気が隊を包む中。其れから暫くエレとマードから散々バカにされながら、何だかんだレギの面倒を見て色々教えてくれる彼らに。レギは初め初対面時に感じていた"嫌悪感"が、既に薄れていっているのを感じていた。


 なじられながらも言葉を交わしていく度に、元は本当に小さな街の出身という事で少々…口が悪いが。根っこはとても気持ちの良い快活とした性格であり、情に厚く、本当はとても面倒見の良い人物達である事がよくわかった。とは言え……その情に厚さが、レギという「余所者」から"仲間他隊員"や"自身等"を過剰反応を示す大きな原因であるのだが…。


 

「――ほらッ!速度落とさない!こんな所でへばるなんて許さないって、言ったばっかりでしょッ。」


「……わ、解ってるけど…。」


「鎧を着た時は平気で立ち上がってた癖に……中途半端だな、お前は。」


「ははは……。」



 若干擦れた笑い声を上げ「だらしのない…。」「しっかりしろッ。」っと、エレとマードからの遠回しな"励まし"を受けながら。体全体に掛かる鎧の重さとその違和感、そしてそういった"精神的疲労"からくる無駄な体力の消耗に四苦八苦し。やっとの事で辿り着いた"ヘルツェ"なる都市の中間地点の、立派な造りの小さな井戸と簡易の整備・雨宿り小屋が設置せれた「休憩所」で。昼食を兼ねた休憩をする事と成り、荷馬車へ積み込んでいた食料を適当に運び出し。其々気ままに昼食をとり、腰を落ち着ける。



 ――米粉パンではなく焦げ茶色で堅い"黒パンライ麦パン"を出来るだけ薄く切り、スライスした乾酪チーズに干し肉とを挟んだ"サングイサンドイッチ"に。……"水"の系統魔法で生み出した真水と、赤黒い苺っぽい味の果物の砂糖漬けの簡単な昼食――。



 其れ等を、もう筋肉痛気味になっている体に鞭うち。レギは新入りとして"仕事"として、適当に宛がわれた食料で次々にこさえると。最後の隊員への配給を終え、自分用の昼食を片手に「レギ、こっちだ。」っとマードに呼ばれ。エレも一緒に座る手ごろな剥き出しの岩の椅子に腰を下ろし。漸く、休憩にありつくレギ……。



「うぁ~…疲れたぁ……。」


「あんたね……"中刻30分"経ったら、また歩き詰めるのよ?……大丈夫なの…?…。」


「…レギは筋力はまぁまぁあるが、持久力はないんだな。まぁ……頑張れ。」


「……頑張りマス。」



 バリバリと黒パンのサングイサンドイッチを頬張り、水で喉を潤し。不純物の少ない僅かに薄茶色の粒が混じる二等砂糖に漬けられた甘い、"ラグム"という生では酸味の強い苺風味の真っ赤でツルっと丸い野苺で疲れを癒しながら。エレとマードから今回の遠征任務と、その大体の日程を聞かされ。中々どころか、かなり厳しい日程に遠い眼になるレギに。「男でしょ、根性だしなさいッ。」っと一喝するエレと、ポンポン肩を叩きレギへ哀れみを向けだすマードに脱力する中。


 この第一分隊唯一の「聖職者」にして、数多くの薬草の知識と魔法とは又違う系統の""と""の使い手である「筆頭・衛生兵」であり、後ろへ一つに三つ編みをした茶髪に珍しい緑の瞳の白い法衣の女性――"カーメア・ハウト"と。

ダードと同じ斥候で隊随一の"女傑"(※マードからの情報)であり、短剣ダガー・体術から弓術も扱える「上がり」。バッサリとベリーショートに切られた栗毛に濃く鋭い青の瞳の――"ベリヌ・カント"の。

総勢16人の第一分隊の数少ない。エレとサエラを入れて、たった4人の女性隊員と顔を合わせ。


 他にもライゼルと同じ古参の「槍使い」で更に寡黙な性格の、短い黒髪にブラウンの瞳の細身の男性――"デル・ホウス"や。

初期装備である片手剣ショートソード円盾ラウンドシールドを主に扱う、双方同じ茶髪と黒目の若い二人組の男性――隊の中でも背の高い分類に入る"アルク・ティントス"と、少々アルクより背の低い"ヴァンス・アーレイ"等々。


 まだ余り話をした事のなかった隊員達と言葉を交わし、改めて自己紹介をしていると……。



 「そろそろ出発するぞッ。」っと声を上げた隊長デーガンに機敏に反応し手早く、降ろしていた食料の麻袋等を積み込み直すと。荷車を引くプロケルへ鞭を打ち、隊の歩行速度に合わせゆっくりと……。既に綺麗に整備された街道を抜け、小石が多く転がり。周囲の景色からは若草色の"陸稲畑"が消え失せた。僅かに目立つ小丘がポツポツと在るだけの、膝下しかない雑草の映える"平野"の。申し訳程度に人や"プロ車"(プロケルが牽く荷車・牽引車)が二台普通に通れる程の、大きな獣道の様な街道をひた進む第一分隊は。


 其れから本当に、一度も、休む事無く歩き詰め。、既に筋肉痛の満身創痍なレギは自身の体を引きずる様にして歩き、其れを心配しながらも厳しく励ますエレとマードに。そんなヘロヘロなレギの様子を笑ったり、囃し立てる分隊員にめげず引っ付いていく事約"六時6時間"余り……――――。



「――――レギ!ほら、アレが目的地の"ヘルツェ"よ。」


「……うん…。」


「…もう目の前だ、気張れ。後……ついても"ヘルツェ"の兵舎への物資搬入とか、補給もあるから。直ぐには休めないから、そのつもりでな。」


「うう…分かったよ。」



 もう随分と日が沈み始め、時刻は夕方の"三刻午後5時"程と成った頃。エヴェドニア王国の東部でも最も王都に近い「主要大都市」の一つ――"ヘルツェ"へ辿り着くと。


 都市を囲む城砦……その大門の守衛へ、指令書を見せ。夕方時の最も都市への通行を求める団体が多くひしめく中、兵士の特権として優先して都市への通行の許可を貰った第一分隊は。真っ直ぐとこの"ヘルツェ"にある兵舎へ進み、サッサとレギの知らぬ間に詰め込まれていた大量の物資を搬入すると。その分詰めれなかったこれから3日間の行きと、帰りの4日間に。任務が超過してしまった時の、規定・余過剰分の食料を……。


 副隊長であるノーマンが恐らくこの"ヘルツェ"の兵舎に駐屯している「第三軍」の兵士と、何やら真剣な顔で話し合うと。お互いに二枚の厚紙へ何かを書き出し合い始め、その後ノーマンがその厚紙の一枚を持って満面の笑みで帰って来たのだが。……ノーマンの背後に見えた"ヘルツェ"の兵士が、苦笑いして仲間に慰められている光景をレギは目撃し。「……何を話してたんだろ。」っと、思っていると……。



「――…うわぁ、副隊長……かっぱらってきたんですか?」


「相変わらず、顔に似合わずあくどいなぁ……。」


「ん?そうか?本当なら、自分らが駐屯してる都市で調達しないといけないのを。……俺らが王都ではだからって。うちの隊に、押し付けて来たんだ。ちょっとぐらい、補給に"色"を付けてもらったて、罰はあたらないさ。」



 「ハハハハハッ!!」っと珍しく高笑いする副隊長に、第一分隊の隊員達の多くが顔を引き吊らせる中。…微妙に訳が解ってないレギへ、こそっと、エレとマードが教えてくれた事によれば……。


 

 …本来、特に大きな都市に駐屯している兵舎の物資は、その配属された都市内で賄う事が常識で。大抵の兵舎ではそうしてその駐屯している都市と、其処に住む市民の信頼や協力関係を築く大事な役割があるのだが。色々な諸事情で……一部の所では比較的、必要としていた物資の卸値が安い都市から物資を賄い。本来なら、その商品を卸した商会が贔屓している"運搬業者"へ運搬を頼むのを、どういう訳か。身内でも一番立場の低い部隊へ、其れを運搬する様に強引に頼み込んでくる事があり。今回其れに白羽の矢が立ったのが、デーガン率いる東部遠征部隊第一分隊であという……。


 一応…「駐屯都市以外で物資を補給してはいけない。」という規則や義務はなく。基本的に推奨されているだけで、辺境の小都市やそれ以下の規模の駐屯地では物資不足になりやすい為よくある事である……らしいのだが。普通、王都に最も近く大きい"ヘルツェ"は、をしなくとも物資には余裕がある筈だが…。



「――まぁ、"ヘルツェ"は国境がある西とは真反対だしなぁ…。他の主要大都市よりは物資搬入の優先度も低いだうし……色々あるんだろ…。」


「つっても戦時でもないのに、こっち側がそんな物資不足に成る訳ないだろ…。どーせ、ケチな上官様が就いて良く分かんねぇ経費削減とかして、"点数"稼ごうとしてんだろッ。」



「……。」


――…なんか……一気にシビアな話になって来たな……。



 先輩隊員アルクとヴァンスの会話を聞きながら横で聞きながら、「軍隊って、結構大変なんだな…。」っと心中でそんな感想を抱きながら。提供された補給品主に食料確認に新入りとしてレギが手伝っていると、エレが「やった!ラグム赤い野苺の砂糖漬けッ!!」っと興奮しだし。他にも"ザールイワシの様な魔魚油漬けオイルサーディン"に、"ヴェルズイノブタの様な魔獣腸詰肉ソーセージ"等の遠征用の携帯食としてはかなり上等な品々に。第一分隊の面々が湧く中、隊長であるデーガンは呆れながら「…アイツ……どんな交渉してんだ…。」っと独り零す……。


 

 …――其れから他物資の補給や、今日提供された寝床へ毛布等の寝具を運び込む等の雑事を終え。やっと重い鎧から解放されたレギは(※レギだけ鎧を着けて作業させられていた…。)、分隊一同と共に"ヘルツェ"の「東部第一都市・第一駐屯兵舎」の食堂へ足を運ぶ。夕食を貰い予め用意されていたであろう、誰一人座っていない一ヶ所だけがら空きの席へ皆座ると。今日だけで約12時間程歩き詰めていたのが嘘だったかの様に、ワイワイと普段通りといった風で楽し気にで会話を楽しむ第一分隊の面々だが。当然……今回初めて長距離遠征に挑んだ(挑まされた)レギに、そんな元気などある筈もなく……。


 トマト風味の豆のスープと、毎度の白米にごろッとした鶏肉っぽい肉と野菜の炒め物。何かの木の実が練り込まれた焼き立て黒パンと、普通のゆで卵が一個の……気持ち昨日より豪華な夕食を。腹は空いてはいるが……疲れからモソモソと食べるレギへ。呆れた様に息をつきながら、昨日と同じ様にレギの両隣りに座ったエレとマードは。仕方なしに、レギへ声を掛ける…。



「もう……疲れてるのは解るけど、そんな顔で食べないでよ…。こっちのご飯もまずくなるじゃない。」


「うん…ごめん……。」


「腹は空いてるんならしっかり食べろ。…多分…今日の夕食はノーマンさんが掛け合っただけあって、豪勢だ。残すと勿体ないぞ。」


「…うん…。」


「「……。」」



 …思っていた以上に今日の行軍が堪えているらしいレギに、ちょっと本当に心配になってきたエレとマードがお互い黙って顔を見合わせていると。「あれ…。」っと小さく言葉が零れ、白米に添えられた肉炒めを注視しだしたレギに。如何したのかと疑問に思い、エレとマードが再び問いかける……。



「…料理がどうかしたの?」


「好き嫌いするなよレギ。」


「あ、いや。そうじゃなくて、この炒め物の味付けって……。」


――これっ……""だよな…!?…。



 今更ながら気づいた……もう口にする事はないだろうと思っていた望郷の味――"味噌"に。独り突然興奮しだすレギに、ちょっと引き気味の二人に構わず。この味噌っぽい調味料は何かと……終始変な顔をされながら問い詰めると。渋々…教えてくれた。この、味噌っぽい味の調味料"ファ・サル塩の豆"は……礼儀レギは知らないが、日本で言う処の所謂"寺納豆てらなっとう"――大豆を塩・麴で発酵乾燥熟成させた方の納豆で、豆のまんまの味噌みたいなもの、であり。よく、砕いて炒め物やスープにアクセントとして入れられている、エヴェドニア王国では非常にポピュラーな調味料らしい……。



 ニンニクと一緒に炒められた懐かしい味に、独り興奮しだしたかと思えば。今は感激した様に嬉しそうに、夕食を猛然と食べ進めるレギへ。エレやマード、それ以外の近くに座って見ていた隊員達から微妙な顔を向けられる……。


 


 ――其れから暫く周囲の隊員達から、「もっと根性見せろ。」だの「其れでもエヴェドニアの血を引く男かッ。」っと一喝を食らったり励まされたりし。隅で"ヘルツェ"の兵士達と情報交換をしている、初日に見たケルシュをかっ食らい古参のライゼルやダード他の隊員とガハガハ笑っていたりしていた表情から打って変わり…。厳つかった顔を真剣で神妙な面持ちに変え、話し込む「隊長デーガン」の意外な一面を横目に修めながら。食事を終え。


 用意された寝床へ向かうと。昨日の王都の兵舎で体験した、只の冷めた水による"業水"ではなく……"ヘルツェ"の兵舎が気を利かせたのか…。暖かい湯で業水をする事になり。数人の隊員がノーマンへ一瞬視線を移すが、何も言わず他の隊員達と嬉しそうにしながら業水を済ませると。話もそこそこに、サッサと毛布に潜り全員が就寝していく中。明日合わせてまだ3日も掛かる道のりと、その後の帰りの4日……更に、最長でも3~4日延長の別件の任務を受ける事もあるという。エレとマードの言に、若干不安な気持ちになりながらも。…レギは自身の毛布をかぶり直し、瞼を閉じる……。





 ――…同年代であるエレとマードと一先ずは、表面的な人間関係の改善がなされ。突然入ってきた新入りであるレギへ、兵士としての独特なシビアで…厳しい物言いが多く。この異世界の住人である彼らからすれば、極々"当然の事"を細かく聞いてくるレギへ。「何で知らないんだ…。」っという顔をしながらも、面倒がりながらも教えてくれる。男も女も誰もが頼もしく、逞しい、"東部遠征部隊第一分隊"の隊員達に。


 「何とか、やってけそうかな…。」っと独り思う……。エヴェドニア王国国軍・第二軍"東部遠征部隊第一分隊"所属。15歳の「兵士見習い」の少年――"レギ・アンド安堂礼儀"だった――…。


 

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