第3話  激動の始まり



――アンドウ様……アンドウ様…――…。




 …何処からか聞こえてくる、優しい女性の声――…。


 心地良い…淡い暗闇の中にいる礼儀は。その声に耳を貸さず、その暗闇の中で眠り続ける……が。




――…『 起きなさい 礼儀――…。 』


――…?…。




 先程の女性ではない…別の、の声に。思わず、礼儀は瞼を開く…。


 何時の間にか、暗闇の中で独り寝そべる自身の体を起こし。声の主を探し、ゆるりと辺りを見渡すも。当然、誰もおらず。しかし…ふと、視線を少し下へずらすと。其処に、一匹の"蜥蜴"を見つける――…。




「…お前が、俺を呼んだの?」


――………。




 蜥蜴はチロリっと舌を出すだけで、答えは返さない…。


 ――…全てを包み込む込む様な、暗闇の中に在って。決して其の暗闇に溶け込む事のない……"漆黒の鱗に金碧色の瞳を持つ蜥蜴"。――其の体は仄かに光を帯び、暗い鱗は時たま美しい緑の燐光を放つ……。



 …不思議で、何処かものを感じた礼儀は。ソッと、其の蜥蜴に手を伸ばし……触れる。すると途端に、蜥蜴は真っ白な光の塊に変り辺りを其の光で覆い尽くす。




――…ッ…!…。




 何時までも礼儀を包み込んでいた暗闇が、いとも簡単に塗り替えられてゆく…。


 …瞬く間に広がる「白い世界」――…。

礼儀の体も視界さえも、白へと無理潰されてゆく中……又、あの声が響く……。





――…『 起きなさい 礼儀… もう は近い――…。』






   *



   *

 



「――――……ンドウ様!アンドウ様!御起き下さい。…もう、朝の"四刻午前7"を過ぎました、アンドウ様ッ。」


「う……ん………って、あっはい!お、起きましたぁ!!」



 既に、朝の"四刻よんのこく"を過ぎたと聞き…。勢い良く飛び起き、焦って可笑しな声音を発する礼儀を。若干可笑しそうに微笑みながら、「召使」マルナはテキパキと礼儀へ、丁寧に簡潔に言葉を述べる。



「…その様ですね。でわ、少々急がばせながら……御早く、御体を御起こし下さい。直ぐに、をさせて頂きますので。。」


「あ、はい。直ぐに………御召し替え?」



 マルナの「御召し替え」という単語に、何か、厭なものを感じ問いかける礼儀に。ニッコリっと、美しい、満面の笑みを作るマルナ――…。



 ……約10分後…。

何となくゲッソリっとしながら、新しい――真っ白な質の良い綿のシャツと、同じ茶色のズボンに黒革のベルトを締め。無地の灰色の羊毛?の靴下に、しっかりとした焦げ茶の革靴ハーフブーツを履いた礼儀は。初めに紹介された時から変わらぬ、優しい微笑を讃えるマルナに促されながら。既に準備されていた、暖かな朝食が並べられた食卓へ座り手を動かす。



――…カリッカリに焼かれたベーコンとソーセージ(多分豚肉…)に、トロリとした普通に美味しいスクランブルエッグと。


 シャキシャキパリパリのレタス?と何か白い筋の入ったトマト?等の野菜のサラダに、酸味の効いたレモン風味のドレッシング。


 そして、昨日の夕食にも出た白パンの生地に、何かのナッツの入ったほんのり甘い丸パン。


 …形と皮の色はどう見ても「洋ナシ」なのだが、カットされた断面から見える果肉にはが入り…。見た目は普通に赤い「林檎」は、果肉が綺麗なで……"桃"の様なする…「果物の盛り合わせ」等――…。

(※果物はマルナがその場で綺麗にカットしてくれる……"新鮮"。)



――なんか……心臓に悪いよ、この世界の果物……。




 っと…料理とは違い、"現物"としてみせられるこの世界の果物を見ては。

恐る恐る、其れ等を口にする礼儀……。


 朝食である為。然程多くない品数は、あっという間に礼儀の腹の中へと納められ。食卓の上が綺麗に片付けられると。徐に、マルナが近づき、礼儀へ語り掛けてくる。



「…でわ、アンドウ様。早速ですが今日の"|五刻の中点午前9半"から行われます、「」の手順と。…ある程度の、「基本知識」の御教授を始めたいと思いますが…よろしいでしょうか?」


「はい。是非お願いします、"マルナさん"。」


「ふふ…。"マルナ"で構いませんよ、アンドウ様。」


「う、えっと……はい…。」



 歯切れの悪い返答を返す礼儀に…少々、困ったような顔で微笑むマルナは。

話題を変え、先程述べた「募兵試験」と「基本知識」について。礼儀へ、教授を始める――…。



 ――「募兵試験」とは。この世界の多くの国家で発令されている「募兵制度」という……働き手の余った又は家督を継げない農村部・都市部の青年達や、その他仕事にあぶれ力の有り余った者達。場合によっては元傭兵等の武芸者もを、する制度があり。「募集試験」はその名の通りある程度向き不向きや、必要最低限の適正な人格・能力を有しているかを判断し。其れ以外を間引く試験である。




 っで。何故礼儀が、そんな試験を受けなければならないのかというと……。


 既に、礼儀が入る…される小隊には、粗方の事情が通達されている為。其れのみを考えれば、試験なしで直ぐに配属させても問題がない様に見えるが。そう簡単には、済ます事が出来ない事情がエヴェドニア王国側にはある……。


 …実の処。「勇者召喚の儀」を行って『白燕の勇者』を呼び出した事実は、""にしか。まだ、知らされていないらしく…。更に、『魔皇再臨』の時までは決して、「。」という。頑強で強力な『誓い』が、四大国間で立てられ。既定の限られた地位・関係者にしか、その事実を提示できない決まりとなっていた。


 之は『魔皇』の"天敵"とも言える『勇者』を召喚した事実を、『魔皇』側に出来るだけ隠蔽する為と。召喚されたばかりの、まだ此方の世界の知識や能力が発展途上である『勇者』を保護する狙いがあり。……又『勇者』という…を保有する事により、将来的に増大する"武力"を自国のみで考える国家から。其々の国家で保有する『勇者』を、暗殺・謀殺等の。最も重要な"命題"…『魔皇討伐』のギリギリまで

『勇者』を事が、大きな"理由"であった……。




 とわ言え…。礼儀は別に『勇者』でも何でもない、ただ「勇者召喚の儀」に巻き込まれた。あくまでこの世界の、優秀な「神々の加護」を受けているだけで。肝心の『六大神の光』は授かってはいない…。


 が、そうは問屋が卸さず…。例え礼儀が、『勇者』の"成り損ない"であっても。どの国家でも、優秀な人材は重宝されるもので。見つけ隙があり次第、無理やりでも囲い込む国家は少なからずあり。其れなのに、礼儀がこんなにも自由が許されたのは。現国王・ガゼストラ王が今代きっての"穏健派"と呼ばれる王であり、元々のとしての"根本的な性質"があったからに他ならない…。


 又中途半端に優秀な能力を持ち、『勇者』という将来の一線級の逸物と"同郷"であるという事実は。十分に、要らぬ注目を集めてしまう。今の礼儀は自身でも解らない程、見えない処でかなりの"隠蔽工作"が施されており…。召喚された直ぐも、礼儀がお風呂やトイレに行く際の通路は全て。あらゆる処置で「通行止め」だったり通路を通る時間をずらすなどして、誰とも擦れ違わないようにしたりと。非常に細々とした工作がされていた――。


 

 ――それ故。礼儀を既定の小隊へ入隊させる際…。

表向きのとして礼儀の身分を「ちょっと裕福な平民」っと通す事が、礼儀とガゼストラ王間で内密に……以上…。「只の平民」を自国の王が態々擁護するような動きを感づかれると、後々面倒な事態に成りかねない。其の為、礼儀には見せかけでも「募兵試験」を普通に受けてもらい。ある程度を消す様に立ち回る事で、王国側、延いては礼儀自身の「身の安全」を確保する為の。致し方ない処置であった……。


 


「――という事で。基本的に試験で重要視されるのは"剣術"等の武力と言うよりも、

"体力"と"やる気"です。此れは多くの募兵志願者が、「只の平民」である事が大半な為で。当然、大した護身術のなど持ち得ない平民に。そうした、解り切った事で全ての合否を決める事はありません。」


「なるほど。つまり…募兵試験は、武術とか実践的な能力より。敢えて、其の前段階で必要な"体力"とか"やる気"とかの能力の方が重要だと……。」


「はい。アンドウ様は呑み込みが早く、助かりますね…。後は、細々と理由はありますが。一番の理由は今の"春季"は、時期的に丁度「兵役制度」の任期が切れ。故郷へ帰還する為に退役する者が其れなりに居りますから。

其の分の「」という意味合いもありますし。特に余り重要度・危険度の低く、しかし治安維持には必要な「」の隊員は。せめて減った人数分は、早めに補充しておきたいのでしょう…。」


「ああ、「衛士えいし」ですか。えっと……こっちの「警察」みたいなものですかね。」



 …「衛士えいし」――其れは、礼儀が発した通りの「治安維持部隊」であり。衛士はが主な仕事で、殆どが"平民の軍隊"である「第三軍」の仕事で。平民間でのトラブルや窃盗・火事等の、軽犯軽事件の仲介・取り締まり・緊急救護活動の方での治安維持での活躍が期待されている。


 殺人等の重度国法違反の重犯罪の実働取り締まり、又主に"王都"を中心とした街道等の外部で危険度の高い警邏は。国軍の主に「第二軍」と「第三軍」とが分担して取り仕切っており。当然、"王都"周辺に近づく程その警邏する兵の練度は上がり、王都の警邏に限って言えば……王国最高の練度を誇る"貴族の軍隊"である「第一軍」――「白金騎士団」が、その任についていた――…。


 

「――………「ケイサツ」…ですか?…アンドウ様の世界での「衛士」は、そう御呼ばれに?」


「あ、はい。すみません……あっち《地球》の事なんて、こちらでは解らないですよね…。」


「いえ、その様な事は御座いませんので、御構いなく…。

試験の方は単純な「体力試験」と、簡単なある程度の"兵士"としての適格な性格かを判断する「適正試験」程度ですし…。特にアンドウ様は…「神々の御加護」と、予めの通達もされておりますので。…定員割れで間引かれるという心配は、

万に一つもございませんので。余り、気負い過ぎないで下さいね。」


「そう聞いてはいますけど……。でも、ある程度はこう…"実力"を?…出さないとなんですよね?」


「…確かに。アンドウ様が入隊される小隊は一応…"第三百九十九"の呼称を貰う程度には、練度の高い兵が詰めてはいますが……。先程、述べた通り。通達は既に完了し、内密な会談も済んでいると聞き及んでおりますので。其れほど、気に病まずとも大丈夫であると、愚考しますが…。」


「そうでしたか…。」



 フウ…っと、小さく息を吐き出し。まだ少し、不安がある様子の礼儀へ。

優しく、声を掛けながら、マルナは礼儀の様子と時計を見つめると。…少々駆け足となるが。時間的な都合上直ぐにでも、最低限の「基本知識」の教授を始めるべきと判断したマルナは。礼儀へ向き直り、次なる話の話題を振る。



「でわ…。申し訳ございませんが、時間も、余り在りませんので。次の御話に映りますが、よろしいですか?アンドウ様…。」


「ええ、構いません。……お願いします。」


「ふふ、承知しました、アンドウ様。」



 ……その後。此のエヴェドニア王国で使われている硬貨と、其の数え方や通貨単位に。大きく貴族・平民と分けられた大抵の国々に共通する「身分制度」や、其の"身分の壁"と大体の力関係…。其れと大雑把な平民の暮らしぶりや食事・仕事・服装の特徴や傾向等の、礼儀の表向きの"身分設定"を在るだけ補強する「豆知識」の様なものを聞かされ。時間は、あっという間に過ぎ去り。時刻は、"五刻午前9時"間近まで迫っていた――…。



「――…っと、こんな処でしょうか…。後々また知らない事・良く分からない単語や御話も多々出てくるでしょうが。今お教えした事柄が頭に入っていれば、先ず、簡単な対人関係や生活にはそれ程支障はでないかと思われますので。どうぞ、ご容赦くださいませ…。」


「いえ。色々と…教えて下さって、ありがとうございます。マルナさん。」


「…御礼など。私は只、自身の務めを果たしたまでですので……。

…でわ、もう良い御時間となりましたので、今日の所は之で終わりとしましょう。早速ですが、試験場までこれから移動いたします。私が途中までご案内いたしますので、アンドウ様は私の後を付いて来て下さいませ。」


「はいッ、分かりました。」



 いよいよと迫った「募兵試験」……。既に、全てが御膳立てられてはいるものの。此れからの厳しいであろう訓練と、この世界に生きる"なま"の人達との対話……不安は尽きない…。


 マルナと最後の持ち物確認――此のエヴェドニア王国又他国でも通用する"身分証明書"「戸籍板こせきばん」という。基本全ての安価な鉄のプレートと。試験を受ける際に支払う:1000メア(大銅貨1枚)に、一応の援助金の一部:3000メア(半銀貨1枚に大銅貨1枚)。其れ等を、手早く確認した後。……昨日一晩寝泊まりした部屋を、後にする礼儀とマルナ…。


 誰とも擦れ違わない…豪奢な回廊から、段々と装飾がなくなり……只の下級召使や物資搬入業者等の"下っ端"が出入りする専用の「裏門」少し前まで来ると。マルナから「…大した材質ではありませんが、私からの心ばかりの"餞別"です。」っと、薄茶で厚手の麻の外套クロークを貰い受け。其れを羽織り頭巾フードを目深に被って、余り顔が見えないよう隠す礼儀へ。


 何も言わず微笑むマルナも又、一体いつ着替えたのか…綺麗な御仕事着せから礼儀が今着ている様な、質は良いが簡素な綿製の。恐らく…「城下町風王都民の服装」の衣装に身を包み、同じく外套クローク頭巾フードを目深に被ると。小さく「何も喋らず、私の後へしっかり付いて来て下さいませ。」っと礼儀へ声を掛け、歩き出すマルナ。其れにピッタリと着いて行きながら、礼儀は周囲にいる人々へソッと目を向ける…――。




 ――今までに見た、ガゼストラ王や其の姫君達と、マルナを含むその他貴族達…。


 其れ等とはやはり服装やその顔立ちの整い方、雰囲気は異なる全く異なるものの。周囲で忙しなく木製の大きな荷馬車から…野菜・果物等の食材の入った麻袋を降ろす、大柄で力のありそうな男達や。……マルナよりもかなり格下の召使の、歳のいった女性や少女の混じる集団からは。やはり同じ……白人の様な肌色で在りながら、其れよりも柔らかな彫りと、線の細さが見受けられ。何処か"日本人的"な雰囲気のある……外人っぽい容姿。多くが栗毛に茶髪や淡い金髪、時たま混じる黒の髪色。瞳はどうもブラウンと黒が多く、蒼眼の人は気持ち栗毛持ちに多い……気がする。


 服装は男性は綿の白い…若干薄汚れたシャツに茶色や灰色のズボン。少々染が荒いもののしっかりとした革のベルトと、革靴ハーフブーツに綿か…羊毛の靴下を履き。場合によっては、袖なし上着チョッキを着込んでいる。


 女性は……この場には下級召使ぐらいしかいないようなので、マルナを参考にすれば。此方も白いシャツに、袖のない簡単な型の赤みがかった薄茶のワンピースを着て。スカート丈は、くるぶしちょっと上あたりまで伸びて。靴は男と同じか、もう少し細身で浅い"パンプス"の様な靴を履いている…――。




――なんか……やっぱ、あっち地球の白人とは違うんだな。

…もう、なんだ……。




 …しみじみと、ここは別の世界なんだという事を"再確認"した礼儀は。マルナに遅れないよう、周囲へ視線を走らせるのを止め、前を向く。


 朝の喧噪とも言うべき物資搬入や、大量の洗濯物を忙しく運ぶ下級召使達の間をすり抜け。直ぐ目の前に大人4~5人が両腕を広げ通れる程大きい、分厚い焦げ茶の木材を重ね、ふちや表裏へ黒っぽい金属で鋲打ちで補強された「裏門」が見え。全開に開け放たれた門の両脇には少々くたびれた…薄い傷のある頑丈そうな革鎧レーザーアーマーに、下に細かい鎖の服チェーンメイルを着込み。其々右手に身長より少々長めの槍と、腰には革の鞘に入った片手半剣バスターソードの様なものを装備した「兵士」が立っている。




――「兵士」か……あの人達は、何処の隊の兵士なのかな……。




 …革鎧は所々、薄い金属板でしっかりと補強され。鎧の左胸には、手の平へ丁度収まるぐらいの。恐らく、このエヴェドニア王国の紋章がプレスされた、鈍い銀色の薄いプレートが打ち付けられているが。特に、その者の所属を示す物は《一見》見受けられない。なので礼儀の門の両脇に立つ二人の男の兵士達への認識は、「只の門番」程度で。それ以下でも、それ以上でもない…。




――紋章入りのプレートを付けてるし、「王国兵士」には違いないんだろうけど。

何処所属とかは解らないや…。入隊したら、其処らへんの説明があるのかな?




 まだ、知らない事が多過ぎ。何が知っているべきで、何が知っていなくて当然なのかの線引きが現状全く出来ない礼儀は。その問題を一旦、端に捨て置く…。


 何でもマルナに聞けば、多分全ての問いに応えてくれる気がするが。…当然、頼りっきりにしていては"自分の身"にはならない。こっち側の生活風習に関しては、逐一聞いて知識を補填するする必要があるが。其れにだって"限度"がある…。最終的には自分で考え、噛み砕いてそれらを飲み込み。其れを前提に周囲と自身の考えを"擦り合わせ"、"努力"を示さなければ。……周囲から極端に離され、又大した理由も無く"いじめ"られる……。




――…要は「転校」の時と同じ……。例え、友達に恵まれなかったとしても。ある程度、自分の立ち位置を解りさえすれば。後は…きっと、どうとでもなる――

筈だ……。




 …「転校」を繰り返し。両親からの「愛情」はあったが、長期間の家族団欒の日々は"普通の家庭"よりか少ない……。逆に「愛情」があった故に、其れは。又男特有の"性の性質"的に、「孤独独りでいる事」には滅法強い質である為。礼儀は常に、周囲へ過剰に「愛情」は求める事はないし、執着もしない…。


 とは言え、不安は当然あり。そもそもここは「異世界」。あちら地球の常識とは、"全く違う常識"で回っている可能性は高く。まして"日本"という比較的「平和」な、"戦争をしない"とまで掲げた国のルールが。……どう見ても"合法"で、堂々と「剣」や「槍」等のの携帯を許す国で。果たして、何処まで通用するというのか……。


 


――"不安"……不安過ぎるだろ…こんなの…。




 早くも弱音が顔を出しつつある礼儀は、大きく……息を吸い込み、吐き出す…

…。


 そんな仕草に目聡く気づいたマルナが、礼儀へ振り返ろうとし――寸前の所で押し留まる…。何とも気の利く、「召使」マルナの気遣いに。頭が上がらないな、っと心中で呟きながら。門番風の兵士達にマルナが要件を伝え許可が出ると、「裏門」を潜る。


 …其処を出て、先ず目に入ったのは。今迄の王城の回廊・「裏門」までの全ての地面に敷き詰められていたのと同じ、綺麗な石畳の地面と。……同じく、石造りの2~3階建ての規則正しく密集して建てられた、建造物の数々――。「裏門」側から出たからか、余り人気はなく。いるのは、やはり物資搬入の為の業者と其の管理をしているのであろう…小綺麗な服の役人のみ…。


 外から見ると其の雄大さが良く分かる、荘厳な高い石の塔が何棟も立ち上がる王城と……。其の城を囲う、10メートル以上の城壁を沿う様に歩くマルナについて行きながら。「今から試験場の一つである、「東門」へ向かいます。」と言うマルナの聞き、頷く礼儀。


 ……堅く、歪みの少ない灰色の道を歩き。段々と外を出歩いている人が多くなり、周囲の話声が礼儀の元まで聞こえ出し始め。所々にしかなかった「露店」が多くなり、其の間隔が徐々に狭まってきた頃。


 

「…――見えてきましたね…。もう、随分と並んでいるようですが。が今回、アンドウ様が御受けになる「募兵試験」の――"志願者達"です。」


「…うわっ。凄いですね…は――…。」



 礼儀と、マルナの視線の先へ広がる人、人、人……。

既に、数百人強の人間が……歪な長蛇の列を造り。遠くの列では、何か"補導員"らしき人達が。志願者同士の争いを必死に納めようと、あたふたと右往左往している…。


 …そんな、予想以上の。"日本"では余り考えられない、"猥雑"で"面倒な"雰囲気を多分に含む列へ。……今から並ぶのかと思うと。さっきまでの不安とは、又違う不安が礼儀の心中に滲む…。其れを慰めるようにマルナ自身も、ちょっと苦笑い気味で礼儀の肩に手を置くと小さく声を掛け。二人は、何処まで続いているかも判らない………遠大な列を正眼に据えると。



 其の初めの一歩を、共に踏み出した――――……。



 


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