始まりの始まり
第1話 勇者召喚…
「――――おおッ!!…成功……成功だ!!ああ、よくやったぞ!メルディアッ!!!」
「はいッ!
「おめでとうございます!お姉様!!」
「…?……??…。」
――…眩い光に囲まれ。
いつの間にか、床に尻餅を着いた様な体勢の彼―安堂礼儀は。今、全く理解出来ない状況に陥っていた…。
「やったぞッ!!やっと我らにも"勇者"が!」
「我が国も、之で安泰だな!」
「まさか。まだ生きている内に拝めるとは…!」
――……ゆうしゃ?
興奮する周囲の人々の、歓喜の声が響く。窓のない、石造りの広い空間。
口々に何か喜んでいる人々が放った、「勇者」という単語に。礼儀は一瞬、
厭なもの感じ。心の中で、その単語を反復していると……。
「――何とか成功はしましたね…。」
「……之で暫くは。周辺各国にも面目が立つ、か…。」
「ああ、そうだな。まぁ…《《まだ安心は出来ないが》…。」
「……まったくだ。」
「……?」
――…何の、話だろ……。
周囲の歓声に混じり聞こえた。何か深刻で、真剣な声音の男達の声…。
その話される内容は、礼儀には全く容量を得ないものだったが。その男達の端声からは、何処か不穏なものが混じっている様に聞こえる。
…今だ強い光を放つ、あの魔法陣の上で。
礼儀は、混乱する心中にあって。冷静な思考を巡らせ更に、周囲にいる人々へ視線を向ける――…。
――……それにしても。あの人達、凄い服着てるなぁ……。
礼儀の目に、初めに飛び込んできたのは。先程、大きな声を張り上げ。礼儀から
2~3mぐらい離れた位置で、二人の女性と抱き合っている。天鵞絨の様な艶を放つ、金色のマントを身に纏った齢40~50代程の男性…。白人にしては、
少々柔らかい印象と線の細さが伺える整った容姿に。若干白髪の混じる栗毛の、手入れの行き届いた艶やかショートヘア。そしてアイスブルーの瞳に、上品な薄茶色の口髭を蓄えた、この男性。
頭部には、何か本で見た様な…大きな「王冠」を被っており。マントの下に見える服は、ごてごてとした金や宝石の様な物でこれでもかと装飾され。まるで「貴族」の様。
また、その男性と抱き合っている二人の女性も凄いもので……。
一番背が高く、まさに「女性」と表現するに足る色香を感じさせる。真っ白な
ドレスに身を包む、同じく栗毛色の長いロングヘアをたなびかせる人は。これまた
金の刺繍で装飾されたそのドレスは見事なもので。僅かに見える白い靴にまで、細かな装飾が施され。そのアイスブルーの瞳の上で輝く、金の糸を編んだかのような繊細な造りの……所謂「
そんな美しい白いドレスの女性を、まるで労わる様に抱きしめる。もう人の
女性……「少女」は。薄い、パステルブルーのドレスで身を飾っており。女性よりも、多くのフリルやリボンがたっぷり使われたドレスはとても愛らしく。二人とは違い、栗毛色よりももっと薄い。ミルクティーの様な淡い髪色のセミロングは、ふんわりと甘やかな雰囲気を醸し出し。澄んだペリドットの瞳が、艶やかに輝いている――…。
――なんか…。お伽噺の「王様」と、「お姫様」みたいだ…。
そんな事を、ボンヤリと考えた時。「ゴホンッ。」っと、誰かが咳込み
注目を促す……。
すると途端に、周囲の騒がしかった声という声が消え失せ。数人の人々が、若干青い顔を見せながら。それを合図に、さっきまでバラバラに散らばっていた人々は。恐らく、予め決まっていたのであろう定位置に戻り。礼儀の周りを……魔法陣を囲む様な位置取りと成ると。それから、神殿内に雑音一つ聞こえなくなった時――あの、金色のマントを纏った男性がこちらへ顔を向け。言葉を、述べ始める。
「――ゴホンッ。…いやはや、申し訳ない。突然の事で混乱したであろう、
貴殿らを差し置いて。つい、我を失っていたようだ。
……まったくもって、かたじけない。」
「い、いえ。そんな事は――」
どう見ても、礼儀より遥かに年上で。且つ、高貴な雰囲気を多分に醸し出す人の、突然の「謝罪」に。少々、あたふたと返事を返す礼儀の言葉を遮る……
聞き覚えのある少年の声が、周囲に響き渡る――…。
「――そんな、頭を上げてください!貴方の様な偉い方に頭を下げて頂くなんて……恐れ多い事です!」
「……え…?…。」
――な……何で、アイツがいるんだ!?
……頭を下げる、目上の男性へ。
礼儀の言葉を遮ってまで、顔を上げる様懇願し前へ進み出て来た少年。その少年の、チラリと……とても見覚えのある横顔に。思わず唖然としながら、以外な人物の登場をその目に焼き付ける。その、少年の名は――。
あの、突然足元に浮かんだ魔法陣が現れる数分前に見た。礼儀が「転校」して来た学校――「私立・光英中学校」の、全生徒憧れの的……。
――あの、「超人気者」六人組の"リーダー"。
"
*
*
*
――所変わり。あれから、少々時間が経ち。
白を基調とした趣のある。白いテーブルクロスが敷かれた、長細い机と椅子が鎮座する。とある、一室――……。
「――…つまり。其方等、六人は。「四大神」が一柱……。
『再生と慈悲の神』"
『
「…僕らが、『勇者』。」
「本当に、私達が…?…。」
「マジで?」
「マジだろ、どう考えても…。」
「はあ…。まさか、本当に現実になるとは……。」
「ちょっと…突飛よね。」
「……。」
一息に。つらつらと要点をまとめ、事の次第を説明し終えた。あの金色のマントの男性――この異世界の大国『エヴェドニア王国』の"現国王"――
ガゼストラ・オルク・レイ=クレクト・エヴェドニアと。其の内容に堪えかね、ポツリと呟きを零す蒼汰……と、他「超人気者」六人衆に。礼儀独りは。
ガゼストラ王の申し出によって案内された。この王城に務める一部の
官職が使用する、ちょっとした話し合いの場として用意された。「王城勤め専用・談話室」という、蒼汰達に配慮して用意された。煌びやかな装飾を、ある程度抑えられた一室で。彼らは互いに、対面となって着席していた。
「……突然の召喚に戸惑ってしまう気持ちは、良く分かる。が、しかし……。
先程説明した通り、其方等は六人だけで戦う訳ではない…。他国の中でも「四大大国」と呼ばれる四つの国々は、既に残り三柱の『勇者』を召喚し終えておる…――。」
「…!そうなのですね。」
――…他国は、もう他の勇者を召喚してるのか……。
――既に召喚された、『他の勇者』達……。
礼儀と、ガゼストラ王の言葉が示す通り。実はこの世界、『勇者』が何故か複数存在しているらしく…。この世界のほぼ、全人類に信仰される。大いなる、世界の創造を担った「六大神」――――…。
『創世と結実の神』――"至高神"ペルフェトゥス。
『繁栄と闘志の神』――"武神"フォルティード。
『証明と探求の神』――"知識神"サピエンテ。
『豊穣と調律の神』――"秩序神"シンケルス。
『知恵と研鑽の神』――"技神"テナクス。
そこへ、最後にヴェリタリスが加わった六柱の神々の内。
その中でも、「至高神」と「知識神」を除いた残り四柱を「四大神」と呼び。その
神々が選定した『勇者』を。その神固有の「
例えば、ヴェリタリスの眷属は「白い
必ず、一柱につき六人が選ばれる為。この世界には今現在…。
合計して、きっかり『24人の勇者』が存在していた……。
「――…とはいえ。多少、他国に遅れをとったからと言って。決して、其方等が劣っている訳ではない。幸いな事に……。『魔皇』の出現も既に、各神々の神殿に籠る『聖女』達が予見し。其の予見を鑑みて。十分な猶予をもって、我らも「勇者召喚の儀」を行っておる。故に、まだそれほど、焦らなくともよい。」
「…そうなんですね。良かった……。」
「なるほど…。予め、準備が出来る様になっているのですね。」
「あ、直ぐに「魔王」と戦う訳じゃないんだ……。」
「いや、そりゃそうだろ智春…。俺ら、そんな訓練した事ないぞ。」
「猶予があったのか。……ガゼストラ王、その猶予は一体どれ程あるのですか?」
「そこが重要よね……。私達は、此れからどう動くんです?」
――…あれ…『聖女』?さっきまでのガゼストラ王達の説明にはなかったけど…。余り、関係ないって事か?
既に予想されているという、『魔皇』なる脅威が現れる「3年のタイムリミット」…。一部、説明にない単語に。礼儀が心中首を捻り、疑問に思っている間に。着々と、彼らの会話は進んでゆく…。
「ふむ…。我がエヴェドニア王国の「主催神」、ヴェリタリスの『聖女』が言うには。遅くとも、5年……早くて3年の間は護られるで在ろう。と、返答をよこしてきている…。」
「え?3年もあるんですか?」
「うむ、そうだと聞いておる。が、勿論。その予見が外れる可能性は無きに有らず…。|あちら魔皇側とて……「神」はおるのでな…。」
「あちらの……神、ですか?」
「そう。たかが一個人で、強大過ぎる力を振るう『魔皇』……魔族達にもまた。まさに『神』と呼ぶべき……「邪悪なる神々」は存在しておる。もし、その神々がこちらへ手を出そうとも。我らが「六大神」は、其れを当然退けはするが…。其れもあくまで、"退ける"に過ぎん。」
「それ程…その「六大神」と「邪悪なる神々」は……力が拮抗していると?」
「……度し難い事だが。そういう事に、なるであろうな…――。」
「「「……。」」」
――少しずつ。会話の内容に重く、濃い不穏の色が見え始めた処で。先程まで其々の、感想の様な…意見の様なモノを述べていた筈の蒼汰達は。一同その不穏な雰囲気に気づいたかように、口を閉ざし始める……。
そんな、暗い表情が見え隠れし始めた彼らに。ガゼストラ王とは真逆の、若々しい…澄んだ、鈴の如き美しい声音が。彼らの、耳元へ運ばれてくる――。
「――『白燕の勇者』様方。如何か、そんな暗いお顔をなさらないで下さい…。
貴方様方は私共のまさに、暗く澱んだ闇夜を照らす「希望の星」。
……事態がいずれ、深刻な状況に向かっていく事は"
貴方様方だけで戦う訳ではございありませんし、猶予もまだ3年間もあるのです。他の三柱の『勇者』も、条件は同じ…。我々エヴェドニア王国も、協力は惜しみません。ですので如何か、まだ、気を落として仕舞わないでください。貴方様方には我々が……
「メルディア姫……。申し訳ありませんでした…僕らは、まだ始まってもいない戦いに怯えてしまったようです…。」
「…ええ。まだ何一つ努力もせずに、気落ちしてしまうなんて……恥かしいです。」
「ごめんなさい、メルディア殿下…。」
「そうだよな…。まだ、これからだっていうのに……。」
「……まだ3年あるのなら。それまでに出来る限りの準備と、対策を立てる…。
そう、今迄と同じことだ…。」
「そうね…。例え足りなくても、其れは私達皆で埋めればいいものね……。」
――……上手い事、やる気にさせてるなてるなぁ。あの王女様……。
美しき声音を奮わせ。蒼汰達の見る間に沈んでいった感情グラフを、一気に持ち直してみせた人物…。
ガゼストラ王が娘にして、蒼汰達と礼儀を召喚した"
この「エヴェドニア王国」の"第一王女"――
メルディア・オルク・レイ=プリメロ・エヴェドニアの励ましに。再び表情を明るくさせた蒼汰達へ。更なる励ましが…また一つ、加わる事で。六人の意欲は、更に向上されていく――…。
「――ええ!その意気です、『勇者』様方!。私も、お姉様に同じく。
皆様の武運を我らが女神…ヴェリタリス様にお祈り致します!!」
「我も、遅らせながら言葉を贈らせてもらおう。我も、我が国も。この世界を
救い得る其方等の力を、ここに、最後まで信じ続けると誓おう!!
出来得る限りの協力は惜しまぬ!如何か、恐ろしい『魔皇』を打ち滅ぼし……
如何か、この世界を……救ってはくれまいか!!」
「ケティルリナ姫…。それに、ガゼストラ王まで…!…。」
「メルディア殿下とケティルリナ姫。それに、ガゼストラ王にまで励まして頂けるなんて…。」
「姫様と王様にまで励まされたら……之は、やるっきゃないよね!!」
「だな!!」
「この世界の大国が、自分達のバックに着いていてくれっていうのなら…。
もう、百人力だな。」
「うん。これなら、絶対いけそうね…!」
――………。
"第二王女"――ケティルリナ・オルク・レイ=セグンド・エヴェドニア。
大国「エヴェドニア王国」のトップ三人から送られた、激励の言葉に。いよいよ、その気持ちの昂りが最高潮へと高まった六人と。……そうなるよう、全てを仕向けた二人の男女……。
礼儀は、薄々それに気づきながらも…。自身の立場の都合上…。自分が出しゃばるのは、まさに自殺行為だとして。今迄、沈黙を貫き通してきたのだが。ふと…ケティルリナ姫と視線が交わり。つい、その美しく、可愛らしい容姿に礼儀の目が留まった時……。
…徐に、再びケティルリナ姫は席から立ち上がると。その顔にまるで、大輪の花が咲き誇った様な微笑を讃え……礼儀を。其の、青い瞳の中へと固定する――…。
――…な、なんか…嫌な予感が……。
「…ケティルリナ?」
突如、また席から立ち上がるケティルリナへ。父・ガゼストラ王を挟み、一つ左の席に着いていた姉のメルディアが。ケティルリナへ、不思議そうに問いかけ。
その時。ケティルリナの瞳の中で輝く、「好意の光」を目にし――――メルディアは、"戦慄"する――。
同じく、それに気づいたガゼストラ王は。慌ててケティルリナの顔を覗き込み、制止の言葉を発しようとする――しかし――…。
「ケ、ケティル――。」
「――ああッ、アンドウ様!如何か、そんなお顔をなさらないで……。
大丈夫です、安心なさって。例え、貴方様が『勇者』様で《なくとも》。
この私……第二王女・ケティルリナが。アンドウ様のこれからの「身の安全」と「安定した生活」を。全て!保障致しますわ!!」
「…へ?」
「な、ケティルリナ…其方…!…。」
「ケティルリナ……貴方…。」
ケティルリナの……唐突な。
『勇者』でも何でもない…ただの「
――どうしよう…これ……。
痛々しい程に向けられる…。様々な、礼儀への"同情"の視線に辟易しながら。
礼儀は大きく、盛大に、溜息を吐き出す――――……。
――…『勇者』ではない――「迷い人」…。
その言葉が指し示す、礼儀の立ち位置――其れは…。
……『勇者召喚』に於いて。
極々、稀に現れる。「七人目」として召喚された、所謂「余過剰要員」であり。この異世界の者でも、持つ者は少ない…「神々の加護」を与えられてはいるものの。本当の『六人の勇者』に与えられた「加護」には、遠く及ばない…。
また、致命的な欠点として――…。
本来『勇者召喚の儀』という大儀式によって、「加護」と同時に与えられる筈の。『魔皇』の纏う強力無比な「
ただ、『勇者召喚』に"巻き込まれた"だけの元一般人――安堂礼儀は。気心も知れない六人の同郷の少年少女と、全く未知数な異世界の住人達と。此れから、今から……どう、立ち回るのかを必死に考えながら。
礼儀の方へ、仕方なしに向き直ってくる。ガゼストラ王並びに、その他の人々との交渉の時に…。思わず…頭を抱えたくなる衝動を抑え込み、こちらも彼らへと向き直った礼儀は。本当に何故だか……ケティルリナ姫という味方?に擁護してもらいながら。出来る得る限りの、様々な「必要最低限の援助」を――"お情け"をもぎとる為に――…。
礼儀は、今までにないほど頭を働かせ。双方の「要求」を、どう満たすかの調整を話し合っていった――…。
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