ep.13 割と魔王はもう死んでいる?

-思想空間 最上階-




馬鹿だねえ、ほんと。馬鹿だよ魔王様、これ、今回最終回だよ。決定だよほんと。


(「割と魔王はポジティブです!」の看板をもの悲しそうに携えたスーツ姿の著者カミは言う。)


著者カミさま。最後になるかもしれないのであなたに1つ聞きたいことがあるんですが。


ん?なにかな?



著者カミさまはあちらの世界ではお幸せに過ごされていたのでしょうか?


えーっ?急だな、僕かい?僕はまあ独り身だったけど、なんとか楽しくやれていたよーなないよーな。うん、よくわかんないね!!!まったく。まあ楽しかったんじゃないかな!


やはり我を作っただけあって我と考え方がかなり似ていますね。


ああそう?まあ君を作ったのが僕だからね。


もしこのお話が終わってしまったら、我はあなたとはやはり今後会えなくなってしまうのでしょうか。


うん、まあ始まりがあったら終わりがあるから仕方ないことさ。-寂しくなるけどね。


しかし著者カミさま、ご安心ください。だってまだ張り巡らされた大事な草案をお話にしておりませんよ。


え?なんかあったっけ?


(著者カミは驚く)


まず我の父が出てくるお話。競龍についての熱いお話。エレナ・パフェヌドールの魔王城でのドンチャン日常話、ルカジマがメインのお話やらミギウデがメインのお話がまだです。さらに言うと我のライバルとなるであろう勇者が真の力を発揮する話、この偉大なる魔王がこの先どうなるのか。そういった話も草案にあったと思います。新たなる未知の敵集の簿冊は流石にネタバレが過ぎるし個人的に面白くなくなるので我にも開けられませんでしたが。


えーっと、魔王様。あなたいつの間にそんな情報をどこで知ったの?


魔王城魔術大図書館の隅で見つけました。


僕でも理解できない程広いのに!よく見つけたねー!てか僕あそこにこんな大事な資料忘れてたんだねえー。


あと著者カミさま、これを。


(魔王様は何やら小さく折り畳まれた小さな紙を手渡した)


うん?この紙は何だい?


(著者カミはその小さく折り畳まれた紙を開いて書かれていた文を読んだ)



「人生はコメディだ。よってコメディには-」



はあ、これ僕が書いたやつじゃないか。


さあ著者カミさま、後の流れはわかっておりますので。


うん、この世界の全てを知ってしまった君の記憶を少しばかり削らせてもらうよ。


-お願いします-


-後は頼んだよポジティブな魔王様-


-あなたもですよ著者カミさま-



-人生はコメディだ、よってコメディには-




「終わりなし」







-魔王城-


暗雲が立ち込めて姿を現したのは巨大な兎の耳を持ち、魔王城の3倍程はある巨大な白い龍だっだ。


「はあーあ、ミギウデ達にバレないといいんだがな」


魔王城の門前に仁王立ちして白龍を待つ魔王。もちろん城内は既にすっからかんで誰もいない。まさに超弩級の白龍が鋭く巨大な眼光で魔王を睨みつける。


「生憎、我が魔王城はうさ耳つけたドラゴンは立ち入り禁止なものでね、魔物テーマ以外のコスプレは一切禁止だ、夢の国にでも行くがいい」


グアアアアアアアアアウウウウル!!!!


「まあ、そういう訳にもいかないのが当たり前か」


-豪華魔法客船 ブリッジ室-


操作室に通じる硬い扉が勢いよく開く。


「閣下は!?閣下はどこにいる!!?」


魔王様の船長室には魔王様が艦長の格好をして椅子に腰掛けパイプをふかしているハリボテがあるのみだった。その横に描かれたふきだしのようなものには「探さないでね♡」の七文字があった。


「閣下は消息不明です!!」


「なんですって!?」


いつもより激しい怒りを露わにしたミギウデはブリッジの操舵をし、再び魔王城へと向けた。


魔獣オペレーターが緊張の面持ちで告げる。


「魔王城に謎の飛行物体接近!パターン七色!神格化モンスターです!!!モニター写します!!!」


「おおお!?」「ボーナス確定か!?」

「死海文書か!?」「紫色のメカウルトラ○ンか!?」


ブリッジの巨大なモニターに映し出された光景に猛烈魔獣幹部達は息を呑んだ。


エレナが叫ぶ。


「ワッくんが大変!ワッくーん!なんでまだ家にいるの!!」


ミギウデが語気を荒げる。


「ええい!速度上げい!いつになったら魔王城へ到着するのだ!!」


「30分程かかります!」


「そんなにかかっては即席モンスターラーメンを10回食えるではないか!というか絶対数が足りないではないか!!」


ミギウデはブリッジにある制御パネルを怒気混じりに蹴っ飛ばした。魔王城とそれを凌駕する大きさの白龍が写るモニターを睨みつける。


「閣下!あなたには帰ってからお父上の盛大なお仕置きが必要そうです!!!」


-魔王城-


魔王と神格化した白龍の戦闘は凄まじく、もはやこの世とは思えないほど空間が引き裂かれ、何度も爆発している。


白龍が放つ神の波動に吹き飛ばされた魔王は魔王城の壁面に叩きつけられる。


「ぐおおお!」


崩れ落ちる城壁。起き上がる魔王。


「こういう時、下等魔族スライムが羨ましい」


既に満身創痍である。


「はあ、割と神様相手にするってのは骨が折れる、まったく。こんな極限の理屈外パワー相手じゃ我が勝てるはずがない。割と本当に今回が最終回かもしれないよ、著者カミさま」


-終わらない-


魔王はかえんの溜息をついて拳を握りしめた。


「さあ、来い。我が腕の中で静かに息絶えよ。なんてな」


うさ耳の白龍は唸り声を上げながら魔王へ突進する。しかし魔王はそれを受け止めた。


「サ○ー○○ーズに出てくる怪物になんか似てるんだよなあ。まったく、許せないね」


白龍をねじ伏せた魔王。魔王は腕を組み、目の前の巨大な白龍を見下す。


白龍は魔王のそのいで立つ姿を見ると笑い出すかのように唸った。


魔王の表情が今までにない鬼の形相に変わる。まあ魔王なのだからこの顔が当たり前。


「魔王様も舐められたものだな」


瞬間的に白龍の懐へ近づき、魔王と神格化した怪物同士の殴り合いの応酬が始まる。白龍の翼に穴が空き、魔王の顔や身体にヒビが入る。あたりを破壊の悲鳴と混沌が覆っていく。


そしてなによりも今の魔王は身も心も燃え上がっている。


「はああああああああああアアア!!!!」


青空が赤く染まり、魔王様は握り込んだ右の手の拳に無数の光と風と炎と氷と水と土と闇の上級魔法を織り込んだ。


魔王様の姿がみるみるうちに禍々しさを増していく。


「RPGの世界じゃラスボスは第2形態が必ずあると相場が決まっていることを貴様に教えてやる!!!神よ!!!」


魔王様は意識が途切れるほどのすばやさと強さで白龍の頭をその神々しいまでに七色の光を放つ右腕で殴り抜けた。


-「オラァアアアアアア!!!」

「グアウウウウウウウルルル!!!」-


あたりの空間や時間は全て弾け飛び、何も無い空間が出来上がった。やがて、元の状態を取り戻した魔王城には-


未だに無傷で微動だにしない白龍と膝から崩れ落ちた魔王。時間や空間が歪んだ弾みで豪華魔法客船タイタン号は魔王城に突っ込んで前後に大きく真っ二つとなり、煙を上げて炎上していた。白龍がこちらを警戒している。


「オラオラは…やっぱり一発じゃ足りない…のか……これは想定外だ…」


傷だらけの魔王様は身体がもう動かない。


グシャリ!


背後から忍び寄り、魔王様のボロボロの背中を踏み倒した紫色のコートを着た仮面の男。


「君が魔王様かな?なんか随分弱いね?」


魔王様は人知を超えた戦闘によってそのエネルギーを使い果たし、意識が途切れた。


「…くっ!……」


仮面の男が被る帽子に浮かび上がる目が陽気に喋り出す。


「ヒャッハァ!!魔物の王ごときが神に勝てるわきゃねえだろが!!!ヒャッハァ!うぬぼれた馬鹿は黙って死んどきゃいいんだよ!!!」


歪に牙の並んだ大きな口を開ける紫帽子。


「ダメだよ帽子くん、もうちょっと紳士的に振舞って。もう神様なんだから」


「ああ、紳士的になってこの薄汚れた魔王さんをなぶり殺しにしてやるんだろ!ていうかもう死んでるけどな!!!ヒャッハァア!!!」


「そんな可哀想なこと言わないでよ帽子くん、酷いじゃないか」


グシャッ!グシャッグシャっ!-


仮面の男はその足でさらに強く踏みつけ続ける。仮面の男は力を使い果たして倒れ伏した魔王を嘲笑った。


「うーん、なんかちょっと物足りないな。そーだ!ちょっとカッコいい感じにしてあげよう」


仮面の男は狂気の漂う笑みを浮かべてその細い手を天高く突き上げる。


すると天空に巨大な黒い槍が姿を現した。



グサッ!-



仮面の男はその巨大な槍を魔王に振り下ろした。魔王様から流れ出る血が仮面の男の手と不敵な笑みを赤く染める。


「おっ!インスタ映えするねこれ!いー感じー!!」


魔王様はぐったりとして動かなくなった。



倒れ伏した魔王様に突き刺さる槍が夕陽に照らされて大きな影を落としている。



-思想空間 屋上-


あーあ、終わっちゃったか。-


(「割と魔王はポジティブです!」の看板を傍らに置いて魔王から受け取った紙をぼんやりと見つめる著者カミさま)


人生がコメディなんて、それ死んだら終わりってことだろ。



本当に馬鹿だな、魔王様は。









つづく





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