ep.12 割とお芋はおいしいです
ある日のルカジマ☆ドーザウィはツンツンしっぱなしで身体中のラインというライン、顔の線やら輪郭線が全てとんがっていた。
「おい?ルカ?お前大丈夫なのか?」
窓辺に腰掛ける色黒の女戦士ルディはベッドに寝転がっているルカジマの尖った足のつま先を見て言った。そう、あのタコガエル事件以来、色黒銀髪の女戦士ルディは勇者のパーティに加わってこの宿屋に3人一緒に泊まっている。
「カエル、殺す。次見つけたら蒸発させてやる。殺す、殺す…」
ルカジマはあの日のトラウマが酷い後遺症を生んだようで、朝からベッドで仰向けになったまま左手を天に掲げてこんな調子でカエルに対しての殺意を天井にぶつけている。
「おい魔法少女、それ怖いからやめてくれ、俺までトラウマになりそうだ」
ルディは苦笑いで狂気のルカジマを見る。
するとノックもなしに誰かが入ってきた。
「おいルカ!そんな新世紀訪れそうなことしてないで気分転換に近くにあった両生類限定動物園行こうぜ!!」
割と勇者は空気が読めないし読まない。
「おい糞童貞!こいつがこうなったのもなあ-」
可愛らしいルカジマの顔が狂気的悪魔の形相に変わる。
「燃えて燃えて☆燃え♡燃え♡キューン!」
ブウオオオオオオ!!!
ルカジマは例のごとく中級爆炎魔法ファイレガを悪魔的狂気の形相で勇者に放った。
「ギャハハ!燃えて死ね燃えないゴミ!!」
ルディと勇者はその恐怖に戦慄した。
「ぎゃあああ!ごめん!ごめんてええ!!」
燃え盛る中級爆炎魔法ファイレガの良い点は目標物以外絶対に燃えないというところにあり、モンスター料理とかにも最適♪の恩恵により勇者は赤白のストライプが好きな某楳図かず○漫画のように「ぎゃああ!」と室内で絶叫した。
「お、死んだな勇者」
とルディ。
「こいつは死んでも死にきれないクズよ」
すると叫び悶えながら燃え盛る勇者の道具袋からカエルが1匹飛び出してルカジマの顔にぺったりとくっついた。血の気が引いていき青ざめるルカジマ。
「--か、カエルうううう!!!」
ルカジマは勇者と同じく楳図かず○のあの素晴らしい描写のように「ぎゃあああ」と座ったまま気絶した。
「へへっ、ざまあ…み…。俺に勝つなんざ…1万ね…はえ…」
焼け焦げた勇者はその微笑みを最後に部屋の床に倒れ伏した。
そんな状況下ルディは殺伐とした部屋で1人困惑している。
「こ、こいつら本当に大丈夫なのか?世界が救える気が全くしないんだが…」
2人を連れて城下町の商店街に出かけたルディは新しい武器を探していた。
「あのさあDカップ?あの大槌から
ルディは笑顔で返した。
「まあ、あれは俺の趣味の一環だからな」
目を丸くする勇者、とルカジマ。
「武器は敵と一戦交える毎に新しいのを買うか作る!それが私の唯一の楽しみなんだ!!」
ルディの武器魂が熱く燃え上がる。
「やべえよルカ、こいつ趣味に大金かけて自己破産するやべえやつだ」
勇者はルカに耳打ちをする。
「ええ、そこは同感ですクズ勇者さま。1つあの変形大槌より良い武器を買うのに一体何ルアするか、この前たんまり貰った報酬がかなり減りますよ」
ルディはその長い銀髪を揺らめかせて様々な人々で賑わう商店街の武器コーナーをうろうろと楽しそうに物色している。
「まあ、助けてもらったし。仕方ないか」
「そうですね」
勇者と魔法少女の2人は商店街前にあるベンチで2人して横並びに座っている。
「あの時は、その-」
ルカジマが何かを言いかけた。
「へ?なんだルカ、お前も新しい杖とか新しい服とか欲しいのか?」
「なんでもないです」
「あっそ」
2人とも商店街の方を向いて。勇者はだらしなく両腕をベンチのへりにかけて、ルカジマは小さな両膝に両手を置いて座りボーっとしている。
なんだか美味しそうな匂いがしてきて後ろから声がかかる。
「お兄ちゃんおねいちゃん?」
2人は同時に振り向く。そこには焼き芋を手にした小さな女の子がいた。
「いや、俺らは君のお兄ちゃんでもお姉ちゃんでもないよ」
小さな女の子はそれを聴くと涙目になった。
「違うの、ちょっとリコのお話し聞いて欲しいの、お願い…」
「お、おお!どうしたどうした?なんでも聴くぞリコちゃん!なんせ俺は勇者だからな!」
ルカジマの桃色の瞳が眼鏡を通して勇者を睨む。
「自分の紹介だけですか、流石は公式自己中、普通こういったのは私も紹介されるべきですよ。私は青の魔法使いでとなりの
勇者はルカを細い目で見る。
「いや、お前の自己紹介文の方が俄然自己中だろ…」
リコは手にしている焼き芋を見て言う。
「ありがとうお兄ちゃんおねいちゃん!一緒にお芋作って欲しいの」
「芋か!いーね!俺も芋は好きだからな!フライドポテトとかポテトチップスとか!」
ルカが冷たい眼差しで勇者を見る。
「それは違うだろ公式自己中」
3人は早速リコの人力屋台型焼き芋店に向かった。
「じゃあお兄ちゃんは屋台を引く係任命ー!おねいちゃんはお芋を焼く係ねー!」
リコはなんだか嬉しそうだ。
「もー、仕方がないな!お兄ちゃんに任せろう!よいしょ!!」
勇者は割と体力値だけは抜群に高い。
「お兄ちゃんすごーい!力持ちー!」
「だろだろお!もっと褒めてくれたまたまえよリコくん!!」
奮い立つ勇者。
「勇者さま、日頃から褒めるべきところ少ないですからね」
冷たい魔法使い。
ルカは初級炎熱魔法ファイレムで芋を焼いている。
「燃え☆燃え♡キューン!」
「それ、ここでもやるのか?」
「仕方ないじゃないですか!これが私の流儀なんですから!」
「おねいちゃんそれリコにも教えてー!」
リコが興味深々の顔でルカジマを見る。
「リコちゃんにはまだ早いなー!ちゃんと一から修行しないと!」
「しゅぎょお?しゅぎょおしないといけないのね!!リコ頑張る!」
ルカジマとリコは仲良く芋をこんがりと焼いている。
「やっぱルカは子供の前じゃあツンデレのツの字もないな〜」
一瞬で-257°Cの視線がルカから送られてきた。
「黙って屋台を引きなさい」
ルカは少しツンときているようだ。
「しっかしツンデレ魔法少女がカエルのトラウマになって今度は焼き芋屋台するなんて前代未聞だなこりゃ。フッ、魔法界で晒しものにされなきゃいいけどな」
ルカは炎熱の方向を勇者に向けた。
「あぢいっ!あちーって!」
「無駄口叩いてないで商店街まで早く移動して下さい勇者さん。芋が冷えますので」
「じゃあお前が魔法使って押せばいーだろー!」
リコの笑いの壺に2人の問答がはまったようだ。
「プハッ、アハハハ、ウフッアハハハハ!」
ルカジマと一緒に焼き芋を焼いていたリコの笑顔がルカジマと勇者も笑顔にさせた。
3人の笑い声が陽が傾いてきた路地にゆっくりと溶けて行く。
「よおーし、行っくぞー!」
勇者は息巻いて商店街にルカジマとリコを乗せた屋台を引っ張っていく。
「ヤーキ芋ー!お芋だよー!おいしーお芋だよー!」
リコの人力屋台型焼き芋店はアイドル的なルカジマと割と元気な勇者によって客を集め、大繁盛した。
「燃え☆燃え♡キューン!」
リコがルカジマの真似をしている。
「もえ♡もえ♡きゅうん!」
ルディは買い物を終えて人だかりを見つけた。気になって人だかりを抜けると楽しそうに焼き芋屋台をしている勇者と魔法少女の2人を見つけた。
何してんだ?あいつら-?
ルディはなんとか焼き芋を食う人々の人混みを掻き分けて勇者のところまで来た。
「お前ら何やってんだ?そんな茶番やってないでさっさと帰るぞ!」
勇者は楽しそうにしている。
「おう!Dカップ!お前も一緒にやるか?リコの焼き芋店の手伝い!楽しいぞ!」
ルディは不思議そうな顔をする。
「おい糞童貞!?リコって誰のことだ?さっきからお前と魔法少女しかここにはいないぞ」
「はあ?何言ってんだよ、リコって可愛い女の子いるだろあそこに-?あれ?どっかいったか?」
勇者は不安な表情をしてあたりを探す。
「リコ!?リコはどこ行った!?ルカ!リコがいないぞ!」
「こっちにもいないわ!リコー!どこいったのー!?」
勇者は商店街の街角に消えようとしていたリコの背中を見た。
「いた!」
「リコ!おーい!待てよリコー!」
勇者は走り出して客の人混み越えていき、路地に出たリコの肩を掴んだ。
「リコ、一体どこ行こうとしてんだよ」
「お兄ちゃん、誰?」
振り返った少女はリコではなかった。
少女は足早に去って行った。
呆然とする勇者。あとからルカジマが息を切らしてやってきた。
「はあ、はあ…リコちゃんどこ行っちゃったの?」
すると背後からリコの声がする。
「お兄ちゃん、おねいちゃん」
振り返るとそこには綺麗な夕陽に照らされたなんだか悲しそうにしているリコの姿があった。
勇者とルカジマの2人はリコに駆け寄る。
「リコ!どこ行ってたんだよ!お兄ちゃん心配したんだぞ!!」
「お姉ちゃんもよ!一緒に焼き芋の続きやろうよ!」
リコは目に涙をにじませて2人に笑顔を見せたがついに堪えきれない涙を流した。
「ごめんねお兄ちゃん、もう出来ないの、ごめんね。お兄ちゃんおねいちゃん-ごめんね」
綺麗な涙がリコの瞳から溢れ出している。
「なんで泣いてんだよ。ほら、一緒に行くぞ!ほら!」
膝をつき手を差し伸べる勇者。その手に触れたリコ。
「えっ、リコ?」
勇者は一瞬理解ができなかった。しかし、勇者には感覚でそれと伝える何かがあった。
「ごめんね、リコもういないの。どこにもいないの!お兄ちゃん達をずっと騙してたの!」
泣きじゃくるリコの手の感触は-無かった。
「何を言ってるのリコ?よくわからないけど私なら力になれるかもしれないわ!教えて!何があったの?」
ルカジマは何か解決法はないかとリコに聞く。
「ルカ!やめろ!!-もういいんだ!!」
勇者は俯いて声を荒げる。
「なんで?!あなた馬鹿なんじゃないんですか!この子は-」
「リコはもうこの世にいない女の子なんだよ!!」
勇者は俯いている。
-そんな、嘘でしょ。だって-
確かにそこには一緒に焼き芋を焼いて、一緒に笑ったリコの姿がある。
リコは溢れた涙を拭った。
「リコね、ずうっと1人だったの、産まれてからすぐにおとうさんとおかあさん死んじゃって」嘘だ「だから死ぬまでずうっと、1人で焼き芋屋をやってね。だからね、お兄ちゃんとおねいちゃんがずうーっと前から欲しかったの!」おかしいだろ「だからね-ありがとうね!お兄ちゃん!おねいちゃん!だからね!」だから!「一緒に焼き芋作ったお兄ちゃんとおねいちゃんはこれからもずうーっとリコのお兄ちゃんとおねいちゃんなんだよ!!」えっ、「ずっとだよ!!」
リコを雲の切れ間から刺す眩い光が照らす。
「おい待てよリコ!お前のことまだ何も!何も知らないんだよ!お前の好きな物とか!やりたいこととか!好きな食べ物とか!嫌いなのとか!色々!」
ルカジマはリコを見て泣いている。
「-本当に楽しかったよ。さよなら、ありがとう。お兄ちゃ…お…ねい……ちゃん…-」
「リコーーー!」
夕陽に照らされ、残された2人は屋台の机の上に置かれてあった焼き芋に気づいた。
焼き芋には
「-やさしいちからもちのおにいちゃんとウチュウ1やさしいおねいちゃんへ おイモとってもおいしかったよ いもうとのリコより-」
と彫られていた。
-帰りの馬車-
「-おい、2人とも。なに泣きながら芋食ってんだ?」
ルディと向き合って横並びに座った2人は泣きながら焼き芋を頬張っている。
んがむしゃむしゃむしゃ-
「うおお、ひぐっううううう」
むしゃむしゃむしゃむしゃ-
「むあ、あむううう、ひぐっ」
ルディは焼き芋程度で泣きじゃくる2人がこの世界を救えるのかいささか不安になった。
揺られた馬車の中、美味しそうな焼き芋の香りがする。
涙をポロポロ流す勇者とルカジマの2人はリコがいない寂しさを感じた。
「そんなにおいしいのか?焼き芋」
勇者が食べながら言う。
「おひひいれふ、ひほはんはひはほう!!」
ルディは首を傾げる。
「へ?」
ルカジマも食べながら言う。
「ひほはあん!はひはほう!!」
ルディはさらに傾げる。
「は?」
少女の声がする。
「ほひいはんほへえはん、はひはほふ」
-お兄ちゃんおねいちゃん、ありがとう-
最後の焼き芋はちょっとだけしょっぱかった。でもとっても、おいしかった。
おしまい
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