ちょっと脚本家!呼んでこい!!

ep.7 割と彼女は住み込みです

街中を駆ける兎がいる。


「あー!また脱走したのねキンゲ!」


サカエテル王国の商業地区に暮らすジュゼットは城下町をうろついていたその兎をすばやく捕まえた。

兎の耳には金色の耳飾りがつけられている。


「もおー、信じらんない!今度は本当に首輪つけちゃうよーキンゲ!!」


「ウルル、ウルルルー」


キンゲは喉を鳴らして少し嬉しそうだ。


「ジュゼットー!ごめーん!」


片方の鼻腔にティッシュを詰めたエレナが小走りに近づいてくる。


「何よ鼻血なんか出しちゃって、あのイケメンクソマジシャンと朝まで遊ぶんじゃなかったの?」


ジュゼットはエレナを鋭く睨みつけている。


「ご、ごめんなさい。私、あの人の住むお屋敷に住み込みで働くことになったの」


「へえー、……ってえええええええ!!?」


エレナは顔を赤らめて恥ずかしくも嬉しそうに頭を掻いている。


「そうなの、私とうとう恋の炎に焼かれて。とうとうあの人の白く透き通った腕の中に-」


「いや馬鹿でしょあんた!どーしたらそーなるの!?どーしたらそーなるのか教えてよ!そしたら私もすぐに幸せになれるわ!!!」


「あの人にね、逃げないで下さい、私は絶対逃げませんからって言ったらね…じゃあ、1つ頼みがある。って」


青髪美青年魔王くんはその時エレナに対面してエレナが背中をついたその壁に手をつきエレナを脅迫するようにこう告げた。


-俺は魔王だから、君は人間のしもべとして俺の根城に一度来てもらう。話はその後だ-って私に言ったの。


そのときあまりにもエレナと青髪美青年との顔と顔の距離が近かった故に青年の吐く息が鼻先に触れたエレナは鼻血を出す程興奮し、そのことをジュゼットに伝えるべく光の速さで走る流れ星のように魔王くんのもとから走りさっていった。-魔王くんは呆然と壁の前に立っている-


「いや待って!あんたそいつの名前とか聞いたの!?いかにもヤバそうなんだけど!」


「あ、私としたことがうっかり……。あ、あの人あそこに置いて来ちゃった!どうしよう!わたしの二万里の恋がああああ!」


エレナ・パフェヌドールは頭を抱えて膝をつき泣き出した。


ジュゼットは兎のキンゲをあやしている。


「あーんた、救いようがないわね」


すると遠くから走る靴音が聞こえてくる。


「おーい、変な女ー!」


走ってきた優雅な雰囲気のある青髪の青年。


その声を耳にした途端エレナの瞳が輝き出す。


「ああ!私の研究者様!!私のことを隅から隅まで研究して下さああああい!!!」


涙を撒き散らしながら青年に抱きつくエレナ。


「げっ、なんだこいつ!(なんで俺が研究しようとしてることを知ってんだ?)本当に人間てこんなやつしかいないのか?」


魔王くんは困り果てる。


「そのだけよ。エレナ・パフェヌドールは1日3食パフェを食べてるのにそんなナイスバデーで美人なんだから。もったいないの、もう変ななんだよほんと。」


1日3食パフェとはいくらなんでも魔王でも死ぬかもしれない。もしや、魔法が効かない理由がパフェにあるというのか。


ジュゼットが疑うように魔王くんに聞く。


「あんた、名前は?」


魔王くんの目が少し赤くたぎった。


「我の名は…。我の名は、ワレノアだ!ノアーレ・ワレノア!北の霧の海で研究者として働いている!うん、そうだ」


「我って、あんた魔王にでもなるつもり?」


魔王くんは少しばかり焦っている。


「ま、まあ彼女とは運命の出会いという訳で!まあ大切に!まあけんきゅ、じゃなかったちゃんとしたお付き合いをさせていただこう!!」


「あんた、なんか変ね、怪しい」


ジュゼットは疑いの目で覗く。


「い、いやあ、俺はなんも怪しいもんでもなんでもないですう」


魔王くんは汗をかいている。まあ演出上汗をかかざるを得ないだけなのだが。


「まあ、エレナにもしものことがあったら、あんたの家に騎士団の軍勢が蹂躙しにくると思いなさい!わかった!?」


「お、おお。りょ、了解した」


ジュゼットは抱えているキンゲに手を振らせた。


その間エレナは魔王くんに抱きついたまま離れることはなかった。


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