ep.5.2 魔法少女は割と…

ここはいずれ崩壊する定めにある世界「ジピルア」。大陸のやや中央にあるサカエテル王国、その北にある山々を抜けて平原をさらに北に進むと深い霧の海がある。その上空で魔族の鳥人間たちがかあかあ言いながらつがいを求めて真昼間から空で同族の雌に対しての「なあ姉ちゃん、わてと呑みいかんばい?」ナンパに勤しんでいる。


そんな危険な大空を少し進んでいくと茨の迷い森があり、霧の海の上に見えてくる不吉な城がある。それこそが我が魔王の根城、魔王城である。


「はあ」その城の高層階の窓辺の学習机で頬杖をつき、握ったペン先でくうを描いている整った青髪の色白美青年がいた。もちろん我である。もちろん我がいる教室ではライトハンドオーマ先生の魔王講座第1回 「序論 人間滅亡に関するメリットについて 第七項目」が絶賛講義中である。


「ちょっと?魔王くん?ボーっとしてないで授業に集中なさい!!そんなんじゃちゃんとした魔王になれません!」


紅い目をした教師っぽい人は私の担任の先生ミギウデである。


「だってさあ、ゴブリンとかタウロスとかデビルワイトとかサイクロプスも皆んなテキトーにワイワイやってんじゃん。下等魔族スライムはいつものアホ顔だかアヘ顔だし。俺が勉強する意味あんのー?」


「もちろんあります!あなたはかの魔神様の意志を継ぐ者なんですよ!!」


「困ったらすーぐ親父の話だ、そういうのムカつくね。ほんと」


まわりの魔物たちの騒ぎが余計にうるさくなる。


「私もいい加減怒りますよ魔王くん!あなたは魔族の王であなたの父上は魔族の神なのです!もう250,000歳なんですから自覚なさい!!あと魔王くん!今すぐ人間に変身するのをやめなさい!!」


変身すると魔王は割と色白美青年になる。


「嫌だ、だってこれ勇者オーマっぽくて格好いいじゃん」


何かに痺れを切らし怒りを露わにしたミギウデが水の溢れたバケツを持ってどしどしと魔王くんに近づいてくる。


「おっらあああああ!!!」


バッシャアアアアン!!!


色白美青年の魔王くんに水をぶっかけると魔王の衣に描かれた変身魔方陣が溶け、元の威厳あるびしょ濡れの魔王様がそこに座していた。


ブチ切れるミギウデ先生。


「何が変身魔方陣じゃ!?コラ!!何魔王1/2 にしとんじゃ!コラ!!冷水かけられたら魔王になって熱湯かけられたら美青年に変身かゴラァァ!?昔ながらの良きラブコメ設定じゃんか!!ここでラブコメやろうとしてんじゃあねえよ!!こちとらありきたり異世界ファンタジーのじゃボケ!!さっさとちゃんとした魔王の勉強しやがれ!オラ!!」


ミギウデは女性教師になっても持ち前の魔界的ヒステリックは割と健在らしい。


「いやミギウデ、我が人間に変身する時は魔方陣ちゃんと描いてから変身だから。我にはよくわからないけど熱湯かけたら美青年とか、そこは問題ないから。うん」


そんなミギウデと魔王様の応酬が先程からずっとこの教室内で続いている。


しばらくするとまた元の色白美青年が退屈そうに青髪を手入れしている。


「俺、用事できたから。じゃあな」


魔王くんは急にそう言うと黙って教室を後にしようとした。


「待ちなさい魔王くん!まだ授業は終わっていません!」


ミギウデ先生の声もむなしく、魔王くんは綺麗な青髪をいじりながら教室を去って行った。まわりの魔物たちはその姿にうっとりとしていた。


「もう!魔王くんのバカ!!」


依然ミギウデの先生スイッチは入りっぱなしである。


ここはサカエテル王国郊外のデロデロ密林。その森の中で先程男女2名の悲鳴が轟いたようだ。


くぱあ……ゴックン!「ゲエコ。ゲエコ!ゲエコゲエコゲエコゲエコゲコゲエコ!!!」巨大な密林オウサマタコガエルの触手が高波のように畝っている。その肌には厚い粘膜が張られているようで、激しく畝った勢いでまわりの木々にベトベトの粘膜液がベトベトに飛び散らかされた。


タコガエルのヌメヌメとした足元にタコガエルに吐き捨てられた上に全身ヌメヌメになった上で吐いている可哀想な勇者がいる。


「おえ!おえおおお!おっえお!!」

(ルカ!今助ける!待ってろ!!)


勇者は一足先に1度オウサマタコガエルの城門程はある巨大な口に飲み込まれたのだが、タコガエルの胃袋から尻に繋がるミステリーツアーを終える前に腰に下げていた道具袋から匂い立つ馬糞が漏れ出して驚いたタコガエルに吐きだされた。続いて恐怖に腰を抜かしたルカジマ☆ドーザウィはそのクラーケンのような触手に拘束されてア◯顔でよだれを垂らし気絶している。


「ゲコ!ゲエエコオォォオオ!!」


タコガエルはルカジマのアヘ顔やちらちらと見え隠れする身体のラインに酷く興奮しているようだ。


「まずい!このままじゃルカが少年誌的にまずい!!!」


勇者はツンデレ魔法美少女ルカジマとそれを愛撫し興奮するタコガエルのこの画がなにやら少年誌的にまずいことを悟り、腰に刺した鋼鉄の剣に手をかけた!!


「そいつはおめーみてえなやつにヤられるようなやつじゃねーんだよクソガエル!!」


勇者はそこから走り出して道具袋から取り出したすばやさの種を一気に飲み込んだ。一気に加速する勇者は稲妻を描くようにタコガエルのおおきな懐へ飛びこむ!


「おらああああ!!」


勇者は密林オウサマタコガエルに居合斬りを放った。--


--しかし!!


「ゲコ?ゲコゲココ」


「なんでぶった斬れねえんだ!?」


タコガエルはビクともしない!


勇者は自分の全身にへばりついている厚い粘液に気付いた。


「まさか!粘膜が厚すぎて斬れねえのか!!くそっ!!!」


「ゲコゲコゲコゲコゲコ!」


「これじゃ文字通り歯が立たねえじゃねえか!!」


密林オウサマタコガエルは羽虫を見るように勇者を嘲笑っている。その長い舌に拘束されたナカジマは依然気絶したままだ。


「ゲゲッコオ、ゲコゲコ?」


タコガエルは次に自身の背中あたりから伸びている長い触手達を駆使してルカジマのか弱い身体を舐め回し舐め回した。


「ううっ、ううう」


赤く火照ったタコガエルはキュポキュポとルカジマの汗ばんだ顔や尻や胸を触手についている吸盤で-まあ、大人の世界が広がっている。


勇者はその後も延々とタコガエルの厚い粘膜で覆われた表皮を巨大な触手に吹き飛ばされながらも何度も必死になって斬りつけ続けた。しかし魔法が一切使えない勇者は為す術なく、体力を消耗してその場に膝をついた。


「ゲコゲコオ?」


密林オウサマタコガエルのおおきな赤い両の瞳が勇者を見下している。


「くそっ!まだだ-まだやれる!!」


「待ちなあんちゃん!!そんな考え無しの攻撃じゃあ不法錬成魔獣は倒せやしねえ!!!」


密林の高い大木の枝の上からこちらに叫ぶ鉄製の妙な形をした大槌を背中に背負って白いマントを風になびかせている色黒で銀髪の女戦士が見えた。


「お前誰だ!?助けにでも来たのか!!?」


「そういうのは後だ!ちょっと伏せときな!!」


妙な形をした鉄製の大槌を構えた銀髪の女戦士は飛び降りてタコガエルの頭上に向かって飛ぶ。


「ゲコゲコ?ゲエコオオオ!?」


「おうらあああああああああ!!!」


銀髪の女戦士は大槌を大きく振りかぶった。


どっがあああん!!


タコガエルの頭上に大槌を振り下ろした彼女は大槌の持ち手についた細いレバーを引いた。


グアッシャアァァコン!!!


「ゲボッ!ゲッゲコオオオ!!?」


大槌は真の姿をその身に表したように巨大な長身砲ロングライフルに姿を変えた!!


彼女が振り放った大槌の一撃によろめいた巨大なタコガエルの額のど真ん中を狙う-!!


「-頭がガラ空きだよ、怪物」


一筋の閃光が巨大な影のドタマを火薬の爆裂音とともに撃ち抜いた。


その瞬間信じ難い爆発が密林で起きた。


一面焼け野原の中残ったのは気絶した魔法少女と阿保な勇者と謎の色黒女戦士。そして焼け焦げた異臭のする大きな肉の塊だった。


「おい!助けるみたいな感じだったけどあの爆発!下手したら俺ら諸共死んでたぞクソ野郎!!!」


「あ?お前助けてやった俺に感謝の言葉も無えのか?しかもああいう不法錬成魔獣が討伐対象なのに斬撃武器でひたすら挑むなんて、マジで阿保にも程があるぞ自称勇者の糞童貞!!!」


その女戦士の喋り方には聞き覚えがあった。


「あっ!お前あん時のDカップ!なんでこんなとこに?」



「俺はDカップじゃねえ、ルディだ糞童貞。俺は門番辞めて今はバウンサーをやってんのさ」


首にかけていた銀の首飾りにはバウンサーと刻まれていた。


「バウンサーって、賞金稼ぎの?」


ルディは不穏な顔を見せてタコガエルの肉片に触れて言った。


「ああ、まあ最近じゃ警察みたいなもんだ。-あまり世間にゃ知らされてねえが今このあたりでああいう不法錬成魔獣を錬成しまくってるヤツがいる-」


「ルディカップ、不法錬成魔獣って何だ?」


「話を最後まで聞けや糞童貞。ヤツは[神患いの少年]と呼ばれてる。そいつは現サカエテル国王の出席した大舞踏会に小さな不法錬成魔獣を放った。


その魔獣の死骸に手紙が1通入っていて、-こんにちわ王様。僕は神、よろしく-と書かれていたそうだ。


その日から王国に関係する事業に必ず不法錬成魔獣が現れて邪魔をしていた。


そいつを国は手紙の内容とその目立ちたがり屋の少年のような犯行から[神患いの少年]と称して俺たちバウンサーに追わせてはいたが、最近のヤツの犯行は罪の重いものばかりになってきている。だからギルドのクエストにも上がるようになったのさ。てかルディカップじゃねえ!ルディだ!」


少し恥ずかしそうにルディはもじもじしている。


「ん、そいえばお前DカップじゃなくてEカップだっけ?てか本当はちょっと俺のこと気になってたりしてえ?」


ルディはさらにもじもじする。


「な!何を言っている!そ、そもそも私はお前があの時わたっ!!俺の胸を揉んだから慰謝料をたんまり貰うために密森まで尾けてきただけなんだからな!!勘違いするな!」


「ああ、わかったわかった。…てかあのクソガエル野郎を作ったヤツがいんのか!?ぐうう、許せん!…俺の中の何かが許せん!!!」


勇者は憤る。色んな意味で。


「そうだ、ああいった人間に牙を向ける凶暴で強力な魔獣を人の手で作ることは極めて難しいが熟練の術師であれば可能なんだ-」


ルカジマが目を覚ます。


「カエルうううううう!!!!」


絶叫しながら飛び起きたルカジマは青ざめて小柄な身体を丸めてガタガタと震えている。


「大丈夫か?ルカ?」


ガタガタガタガタガタガタ-

身震いのし過ぎでルカのかけていた眼鏡がことんと地面に落ちた。


「ルカもしかしてカエル苦手なの?はっ!青の魔法使いが爬虫類苦手って!ウケるー!!がはっがはっ!!」


面白がっていた勇者にルカジマは片手で炎熱魔法ファイレムを放った。


「燃えろ!燃え散れ!!燃えないゴミ!!!」


しかしその台詞とはうらはらに桃色の澄んだ瞳が涙ぐんでいた。


燃えながら絶叫する勇者。蛙嫌いの魔法少女。男勝りの女賞金稼ぎ。その3人は帰って報酬をたんまりと貰った。


魔法少女は割とカエルが苦手です。
















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