ep.4 割と勇者様も……
「
そんな競龍場のメイン出入り口で1人の男が大の字になって寝っ転がって
「おーい、寝るんなら他所で寝てくれよなー。ここで死んでたら後片付けがめんどくせえんだよ、ほら
門番のような格好をした美技たる色黒の
「おれは〜勇者〜なんだよな〜多分」
げっぷ混じりに歌い出した冴えない男の右手は女戦士の胸をしっかりと鷲掴みにしていた。
「はっは〜ん、わかったあ。Dカップう」
女戦士は仕方ないという顔をする。しかし、怒らない訳がなかった。
「はあっ!?俺はDじゃねえ!EよりのDだ糞童貞!!しかもテメエ酒の匂いが酷えぞ、勇者ならそれっぽくしとけや!マジで!」
女戦士は死なない程度に、いやしかし見た感じでは軽く死んだくらいに殴り飛ばした。
「ふべほッ!!ホゲェエエえ!!!」
冴えない男は
「お、おえええ………」
さらに吐いたみたいだ。
「汚ねえな!マジで!テメエみたいなやつは糞食って死んどけ!!マジで!!」
女戦士はぽこぽこ怒りを噴出しながら去っていった。
「まあた、勇者さま。こんなところで何してんですか」
そう言って冴えない男の面構えの冴えてなさを確認するように覗きこんだ眼鏡をかけて青空色のマントで身を包んだ新種の宝石のように鈍く光りを放つ桃色の瞳をもつ色白で小柄な女の子が上空から男の前へと降りたった。
「おえ、おえおえおえ…」
(競龍、負けちまった…)
「へえ、そうですか。…で?」
「おえお、おえおえ」
(お金、もうない)
「ふーん、それは困りましたねぇ。…で?」
「おええ」
(貸して)
「あっ、そういうのパワハラですよ。いくらあなたが勇者つっても一応人間ですから、自覚して下さい。あとあなた、次私からの借金を踏み倒したら死にますよ、ほんと。あとあなた、凄く臭いです。殺す気にもなりません」
「おええ、おええんおえ」
(お前、冷たいよな)
「もちろんですよ、私は心優しき青の魔法使い[ルカジマ☆ドーザウィ]ですから」
ルカジマは悪魔的な笑顔を見せた。怖い。
「おえええお、おええおおえおええおおえおえ」
(まあいいや、とりあえず俺の身体綺麗にしてくれ)
ルカジマは手に持った銀色の杖をひらめかせると青白い雨を勇者の頭上に降らせた。
「綺麗になあーれ☆萌え♡萌え♡キューン!!!」
相変わらずルカジマは魔法を使う時に青空色のマントをひらめかせ謎の台詞と謎のポーズをする。両手指で謎の
「なあルカ、そのポーズの魔方陣はやっぱり裏返った尻なのか?あと萌えってなんだ?もしかして何か溜まってる?」
勇者は下ネタ全開の眼差しでルカジマの成熟には至らない白く透き通った体躯をはあはあと舐め回して眺めている。
「溜まっていませんし尻じゃありません、ひっくり返る愛のマークでもありません。何倍ものパワーでもありません。これは昔のバイト下積み時代の名残です。あと、なにか溜まっているとすればそれは勇者に対するささやかな殺意でしょうね。」
ルカジマはその精巧な眼鏡をその美しい指先で少し押し上げて勇者の下ネタ全開の眼差しを絶対零度の眼差しで打ち滅ぼした。
「ルカ、なんかひっくり返る愛のなんたらってやつ俺聞いたことある歌詞だわ。あれ、多分作品的にアウトだわ。それにルカ、下積み時代のバイトって何?魔法使いの下積みってバイトから始まんの?ホグワー○魔法学校とか行くんじゃないの?あと、もう慣れたけど俺に対する殺意とか殺すとか殺害って言葉、強調し過ぎじゃありません?ツンデレ魔法少女は流石に今の時代ウケないから。ほんと需要ないから。需要あんの俺くらいだから、ほんと」
勇者はだらしなくルカに喋った。
「じゃあ先に勇者さまを始末しておきましょう。そうすれば私の世界に豊かな平穏と需要が訪れます。ていうか私、デレたことないので」
ルカは呆れて言った。
ルカジマ☆ドーザウィは悪魔的な笑顔で銀色の杖の先を勇者に向けた。
「おいおい!ちょっと待てー!!ルカくん!それをやっちゃあおしまいだよ!ねえ!君に平穏が訪れても世界に平穏が訪れないんだよ!!よって君には平穏が訪れないんだよ!!!わかる!?俺勇者だからね!?ほんとに!!しかも今のところマジでツンデレ魔法少女の需要があるの世界中探しても俺だけだからね!!!」
「んー、ならしかたがありませんね」
ルカジマはその杖をしまった。
「まずはこの街のギルドでクエストを受注して一稼ぎするところから始めましょう。どこかのカスのお陰でお金、ないですから」
「あっ、今俺のことカスって言ったねルカ」
勇者は不満そうな顔でルカジマを見つめる。というか途中からただ見惚れている。
「やっぱりルカは見た目だけなら100点なんだけどなあ、喋るとなあ」
「勇者さま。一生喋れない身体がいいですか、それとも一生喋ることができない身体がいいですか?」
2人は歩く。そして太陽を背に高貴な気配の漂うサカエテル王国ギルドへと向かっていった。
「ルカ、それどっちも同意義だわ。選択肢になってないわ」
割と勇者は変態である。
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