ep.3 装備品は割と……

魔王様は今日も魔物たちに内緒でだらしなく平原で1人寝そべっております。なんということでしょう。あれでは知恵のない下等魔族スライムどころか低俗な村人モブ以下ではありませんか。しかし魔王様は初期設定からして絶対支配者の魔王様なのです。きっとああしてどこから出るかもわからない勇者を油断させるおつもりなのでしょう。


こうして私は城内の個室からジピルアが誇るべきであるのに誇らない魔王様を千里眼にて監視…いや眺めているのです。


「キュルウウン」


「ああ、お前すら置いていくなんて。今日の閣下は何か怪しいな。ドラゴンよ」


ミギウデは肩に乗る幼体ドラゴンの尻尾を優しく撫でた。


魔王様はゆっくりと立ち上がって大きな欠伸あくびをして人間が統治する王国の方角へその禍々しい両の腕をかざした。流石さすがはジピルアが誇るべきかの魔王!早速人間共の王国をその絶大なる力で1つ滅ぼすおつもりですね!!………?


「うーむ、こちらにもないようだ。」


何もしない?いやそんなはずはありません!魔王様がもうニンソンドーTSに飽きてしまってそろそろ世界征服について本腰をいれようと魔王城魔術大図書室を日々うろついていたことを私がよく知っているからです!!


さあ!魔王様の陰ながらのを私めに見せてください!!さあ!!!


魔王はまたしても別の方向に同じ動作をした。「むむむ、こっちにもないか。」


今度は腕を組み、考えこんでいる。


「むーん、があれば一瞬なんだけどねえ」


魔王様の仰るとはいかにも劔絶望ディスペライツィオーネのことでありましょう。その刃はこの世の全てを斬り捨てることのできる。そう、絶望の逸品なのです。


時は戻ってとある日、魔王様はその劔絶望ディスペライツィオーネをあろうことかどこからか買ってきた「徐々に大冒険 第2部 ー銭湯駐留ー」新刊のピッチピチの包装ビニールを破くために使っていたのです。


ピリピリリリッ

「んもおー、この切れ味がたまらん!これもうわれがもつ十二魔界装具で一二を争う優秀さよね!!そしてこの徐々に大冒険のDのセリフ回し![なにをするだあー!]ってヤツ!まじワロタ!!」


魔王様はひたすら笑顔だ。しかし顔が恐ろしい顔なので笑っているようには到底見えるはずがない。


「閣下、このミギウデが無礼を承知でお聞きしますが。その本は一体どこでお買いになられたのでしょうか、人間の国サカエテル王国でしょうか?」


ミギウデが疑いの表情を見せるとやはり魔王様は挙動不審になった。


「な!?なにを言うんだミギウデ!!この書物は長い間あの魔王城魔術大図書館に大切に貯蔵されておったもの!!決して買った書物ではない!!しかも人間の王国でわれが買っただなんて!あり得んことだ!!しかもこの書物はとある勇ましい魔物の冒険記録が事細かに記されておるのだ!!下等魔族スライムのような馬鹿者にもわかるよう挿絵が全ページ付きでな!!!全8部の大長編で大人もびっくりものなのだぞ!!!!」


魔王様のその覇気はまたしても部屋の掃除をしていた猛烈魔獣幹部を全滅させた。


「閣下、本に切れ目が入ってしまっています」


ミギウデはポツリと言う。


「ああああああああああいえええええ!!!!!徐々の新刊があ!われがわざわざ人間に化けてまで働いて稼いだ500ルアがああああああ!!!!」


魔王様は嘆き悲しみ、その場に崩れさった。というか崩れた。


(※ルアとはジピルア通貨のことで読者の皆様の御国の通貨とレートはほぼ同一です)


「今なんとおっしゃいましたか?閣下」


ミギウデはその本を拾い上げて言った。


「待てッ!!ミギウデよ!その破滅的伝説の書物を読んでしまったら貴様によからぬことが毎週水曜日にいいいいイイイーー!!!」


魔王様は崩れ去った自らの身体を再生しながら絶叫した。


ミギウデはその本の表紙を見る。


が、ですか?そおですか、キャッチコピーはですか、そおですか。へえ……そうですか、ですか、人間に化けてまで買ったんですか。で?その本に?劔絶望ディスペライツィオーネの切っ尖をですか?へえ……」


ゴゴゴゴゴゴゴ……


ミギウデは激怒して静かにその本を消滅させた。


「閣下は無能ですか馬鹿ですか無知なだけですかむしろ無知であるという言い訳をしようとしてる無能ですか馬鹿ですか?」


「ひ、酷すぎる質問だね。ライトハンドオーマ、とととりあえず落ち着こう、ね?」


「そうですか、クズですか」


出るはずもない汗で魔王様は身体中びっしょりである。そしてその汗?は城に大洪水を巻き起こした。


「むむむむう、答えてすらないのにぃ。だってえ、久しぶりに新刊でたから。ついついね、つい。」


その後の2人の展開は読者の想像通りである。


「割と魔界装具は地味に使うんですかああああああああああ!!!!!?!!?」


ライトハンドオーマ。つまりミギウデの絶大な嘆きはその日、魔王城に突然巻き起こった大洪水に終止符を打った。


魔王様がライトハンドオーマさまに土下座している。


「我は明日から心洗います!いや、魔王が心綺麗にしちゃダメか!まあ汚します、はい。全力で汚します。明日から綺麗な神様が泥まみれなるくらい汚します!!だからミギウデ!許して!お願い!お願ーい!!」


「魔王様がそこまで言うならしかたありませんね」


ーニヤリ


魔王はやはりポジティブにいく。


へーん!謝っとけばこっちのもんだもんねー!!


そうして魔王様はその日の夜、漫画を読み耽りました。何故、魔王様は漫画を読んでいる瞬間がとても楽しそうな表情なのでしょうか、魔王様というのは村を焼き滅ぼして王国をひねり潰し、泣き叫ぶ人間どもを見て楽しそうな表情をするものであるべきではないでしょうか。読者の皆様なら同意してくれるはずです。


そして時は戻って今現在。まあ、そんなこんなで今日は魔王様を魔王城から監視している訳なのですが魔王様、草原の真ん中で鼻くそほじくっている場合ではありません。というかあなた様に鼻くそはありません。


劔絶望ディスペライツィオーネがあればね、いいんだけどね」


そういって魔王様はまたほじくっております。しかし何かを始めようとする予兆があります。


もし魔王様が本腰を入れて世界を征服をすると決めたのであらばこのライトハンドオーマ!魔王様の右腕として!どこまでもついていく所存です!!


「はあ、久々に私の心に忠誠心を感じたわ」


ミギウデはやけつく溜息をついた。


そしてミギウデはさやに眠る劔絶望ディスペライツィオーネを手に魔王様のもとへ向かった。


「お、おう!久しぶり!こんなところで偶然だね!元気だった!?」


魔王さまは突然の登場に少し戸惑っているようだ。


「閣下、私は久々に会う同郷のつい名前を忘れてしまった友人ではありません」


「そ、そうか。なんかその表現難しいね、うん。ていうか、なんでこの場所にわれがいるのわかったの?」


魔王が恐る恐る聞いた。


「千里眼で見てました」


「フーン、…………」


魔王は一度背を向けて振り返りざまに何かの奇妙な冒険漫画の決めポーズで決め台詞を吐く。


「ミギウデ!貴様!見ていたな!!」

バアアアーーン!!!

どこからか効果音。


ミギウデはやけつく溜息を吐き散らす。


「はあー、私は[なんとかパープル]でも[パープルなんとか]でもありません。はいこれ、忘れておりますよ、閣下」

ミギウデのまわりの生き物たちは全て息絶えた。


実はの続き読んでたでしょミギウデ」


そのままのポーズで魔王は聞く。


「さあ、なんのことでしょう閣下」


ミギウデは鞘に眠る劔絶望ディスペライツィオーネを手渡して微笑んだ。


「いやあ、なんだか最近忘れっぽいんだよねー!ありがとミギウデー!」


「閣下、私は会社の使えない上司がデスクに資料の忘れものをした時に微笑んで上司に渡しに行った後、上司の悪口を言いまくる陰険な部下ではありません」


「えっ?なんかよくわからない単語がいっぱい出たよ今、カイシャ?ジョウシ?デスク?シリョウ?ブカ?新しい呪いか何かかなミギウデ」


ミギウデの表情はまさに暗黒で満ち満ちている。


「今のは流石さすがに忘れて下さい。過去の私怨です」


魔王様は劔絶望ディスペライツィオーネを手に震えている。


「え、なんか今の怖いねミギウデ…」


魔王はその手に握りしめた禍々しく光る劔絶望ディスペライツィオーネを草原の空に振りかざした。


轟音とともにあたりに闇雲が立ち込める。


「よし、いい感じだミギウデ」


ミギウデが興奮して金色の目を輝かせている。


「閣下!王国を1つ滅ぼすのですね!!世にはばかった人間共の絶望が今!閣下のその手で始まるのですね!!!」


魔王様は劔を振り下ろした。


劔絶望は切り裂いた!地上を切り裂いた!!あたりに凄まじい粉塵がまう!その斬撃はサカエテル王国へーー?飛んでいかなかった?!!その斬撃はただ、地上に城1つは入る程の深い斬撃の跡を残した。


闇雲は去り、あたりには静かな草原が残る。


「閣下!?一体何故!?一体どうしたのですか!?」

ミギウデは目の前の状況に困惑する。


頭を掻きながら魔王は答える。

「まあ、ちょっとその前にトイレ?かな」


「ちょ!待って下さい!魔王様!!魔王様ああああアアアアアアアア!!!!」


魔王はその紅いマントを翻して姿を消した。


実はミギウデの目を逃れて大切に草原地下深くに隠してあったニンソンドーTSソフト「マジクソクエストⅤ ーエビ天食うの?花嫁ー」の隠し場所が思い出せなくなって呆然としていたところにミギウデと劔絶望ディスペライツィオーネの登場で咄嗟とっさの思いつきと判断で切り抜けた今日の魔王だったとは口が裂けても言えない。


というか既に裂けているのだが。


魔王城にて、安息の間。


「キュルキュルキュルウウウン!!」


幼体ドラゴンは魔王様の神々しい頬に頬ずりをして鳴き声を上げる。


「いつの日かお前もお父さん達のような立派なドラゴンにわれが育て上げてやるからなー!」


「キュルキュルウウーン!!」


幼体ドラゴンのか弱い鳴き声がする。


魔王様の左手には競龍けいりゅうのチラシが握られている。


「よおーっし!!今日一日我はマジクエⅤを全クリするぞおーー!!!」


魔王様は天井を仰いで叫んだ。


その後、魔王様の頭に全てを理解したライトハンドオーマの鉄槌が下されたことと、サカエテル王国の勇者が今日も特訓を重ねて強くなっていたのはまた別のお話。














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