第15話 聖夜の空の陽蜜と燐火③


「お前たちの配る贈り物は真に欲する子供たちの下へ届けられているのか? お前たちは本当に地上の子どもたちに愛を届けられているのか? であればどうして地上に争いは絶えぬのだ? 我らがいくら愛をおくっても子供らは我欲を満たすことばかり考える、醜い大人になり果てる……」


 黒いマントを羽織ったおっさんが何らかの信念ってやつをもって親方の仕事の妨害をしているらしいことはわかったけど、ぶっちゃけ見た目に反してやることがみみっちくないだろうか。偉そうなことをいってやってるのは子供らにプレゼントが配られないように邪魔してるだけだし。

 鬼みたいな恰好をしてるんだから、昔話に出てくる人食い鬼ぐらいドーンと景気のいいことをしてもらいたいもんだ。子供さらって食らうとか。



「子供が欲深になったのは、貴様らのその服が赤に染まったころからだ。貴様らは人間どもの商業主義と結託し、人間どもの欲望に火を点けた……。貴様らの罪は大きい」


 おっさんの演説を聞きながら、あたしはイライラする。早く攻撃するそぶりでも見せてくれれば動けるっつうのにつまらん御託を並べたてやがって。


「曲がるぞ!」


 馭者台の白狼がさけんだのにあわせて、ユールさんがあたしの足をつかんでくれる。その瞬間橇がぎゅんっと横に滑った。大きくカーブした道なりをかなり荒っぽく曲がったせいだ。ユールさんたちに足をつかんでもらっても、あたしは大きく揺れた。


 橇が横滑りしたせいで、あたしらの橇がクランプスどもの乗っていた橇にぎゅんと近づく。それこそ橇と橇がぶつかるギリギリまで。手を伸ばせば届きそうなくらいまで近寄ったおっさんの顔色が、その瞬間一瞬で切り替わる。憤怒ってやつだ。


 二本角のおっさんは、どこからか三本又の槍を取り出して橇の上でぶんっと振り回した。そこから青白い稲光が放たれた。なんとか体勢を立て直したあたしも長筒の引き金を弾いたけど、稲光に焼き尽くされる。


 幸い稲光は、橇の防御魔法で生み出されたシャボンみたいな膜の表面を撫でるだけだったけど、せっかく白狼がさっき呪い歌を歌ってためた魔力がこの一発で無駄になる。

 白狼はまた悪霊避けの呪い歌を歌う。歌が終わらなきゃ防御魔法に必要な魔力がたまらない。

 

 だけど、あの角の生えたおっさんは目を真っ赤にして三本又の槍を振り回す。わけのわからん御託を並べ立てていた時にあった余裕みたいなものがすっかり失せていた。


 まあなんでもいい、やる気があるならこっちも遠慮はいらない。あたしはおっさんが可愛い子鹿になるところを思い浮かべながら狙いをつけた、が。


「っ⁉」

 またぎゅんっと橇が横に滑った。今度はさっき曲がったのとは反対の方、向こうの橇から遠ざかる方向に、だ。呪い歌を歌いながら、白狼がまたとんでもない速さでぐねった道を曲がったせいだ。

 

 おかげで弾が数発、どことも知れない夜の空へ消えてゆく。二本角のおっさんの稲光も大きく外れてあたしらに直撃しなかったのと、おっさんの馭者は白狼ほど腕がなくて角をうまく曲がり切れなかったせいで距離を稼げたのは幸いだけど。

 とはいえ、あたしは御者台の白狼にむけてがなる。


「バカ、運転が荒いんだよ!」

「ここはそういう道だ、我慢しろ!」

 

 歌い終わった白狼は叫んだ。確かにルドルフさんの鼻が照らす道を見ると、まあ~のたくったヘビみたいにぐねぐねしてるわ、上がったと思うとぐんっと下へ下がるわ、とんでもない道だった。つうかこれ道って呼んでいいのか?

 悪路に振り回されながらプレゼントを撒く、ユールさんも大変そうだ。


「……くっそ~、あの野郎まだついてきやがるな。しつっけえ……」

 目を三角にしたトナカイたちが追いかけてくるのを見て白狼は呟く。


「……しゃあねえ、今度のカーブでまた『振り子』くらわしてやるか」

『おいひよっこ、それだと去年の二の舞になっちまうぜ。向こうもきっと対策たててら。あまりいい案とは思えねえな』

「だったらどうすんすか、ルっさん」


 白狼とルドルフさんのやりとりを、あたしは聞きとがめた。去年の二の舞……。


 『振り子』っていうのは、橇曳きの連中がレースの時なんかに使う業だ。わざと荒っぽくカーブをきって橇を滑らせて、隣を走る橇にぶつからせて邪魔をするっていう半ばケンカみたいな技だ。さっき二回、白狼が横滑りさせたのもそれにあたる。

 派手だけど、どっちの橇も激しく傷つくし、乗り手にとっても危ない。ていうか乗り手同士の仲が険悪になるので、公式のレースならやった時点で即失格になる荒業だ。


 そう、『振り子』は食らったもの食らわせたもの同士にしつっこく禍根を残すのだ。それがきっかけで村と村との間が数代にわたって仲たがいするくらい。


「おい、白狼」

 あたしは声音を押えて尋ねる。


「あんたひょっとして、去年もあのおっさんに『振り子』くらわしたんじゃないのか?」


 白狼はしばらく黙った。当たってるってことだろう。


「……俺だって迷ったんだよ! だけど、あのおっさんどもがわけわかんねえこと言いながら長筒バンバン撃ってきやがるし、追っ払うにはあれしかなかったんだよ」


 悔しそうに白狼はがなる。白狼は、レース中にこけて投げ出された橇の曳き手をわざわざ助けにいくようなやつだから、本当は『振り子』なんて使いたくなかったはずなのだ。自分の信念捻じ曲げて食らわせたのだろう。


「なんだよ、軽蔑すんのか。陽蜜!」

「するわけないだろ! バカだね。お陰であのおっさんがなんでこっちを目の敵にするのかわかったよ」


 

 サンタなんとかって親方は世界中に何人もいる。

 白狼の親方だって他にも何人も橇曳きを監督している。

 だというのに、あのクランプスっていう二本角のおっさんは白狼ばっかりにこだわっている。自分が言ったように地上のこどもがどうたらこうたらというのが一番の目的なら、ほかの橇曳き襲えばいいのにそうしない。


 そうしないのは、去年の白狼に『振り子』を食らわせたのを根に持ってるからだ。だからムカついて腹立って、妨害しまくってるわけだ、昨日から。


 ストーンとすべてのことが腑に落ちた瞬間、あたしはむしゃくしゃしてきた。なんつうしょうもないオヤジだ! 

 

 そのしょうもないおっさんはこっちに向かって追い上げてきている。白狼はそれを見てさっき言ってたカーブの方へ舵をきる。トナカイさんのうち一頭が声をあげた。ベテランのトナカイさんでもこのコースはきついのだろう。


 目を真っ赤にした二本角のおっさんは、三本又の槍をかざして稲光をためている。白狼が『振り子』の準備に入る前にあたしは叫ぶ。


「『振り子』にすんな! 橇をあっちに近づけるだけでいい! あたしがあのおっさん押えてやる」


 橇の荷台に長筒を置き、あたしは準備を始める。荷台のへりをつかみ、いつでも飛び出せるようにする。白狼はあたしの狙いを読んだらしい。こっちを見ながら不安そうな顔になる。それをみてあたしは笑う。心配するなって意味を込めて笑う。


「……頼むぞ!」

 それを見て白狼も決心してくれたらしい。カーブに合わせてギュンっと橇を滑らせた。弧を描く橇がおっさんの乗っている橇に目いっぱい近づいた時、あたしは荷台を蹴って前に飛び出す。


 

 ……いやあ、あの真っ赤な男ものの制服着せられて正解だった。

 ズボンを穿いていたおかげであたしはきれいに宙に飛び出せた。そのまま、稲光の魔法をためているおっさんに真正面から蹴りを食らわせられたから。



 横滑りする橇の速度が十分乗っかっていたので、さしもの巨体のおっさんも無事ではいられなかったらしい。橇の上にどたんとひっくり返る。その衝撃で橇が大きく揺れたけど、何ほどのもんでもない。


 倒れた二本角のおっさんが拾おうとした槍を、あたしは拾い上げてその先を突き付ける。


「試合終了だよ、おっさん。地上のガキの心配するなら橇曳レースなんかにこだわるまえに他にやることあるんじゃないか? な?」


 な? に合わせて、あたしは槍の先に火をともした。魔法で火を灯すのは久しぶりだ。あたしの魔力でともる火は青白くてどこか陰気臭いんだけど。


 二本角のおっさんが、火を見て慌てる。橇は木製だ。クランプスって連中はみるからにごろつきだったけど、荷台には酒瓶が転がっている。そこに向けてあたしは槍を突き付ける。


「……そんなことをしては、貴様もただではすまんぞ?」

「だろうね。でもこうでもしなきゃああんた来年もうちの人の邪魔しそうだからさ、きっちりお灸ってのを据えないとって思ってさ」


 背後にいた曳き手がそろそろと落ちていた長筒に手を伸ばそうとしていたのが見えたので、あたしは槍を持っているのと反対の手を振った。曳き手の爪の先に青白い火がともる。自分の手に火が着いて、泡を食らってぎゃあぎゃあ喚いて手を振るが、その火はなかなか消えない。あたしの着けた火だからだ。

 

 

 

 あたしの着けた火は、あたしの言いなりに着いたり消えたりしてくれる。

 自分が火を点けたり消せたりできるって気が付いたのは、12の時だ。

 

 あたしは銀鹿に名前を付けて間もなく、でもあたしには名前が無かったころ。


 波華さんのいる山の上へいつものように遊びに行き、いつものように波華さんの仕事ぶりを見ていた。あたしは長筒に興味があったので、目を盗んで触ろうとしては叱られるのを繰り返す。


 小用で波華さんが岩の上から離れた時に(もちろんしっかり長筒は持ってゆく)、あたし達はひそひそ話した。


「あんたなんであの長い鉄砲が好きなの?」

 銀鹿は弓の方が得意だったので、長筒には興味がないようだった。

「好きなの? ……って、だって格好いいじゃないか。あたしも大きくなったら撃ってみたいんだ、あれ」


 岩の下の斜面では、またヤクザものが姿を現して罠を仕掛けようとしている。波華さんが帰ってきたらその様子を逐一伝えないといけないので、あたし達はそれをじいっと見ていた。


 あたしは長筒を撃つときの波華さんになりきって岩の上に伏せて、見えない長筒の先を、あたし達に見られているとは気づいてないヤクザ者たちに向けて引鉄を引く。だーん、と口で弾が打ち出されるときの音を真似てみる。それを見て銀鹿はククっと笑った。

 

 楽しくなってきたのであたしはもう一度、だーん、と同じ個所を狙って撃った。ふざけただけだった。

 なのに、だ。


「……なんだ?」

 ヤクザ者たちが急にあたふたと慌てふためきだす。連中が囲んだ罠がめらめらと燃え上がってるのだ。奴らは慌てて雪を被せて消そうとする。


 とっさには何が起こったのか分からない。なんで罠が急に燃え出したのか。タバコの火でも落としたのかとあたしは思ったが、銀鹿は違った。しばらくあたしと下の連中を見比べた後、ヤクザものの頭っぽい男にむけて指をさす。


「ねえ、アイツの被ってるマヌケな帽子にむけてさ、さっきみたいに、だーん、ってやってごらんよ」

「……ええ~?」


 からかわれてるのかと思ったけど、銀鹿は何かを期待するように目をキラキラさせていた。こんな顔を間近でされては心がむずむずしてたまらないので、あたしは言われたとおり、狙いをつけてだーん、とやってみた。


 あれ、何か指の先っぽが熱くなったな、という気配はあった。そのすぐ後に、頭がかぶっていた帽子がボッと青白い炎をあげて燃え出したのだ。自分の頭から火をふいていることに気が付いたヤクザ者たちがばたばた慌てふためくのを見て銀鹿は笑い声がもれないように口に手を蓋にして笑い、あたしは自分の手のひらをしげしげ見つめる。あれはひょっとして自分がやったのか?


 もう一度試しに、今度は頭の上着を狙って、だーん、とやった。やっぱり指の先が熱くなり、そしてヤクザの頭の来ていた分厚い上着が燃え上がる。火だるまになっては叶わないとあわてて上着を脱ぎ捨てる連中をみて銀鹿は我慢でき無さそうに身をよじって笑った、ひとしきり笑い終わってからあたしの手をぎゅっと掴んだ。


「あんたすごいよ! ああやってパッて火がつけられる魔法がつかえるんだ! すごいすごい!」

「……どう、なのかな? あれ本当にあたしがやったのかな……?」


 自分のしでかしたことがあたしにはとてもじゃないが信じられない。尖り耳は確かに丸耳の人間より魔法の力は大量にあるけれど、離れた所に火を着ける魔法なんて派手な魔法を自分が使えるようになるとは思ってもみなかった。



「そうだよ、あんたがやったんだって!」

 信じられなかったけど銀鹿が喜んでくれたから段々嬉しくなってきた。あたしにはそんな魔法の力があったんだ。

 銀鹿は金色の目をいっそうキラキラさせる。


「ねえ、あんたの名前、燐火ってのはどう? なんもないところに急に火が着くことをそういうんだって前に軍曹姉さんに聞いたことがある。あんたもちょっと火花みたいに急に怒ったり泣いたりするところあって火みたいだからさ、ぴったりだよ」

「……燐火?」

「そう、燐火だよ燐火。……わあっ、あたし初めて人に名前つけたんだ。……へへ、なんか恥ずかしいね。名前をつけるってこんな気持ちになるんだね」


 銀鹿は照れくさそうに笑った。あたしも初めて名前をもらった。

 燐火か、そうか、あたしは燐火って名前になったんだ。今日この瞬間から。




「でもさ、後から聞いたら‶燐火″ってのは墓場で見られる火だとか、鬼火だとか狐火だとか、なんか陰気臭いんだよね。銀鹿はもっと景気のいい意味の火だって思ってたみたいだけどさ。だからあたしもパッと散ってパッと消える景気のいい火だって思うことにしてたんだ」

「……そんな昔話を我に聞かせてどうするつもりなのだ?」

「別に、話す相手がいなかっただけだよ」


 クランプスのおっさんと並んで橇に乗りながら、あたしは夜空を走らせる。

 

 火の着いた槍を持っているあたしにおっさんたちは言いなりになる。空の上の道にそってうんと高度をあげさせやる。ここまで高いとこの世界は一個の球なんだってよくわかる。

 

 足元を白狼たちの橇がしゃんしゃんと鈴の音も軽やかに、ゆっくり穏やかに移動していた。クランプスのおっさんたちを遠ざけたおかげで、平坦でまっすぐな道をゆっくり走らせることができてるみたいだ。ユールさんが撒くプレゼントが流れ星みたいにキラキラ光りながら、人工の灯が眩しい町の上へ落ちてゆく。



「かような発火の魔力をもちながら、何故最初から我を狙わなかったのだ? それさえあれば最初の一撃で我らを火だるまにすることも可能であったろう」


 多少冷静さを取り戻したらしいクランプスのおっさんが尋ねた。


「あんたに教えてやる義理はないよ。ったく、あたしの夫をびびらせやがって……しかも去年橇ぶつけられたってしょうもない理由でさ!」

「しょうもなくはない。去年の我はあの男に二度三度と警告を与えてやったにも関わらず橇をぶつけるという暴挙に及んだのだ。礼を失しているのはあやつの方だ」

「はあっ? まだそんなケツの穴の小さいこというのかいっ?」

「ご婦人が‶ケツの穴″など口にするでないぞ」


 あたしが火の着いた槍の先を橇に近づけると、クランプスのおっさんは慌てた様子で取り消す。 


「……まあ確かに、我も大人げないふるまいであったと反省をしておる。いかんせん、この橇は我が友サンタクロースと行動を共にしていたおりからの相棒でな。傷をつけられていささか腹が立ったのだ」

「何? あんた親方と仲良かったんだ」

「今この地区を担当しているサンタとではない。我の相棒はとうに引退をしておる。ここ百年でクリスマスの意味も激変し、悪い子供をこらしめる我の居場所は失われつつあるのだ」

「……ねえ、なんであんた急にあたしに昔話始めてんの? あたしはあんたに夫にいちゃつく時間を邪魔されたっていうのに」

「先に昔話をはじめたのはそっちだろう! 勝手なヤツだな。……まあ、夫婦の語らいを邪魔したのは悪かった。謝罪しよう」


 クランプスのおっさんは急に素直になる。多少は暴れてスッキリしたのか。

 

 きらきら眩しい光の街をあたしは見下ろす、ああこれを白狼と一緒に見たかった。こんないかついおっさんとじゃなくて。 


「それにしてもとんだ無茶をするご婦人だ、異世界のご婦人はみなそうか?」

「そうかな? あたしなんかまだ普通だよ。あたしに燐火って名前をつけてくれたやつはもっとすごかった」

「……その方の名は燐火というのか?」

「いや、違うよ」


 あたしは首をゆっくり振った。



 ヤクザ者に火を着けて笑い転げているあたしらを、波華さんはぶっ叩いてしかった。後にも先にも波華さんがあたしらに手をあげたのはこれっきり。


 あたしの力は危なっかしい。使いようによっては大惨事を招くってんで、魔法の制御法を教えてくれたのも波華さん。おかげで着けたり消したりが自在にできるようになった。



 その反面、この魔法もさして便利ではないことがわかったのだ。だからここぞって時以外は使ってない。


 ……急に寒くなってきた。この高さだとこの変な服にかけられてる保護魔法も効果が出せないのか。


「どうした、ご婦人?」

 がたん、槍を持っていた手を降ろす。その先から火が消えていた。


「顔色が悪いぞ、酔ったか?」

「……そんなわけあるか……大丈夫……」


 ではない。

 あたしの体から魔力が尽きかけていた。


 波華さんに特訓してもらってわかったんだけど、この発火の魔法はとんでもなく燃費が悪いのだ。カンテラレベルの火をしばらく灯し続けだけでフラフラしてまともに立ったり歩いたり出来なくなるし、鍋いっぱいの水をグラグラ煮立たせるのに必要な火を灯し続けるとそれからしばらくそれからしばらくぶっ倒れて眠り込んでしまう。、


 こんなに動けなくなるんじゃまともに遊べないってことで、あたしはあまり火遊びをしなくなった。長筒の使い方を覚えてからはそっちを頼りにしていたし。


 その魔力尽きがあたしの体に訪れた。クランプスのおっさん達の動きを封じるために火を出し続けたのだから、こうなるのも時間の問題だった。



 あたしは足元をみる、白狼達がちょうど真下を走っている所だ。あとどれくらいプレゼントはのこっているのだろう。



 グラグラしながら最後に、クランプスのおっさんに念をおす。



「いいかっ……来年もうちの旦那はここにくるかもしれないから……っ、もうこんなことするんじゃ……」

「わ、わかった。わかったから座れ! 悪いことは言わんから」


 二本の角を生やしたおっさんが橇から立ちあがる。あたしのことを心配してくれてるらしい。なんだよ、さっきまでこっちを撃ってきたくせに。



 おかしくなりながら、あたしは後ろに倒れる。ふわりと体が宙に舞った。


 足元には白狼の橇。


 

 きっとあいつはあたしを受け止めてくれるはずだ。あいつは橇の腕だけは一流なんだから。







 

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