第5話 戦略会議
「規制反対派は、パーフェクト・ボディ社CEOゲーリー・ハフがリーダーを務めるらしい。メンバーには、時価総額1位、ガレージ社でデータ分析の業務において社内トップの成績を誇る、フランク・マイクロヴィッチがいる。彼は、自社初のWebサービスが集める膨大な量のデータから、人の心理、行動パターンを読み解くことに長けている。また、人道支援団体赤十字社において、トップ成績を誇る社員である、コリン・ドーキンスもこの討論に参加する。追跡班による情報だと、この3人までしか判明してない。」
「ガーレージ社の彼はいわゆるデータサイエンティストか? いずれにせよ彼の能力がこの討論でどのように生きるのかの実力が未知数で怖いね」
「同業者からのヒアリングを受けることである程度まで対応しようと考えている」
朝から学校を休んで、機械化規制討論会に向けての作戦会議に付き合わされている。皆の話すペースは速く、ついていくのがやっとだ。
「論題分析に移る。機械化規制において得られるメリットはどういうものがあるか。事前に考えてもらっていたと思うが挙げてくれ」
「まず、システムをハッキングされる可能性があります。脳をAIで代替して、そこからの指令で人体を動かすというメカニズムになっていますが、その通信を外部から干渉される可能性は否めません。これは今現在で多くのパソコンなどがハッキングの対象になっていることからも分かります。これを防げるという点で、規制のメリットなります」
「大まかな筋としてそれでいいだろう。具体的にどれほどの被害になるかなどの数値については技術班に任せるとして。他にないかな」
「人体機械化は相手側の視点に立てば、人体の強力なパワーアップと仮定されているが、機械化において人体が強力になる部分があるとともに、機械化によって従来より弱くなる部分もあるはずだ。相手側の出した機械化の説明文を見ても、脳の計算力が従来の500倍といううたい文句があるが、脳の機能全てを従来通り搭載しているという証明はない。その他、人体が今まで通り動くという、証明の無さが随所に露呈している。討論の時もそこは十分つけるポイントだと思うな」
「分かった。翔平、君からも意見が欲しい。何かないかな?」
「えっ……と僕からは何も……ないです」
「そういう顔してたね。次に、相手側がどういう論理展開をするかの予測に入ろう」
それからも会議は数時間続いた。僕は特に話すこともなく、ただ会議を逃さず聞くだけだけで精一杯だった。世界数%の知能を持つ人々の話し合いを聞くというのは、自分にとっても刺激的な内容だ。しかし、素晴らしい人たちだからこそ自分がミスしたりだとかやらかした時の周りの目というものが怖い。ここは自分みたいな人間が来るような場所ではないと、メンバーの一員になったことを後悔した。辞めるなら早いうちがいいだろう、と僕は野口議員を呼び出し辞退する旨を打ち明けた。
「軽い気持ちで受けてしまって、非常に申し訳ないことをしたなと思っています。僕はこの仕事の責任の重さに耐えられません。今日で辞めさせてください」
「何とも言えないな」
僕の目を睨みつけたまま野口議員はそう言った。
「そんなことをしたら、君の家族は日本国家の手によって存在を消されてしまうけれどいいのかい?」
え? 急に何を言っているんだ?
「いや、急にどうしたんすか」
「今、君の家族は安全確保のため国の特別施設に収容されている。その状態にいる彼らを、人知れず殺して隠蔽することなど、日本政府には簡単にできるということだ」
僕は、何も言わずに、収容所にある用意されている自分の部屋に戻った。
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