第4話 最高のメンバー
「3年6組の林原翔平君。今すぐ職員室に来てください」
僕の名前が呼ばれた。全く思い当たる節がない。重い腰を上げて、職員室まで向かう。
「来たか林原」
僕を呼んだのは担任、そしてその横に学年主任、教頭先生の姿も見えた。
「君の書いた、機械化規制法案に関する小論文が、内閣法務大臣賞を受賞した」
え?
「どういうことですか?あれは大学入試の時の練習のために書いたもののはずですよ」
「ああ、それは賞の応募も兼ねていることを俺が伝え忘れていただけだ」
本当か? 俺が嫌々書かされただけの小論文が賞を受賞するなんてことがありえるか? もとより僕には文章力なんてないし、規制法案がどういうものかをほぼほぼ知らない状態で書いたものだ。目の前の先生の言葉をすんなり信じることができない。
「明日の放課後校内アナウンスでもう一度呼び出す。そしたら、私と官邸まで行こう。賞の授賞式があるからね、行けるか?」
「あ、はい。大丈夫です」
「そういうえば」
学年主任の口が開いた。
「野口聡太議員が君に会って話がしたいと言っていたらしい。もしよければ授賞式の後、1,2時間ほど時間を空けておいてくれという伝言を頼まれた」
「ほお。野口議員といえば次期総裁候補にも名前が挙がっている超若手エリート議員じゃないですか」
「すごいな。よっぽど素晴らしい論文だったんじゃないか。担任としても鼻が高い」
と、教師同士での雑談へと話が脱線したので、僕は職員室を後にした。賞をもらえるということはうれしいことだが、それに値するほどの行動をしたという実感が全くない。本当にただ、テキトーに原稿用紙を埋めただけなんだけどな……。
「林原翔平さん、いるかな?」
賞の授賞式の後、呼び止められた。
「あ、僕です」
「いた! 私国家議員をやっております野口聡太というものです。その、今回君の小論文を読んで折り入って頼みたいことがありまして、今から1,2時間ほど話したいかなと思っているんですがどうかな?」
「はい、喜んで」
「OK ここじゃあれなんで、会議室で話そうか」
野口議員の申し入れに一つ返事で答える。頼み事の内容がどういうことかわからないが、国会議員の先生がすることだから最悪変な内容ではないだろう。それに彼の頼みごとに応えてあげれば、あわよくば何かしら自分の得になるお返しみたいものがあるかもしれない。淡い期待を込めて、彼の話したいという依頼を引き受けた。
「今日からおよそ1か月後、10月26日に機械化規制法案討論会というものが行われる。機械化規制肯定派から4名、機械化規制否定派から4名が招集され、アメリカ合衆国議会議事堂でそのテーマについて討論するというものだ。機械化規制肯定派の4名のうちの1人に君にでてほしい」
え? 正気か? 高校生にそれの舞台に立たせようとしているのか?
「で、できません。僕は人体機械について本当にわずかしか知識がありません。冗談でもそんな討論の一員に加わるなんてことは無理です」
断固として断った。
「君の文章はよくできていた。内閣法務大臣賞もとったすばらしい出来栄えだっだ。君にはその討論会に加わる資格はあると私は強く思っている」
「全く自信ないです。賞をとったのも何かの間違いじゃなんかと思うほどで。テキートーに書いただけの文章何で」
「おい、ソウタ。さっさと本当のことを言っちまえよ。これからチームの一員になろうっていう彼に、嘘を突き通したままでいるつもりか?」
僕と野口議員の話し合いを会議室内の隅の方で聞いていた、金髪、紫色のスーツを着た男が割って会話に入ってきた。年齢はおそらく30から40の間だろう。
「分かった。本当のことを話すよ、デイヴィット。」
野口議員は改めて僕の目をしっかり見た。
「今回の討論会、私はチームのメンバーの1人なんだ。そこの金髪の彼と後ろの青いネクタイをつけている彼もメンバーの1人。皆今回の討論において勝つために、機械化規制の総本部から選抜を受けて任命されたお墨付きの腕利きであることは自負しているだろう」
何の謙遜もなくストレートにそういった。
「ソウタはハーバード大学時の恩師複数名に、彼ほど頭の切れと卓越したディベートのセンスを持ち合わせている人間はいないだろうという推薦を受けてメンバーに加わった」
「デイヴィットは、イギリスの大手銀行HSBCホールディングスの頭取等上司複数名からの推薦を受けてここにいる。また秘密結社イルミナティの一員でもあり、富裕層への説得能力を期待されて、その代表からも推薦を受けた。あと、もう一人クリスはアメリカ陸海空軍元帥から奨励されて選ばれた。科学技術に対する幅広い知識量は上官お墨付きだ。機械化の技術的側面から規制賛成派の勝利にアプローチできるように彼が選ばれた」
あまりにもキラキラした彼らの自己紹介に言葉が出ない。そんな素晴らしい略歴がある彼らがチームにいる中、なぜ僕に声がかかったのだろうか?
「そして、最後の1人に我々は君に来てほしいと思った」
何でだよ。
「今回の機械化規制というのは、全人類の生活に関わる非常に大きなことだ。そこで我々は、規制法案を最良のものにすべく、我々のもっていないものを持つ人間に積極的にアプローチをしようと考えた」
野口議員は一呼吸の間を置いた。そして、
「はっきり言って君の小論文は非常に凡庸なものだった」と告げた。
!? なら、さっきまでの賞賛の言葉は全て嘘だったということか?
「けど私はそういう意見を持つものも仲間に入れ、ともに機械化規制の道に向けて歩みたいと思った。君が規制化賛成なら、仲間になり意見を聞き、最高の規制化法案作成への助けを得たいと思った」
僕の目は自然と、野口議員の力強い目に吸い寄せられた。
「この討論会は、全世界に中継され、その議論を皆が見た翌日に、世界一斉で規制法案は廃案か存続かの投票を行うことによりことのいきさつを決めてもらう。大勢の人が見る舞台であるからこそ、君のような皆に共感と勇気を与える存在が必要だ。もちろんこの大役を成し遂げてくれた際には、それ相応分の給料も渡したい」
「うまくできるか分かりませんがやってみたいです」
「よし、一緒に頑張ろう」
了承する返事をした。正直断るという選択肢はなかった。まず、演説に対して給料が出る、これは、相当な額が出ることが期待される。これで欲しかった、pc、本、AVなどを一括して買うことが出来るだろう。ただ、これは規制賛成派の威信を背負った非常に重大な仕事である。その責任の重さから一瞬拒否することも視野に入れたが、しかし、私は特に確固たる意志もない規制賛成派だ。正直世界が人体機械化の方に転んでも、何ら痛くも痒くもない。討論会での演説はゆるーくこなして、大金を貰える、いわば非常に割のいいバイトなわけだ。
野口議員と連絡先を交換して、今日の話し合いはお開きとなった。
「しかし、彼は信用できるのか? 我々の命ずることに対してちゃんと守ってくれるかどうか。加えて、こちらが開催する勉強会は相当ハードなものを予定しているが、それに耐えれるほどの逸材かどうか、非常に疑問なのだが?」
「もう、手は打ってある。今回はやれることを全てやるつもりだ。手始めに家族、交友関係を人質に取った。どういう事態になろうとも、彼には必ず討論会に一般市民として演説してもらい、市民票を獲得してもらう」
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