第3話 脆弱性に問題がある

 26兆円の投資という騒然たるニュースの報道から翌日、朝刊の一面には、例の活動に対する日本政府の意見陳述が取り上げられていた。朝のニュースは、どのチャンネルもこの話題で持ちきりの状態となっている。この日本政府の動きに多くの人々が関心を持っていることがよくわかる。ニュースによると、日本政府はこの活動に対して、真っ向から反対する姿勢を表明した。

 「まず、安全面において全く保障されていません。人体機械化をすれば、ハッカーにより身の危険が脅かされることを相手側さんは全く考慮に入れていません。これは、今までに行われている家のパソコン内の情報が盗まれるようなハッキングと違い、その人の人生を狂わせ生命を奪う可能性のある非常に深刻な事案なんです。それに対して全く安全性を保てる証明がない状態で、規制を辞めるというのは人の命を軽く見ている極めて問題のある行動です」テレビに政治家、野口聡太議員の発言する様子が映し出される。彼は党内でも非常に影響力のある人物だろう。彼が率先して、機械化反対の意見を言うことは日本政府としてもこの論争に是が非でも負けるわけにはいかないという強い気持ちの表れた結果だろう。相手の動きに後れを取らずに早急に対応した形となっている。また、ニュースによるとアメリカ、ロシア、中国、イギリスなどの各国政府もパーフェクト・ボディ社の活動には否定的な見方を示しており、彼らを非難する論調を強めていることが報道された。

 通学途中、バスに乗っているあいだ、朝のニュースのことを思い返す。この日本政府の動きを見るに、機械化はやはり実現しないのだろうか。要は、日本のトップ、総理大臣が反対しているわけであり、その下に就く大勢の党内の議員も反対なわけだ。くわえて、単純に市民意識としても、機械化した後の身の危険というのは怖い。大きなゆるぎない不安要素の一つだ。漠然と機械化?そんなの無理だろうという意見に揺れて僕はバスを降りた。

 学校につき1時間目が始まった。授業はホームルーム。

「今日は、小論文を書いてもらう。テーマは機械化規制は賛成か反対か。大学入試で書くときのための練習だからしっかりやるように。この時間中に書き上げれなかったものは明日の朝までに書き上げて出すように」

 遂に、学校でもこの話題がのぼるようになった。30年間膠着していたものがゆっくりおどろおどろしく動き出しているような感覚を心の中で感じながら、手にした原稿用紙に一枚一枚文字を埋めていった。

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