第163話 虚言癖
僕は病院の解放病棟に入った。
解放病棟は精神状態が良い患者が多く、生田病院に入院していた頃に比べ、静かに療養出来る環境だった。
しかし虚言癖がある患者が多くて驚いた。
浜崎あゆみの実兄だと名乗る患者がいてそれを最初信じてしまった。
兄にメールで伝えると日の出屋社内で噂が流れた。幹部がテレビで浜崎あゆみを見て、「彼女も辛い思いをしているのですね」と言ったらしい。
嘘はすぐバレる。
僕の問いかけに行き詰まると険悪な関係になった。この男自身がミュージシャンで女優との結婚歴もあると言う。この女優調べてみると結婚歴は無い。
精神病患者相手にムキになっても仕方無い。僕は相手にしなくなったが、男は最後まで浜崎あゆみの実兄だと嘘をつき通した。
ゼロと名乗る若い男も虚言癖が強かった。
ゼロは自分をアーチストだと言った。絵を描いたり詩を作成したりしていた。ゼロは手先が器用でネイルアートを女の子にしてあげていた。
芸能界に人脈があるというゼロの話を女の子達は鵜呑みにしていた。
ある日、このゼロにスーパーで刺身と生卵を買い海鮮丼にして食べさせていた。それを看護師に見つかり、みんなの前で怒鳴り散らされた。僕は逆ギレして閉鎖病棟行き覚悟で反論した。
僕は入院して日が浅く病院のルールも良くわからない。攻撃的に捲し立てる看護師に納得いかなかったのだ。
食品の持ち込みに制限がある事をこの時初めて知った。看護師と話しあい和解した。
ゼロの言動も怪しかった。歌手のイルカのサインがあると言い、見せてもらったが偽物だろう。
絵が上手く器用で、頭もキレたのでゼロは紙一重なのだと僕は思った。しかし全てゼロの妄想だと気が付いた。
付きあっている彼女はアイドルだと言った。アイドルは恋愛禁止だから名前は言えないと答えた。
話を聞いているとばかばかしくなる。
しかし多少でも才能があるのは事実だ。病院を退院したら僕が会社を立ち上げるのでそこで雇用してあげると約束して、携帯の番号も交換した。
すると何を勘違いしたのかゼロは母親に携帯から連絡して「仕事のオファーが入ったから退院するよ」と言い退院してしまった。
僕は唖然とした。
会社を設立すると言うのはあくまで僕の構想にすぎない。時間もかかるし中止になる可能性もある。
以降ゼロに連絡する事は無かった。
自称プロの将棋士だと名乗る青年もいた。
プロ棋士の中原、元名人と病院内で勝負して勝ったと言う。この勝負はゼロも見ていたと言っていた。
しかしこの青年と将棋の勝負をしたら僕が勝った。
同じフロアに自称将棋二段という男性がいた。試しに僕は男性に煙草をあげるからと青年と勝負させた。三回勝負させたが男性の圧勝だった。
青年も虚言癖なのだろう。プロ棋士になりたいと思い続けそれが妄想になり、現実と重なるのだろう。
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