第102話 自殺願望

 また退屈な入院生活との闘いが始まる。


 閉鎖病棟なので、売店には一日一度しか行けない。煙草は一日二度、決まった場所でしか吸えない。


 この環境だと、普通の健常者だったら気が狂うだろうと思った。


 閉鎖病棟は、病状の重い患者の集まりだ。夜中の看護師の見回りは二人一組で行われている。以前は一人で見回りしていたが、患者に強姦されてそれ以降、二人で見回りする様になったそうだ。


 閉鎖病棟を出るのは簡単じゃ無かった。僕に鬱の症状が出て来たのだ。ベッドから起きられなくなり、死にたいと自殺を考える様になった。どうしようもない無力感に襲われた。


 「死にたいです」


 院長に言うと、薬の量だけがイタズラに増えて行った。周りは全員精神異常者。僕もその中の一人だと考えると、猛烈な絶望感に襲われた。


 薬に食欲増進の効能があるのが入っている為か、食欲だけはあった。三か月経った頃、解放病棟への移動を言い渡された。


 二十人くらい入る、畳の大部屋に移された。僕は入口の隅に陣取った。他に幾つか部屋があったが、どの部屋も定員がオーバーしているのではと思う程人が溢れていた。


 廊下を何往復もして徘徊する者、幻聴が聞こえると、笑いながらブツブツ喋り続ける者。


 僕は話し相手を探したが、どの患者も会話にならず、話していると吐き気がした。


 一人まともに見える患者が、新しく入院してきた。雄二と名乗る、僕と同じくらいの歳だ。 


 でもやはり話してみるとおかしかった。雄二は、消灯後に必ず儀式を行っていた。腕を右、左と空を切り、呪文の様なものを口ずさんでいた。

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