第20話 受験勉強
高校の受験志願書を出す時期になった。
僕は迷わず川崎商業にした。
進路指導の先生に職員室へ呼び出され「今の昇の成績では、川崎商業は無理だ。中学二年まで成績が良かったのに。受験しても四分六で落ちるぞ。よく考えるのだ。ランクを落とせ」
僕が黙って聞いていると、先生が「昇は毎日家の仕事を手伝っているようだが、ちゃんと受験勉強しているのか?」顔を近づけてそう言った。
「受験に失敗したら、川崎商業の定時制に行きます。心配して頂き有難うございます」そう答えると僕は、職員室を後にした。
受験に成功する根拠など無かった。ただ兄がいる川崎商業に入り、一緒にバスケットがやりたかった。
川崎商業は、予想通り人気が高かった。定員三百六十人に対して、応募は五百五十人を超えていた。
僕の中学校からも七人が志願書を出していた。
しかし受験勉強をさせてもらえない僕に勝算は無く、毎日店の手伝いをしていた。皿を洗いながら試験問題の参考書を見るのが、親父に対するささやかな抵抗だった。
さすがに一か月前くらいになったら仕事を休み、受験勉強を集中してやらしてもらえるだろうと思っていた。
兄の時は、受験一か月前には集中して勉強していた。その時は、僕が毎晩兄の夕食を作り、兄が店に仕事で呼ばれないよう全力で支えた。
しかし僕の考えが甘く、期待は裏切られた。兄は本店の勤務がメインだ。
僕は兄のヘルプを期待していたが、親父が必要無いと言って、そのまま本店で仕事をさせた。
受験日が近づいてくると、焦燥感だけが募っていった。
受験日の前日も、支店の洗い場に僕の姿があった。親父とは口も利きたく無かった。結局この日も、店を二十二時まで手伝った。
僕はこの時悟った。明日の受験は失敗するだろう。そうしたら親父の元を離れ、住み込みで働きながら定時制に通おう。
親父のよく口にする「嫌なら出て行け」を実践する事を心に誓った。
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