第22話エルザの消失

「その顔は中々良いものだね。上位者の驚愕は私にとって人生を彩る最高のスパイスだ」


スカルから見て今のエルザはとても不快だ。つい先程まで自分の生徒だった子供が今では敵だ。しかも……場合によっては殺害という形で排除しなければならない


「1つだけ聞く……お前は憑依してるのか?」


「あぁそうか…憑依してるのではなく、この体が生まれた時から入っていたのが私の精神かどうかが気になるか。まぁその気持ちも分からなくは無い…まだ1ヶ月ほどとは言え教師と生徒として過ごした相手が演技してるだけのエネミーとは思いたくないだろう」


エルザはスカルの思惑が全て分かっているかのように話す


「その問いの答えはYESだ。この体は私が特別に作ったものだが、その本質は人間だ。この少女、エルザにはエルザの心がある。この体の特別な機能は3つ…1つ目は私の憑依は絶対に拒めない。2つ目は魔法に関する能力が非常に高い。3つ目は私と同じ魔法なら全て使用可能…あと」


その時、話を遮ってエルミシアの周囲に浮かぶ剣がエルザへと向かっていく


「ここはもう私の支配領域だ。周辺にはすでに私の糸が張り巡らされている…剣程度では切れもしない特別製だ」


エルザへと向かって行った剣は全て見えない糸によって止められる


「理事長!何やってんだよ!あれはエルザの体なんだぞ!」


スカルはエルミシアの行動を咎めるために怒鳴る


「黙れ!冷静になれ…次は無い。自分の身は自分で守れ」


「……ふむ、さすがは8位だ。魔力感知対策はしていたんだが…やはりここまでこじれただけあって簡単には殺せない」


スカルは完全に冷静さを失っていた。普段ならば気がつけるはずの敵の攻撃。喉元に突きつけられていた鋭い糸に気がつけなかった


(くそっ……落ち着け…慌てても敵の思う壺だ。分かっていたはずなのに……)


「どうやら16位も冷静になってしまったようだ。これでは私が負ける可能性も出てくる。この体の回収は済んだことだ。帰らせていただく」


「待て!」


そう叫んだ時にはすでにエルザの姿は消えてきた


◇◇◇


エルザが転移で消えた後、虚無に包まれた廊下でスカルとエルミシアは座り込んでいた


「少しは落ち着いたようだな」


「……あぁ」


そうは言うが内心では非常に苛立っていた


「これからどうする?」


(エルザの救出は絶対にしなきゃならねぇ……かと言って敵の情報がある訳でもなければ、私自身が教師の仕事放って長期間空ける訳にもいかない……頼りたくはねぇが…アイツに…)


スカルの脳裏には本来ならあまり会いたくない人物が浮かんでいた。しかし背に腹は変えられないとエルミシアに進言する


「理事長……邪神崇拝組織アザトースに関する情報は一切無いと言っていいんだよな?」


「あぁ、残念ながらな」


その返答にため息をつきながらスカルは話す


「実は知り合いに魔法序列186位の情報屋がいる。とりあえず情報に関してはそいつに頼んでみる………アザトースへの侵入、エルザの救出に関しては学院側は何も出来ない……本当は嫌なんですけど…ハイベルに頼んでみようかと」


「ハイベル!魔法序列1位と知り合いなのか?」


嫌な思い出だがスカルは魔法序列1位の男と知り合いだった


「まぁ他国の奴なんでそう簡単に動けるような人物では無いですが、実力に関しては私や理事長よりも数段強い。相手が邪神崇拝組織ともなればファースト以外の国にも何らかのアプローチを仕掛けているはず。この問題を無視出来るはずはない」


少しの間を置いてエルミシアが決断を下す


「アザトースの事とエルザの救出に関しては貴様に任せる。私はこの件を人類存亡の危機になる可能性があるとして国に報告し、他国と連携して事件解決に向かうように説得する。まぁ我々に出来ることは少ない…事が動くまでは今まで通り教師生活だな」


「私、とりあえず教室戻ります」


(今まで通り……とは行かないよな)


消えたエルザの姿を思い。スカルはその場を後にした


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る