第21話『旦那』の正体

「侵入を手引きした4人目か……今のところは見当もつかないな」


エルミシアと合流したスカルは侵入者達に『旦那』と呼ばれる4人目の存在がいる事を伝えた


「多分だけど、旦那ってのは元魔法序列7位の【人形達の舞踏ドールダンサー】だ。師匠が調べてたデータと一致する特徴が奴らには多く見られたし、人形遣いの魔法師なら誰かの保護者でも操って侵入してから転移魔法を使わせる事が出来る。セキュリティが突破されてもおかしくない」


「あんの耄碌爺はまだ生きてるのか。私と違い黒魔術の適性など無いのだから不老にはなれんだろうに…奴が行方不明になった時にはすでに80歳手前だった。もう100歳近くになってるだろう」


この世界の平均寿命は80歳前後だ。100歳ともなればかなりの長命だが、それはつまり残された命が少ないということ


「つまり奴が黒幕だとしたらなんらかの方法で延命措置を施していて焦っている?」


スカルは奴が非合法な人体実験に手を染めてまで不老不死を実現しようとしていたという情報を知っていたのでそういう結論を出した


「いや違うな。もし、奴の目的が研究の成就だとしたらわざわざ学院に襲撃などしない。今回の襲撃で得られる物など無かったのだからな…それに今日は文化祭だ。私かお前の研究を盗む目的があったとしても警備の厳しくなる今日である必要はない」


(確かにその通りだな……だとしたら何が目的だ?)


2人が敵の目的について思案していると先程倒した男が突如喋り出す


「聞こえてますかー?」


「あ?しばらくは起きるはずない威力で蹴ったんだけどなぁ」


スカルはガスマスクの男を昏倒させた後、体の中の操り糸を全て切断したので抵抗は出来るはずがないと比較的落ち着いていた


「あぁ、聞こえてるんならいいんだ。この体はただのスピーカーだからさ」


その言葉で2人は理解する


「どうやら例の黒幕らしいな」


「おい!お前の目的はなんだ?答えろ!」


2人とも冷静だが、スカルはどこかイラついてるように見えた


「私の目的……まぁ、機が熟したからさ。そろそろ撤退しようと思ってね。それでせっかく撤退するなら8位と16位の実力を知っておこうと思って。安心して、誰も殺してないから」


2人とも黒幕の言ってる意味が分からない


(撤退……?まるで今までずっと学院に居たような……)


「いやぁにしてもやられたよ。欠陥品とはいえ中々戦闘力の高いやつを連れてきたのに3人ともやられるなんて……それにこの前の憑依の件も痛手だった。今回で16位を始末出来れば良かったんだけど、そう簡単には行かないみたい」


(憑依!……アレの関係者って事は、敵組織の人間…元7位は個人ではなく組織で動いてたのか)


そこでエルミシアが口を開く


「なるほど……貴様らの目的は国家転覆、もしくはそれに近い何か。私に憑依して学院のレベルを落としたのはあくまで過程だな」


「何を根拠に」


エルミシアは確信を持ったような声で語る


「貴様らはファーストの国力を削る為にまずは軍事力を落とそうと思ったはずだ。しかし魔法師たちの視線を掻い潜り軍に潜入する事はまず不可能。故に軍に潜入させる為の人形を作った。その人形がすくすくと成長したら軍に入れるつもりだったが、国籍不明で後ろ盾のない人間など軍に入れるはずもない。だから私に憑依し、学院に入学出来るように手配した」


(なるほど、学院卒業生って後ろ盾が欲しかったと…軍に入るには戦闘科目で優秀な成績を残さなきゃならない。だから万が一にも軍に入れないなんて事にならないように学院のレベルを落としたって事か……でもその考えだとガキ共の中にあいつらの仲間がいるって事になるぞ)


スカルはいち早くエルミシアの言っていることを理解したが生徒を疑う事に多少の罪悪感を感じていた


「私への憑依は解け。さらには再憑依出来ないような闇魔法耐性の結界まで張られた。それだけなら学院にいる奴は無事に卒業して軍に推薦して貰えるかもしれない。しかし、私たちは学院のレベル低下を憂い来年度から学院のシステムを変更する事を決めた。そうなった事で軍の方でも何か変更があったんだろうな。貴様らはそんな情報を手に入れたので作戦変更。8位と16位を殺して少しでもファーストの力を削ごうとした」


黒幕はその話を聞き、笑い始める


「ははははっ!まさかそこまで読まれるなんて!そんなに色々知ってる事はもしかして私の所属する組織も分かってる?」


「あぁ、全ての人類国家を崩壊させ1つの国に作り直す……なんて馬鹿な理想を掲げてる頭のおかしい宗教集団を知ってる。そういう組織を調べてるうちに知ってな、数十年前に消えたとデータにはあったから無関係と思っていたが……どうやら消えたように仕組まれてたらしいな。邪神崇拝組織アザトース」


暫しの静寂の後、背後から女性の声が響く


「正解だ。やっぱり戦闘だけじゃなくて頭も切れる連中は厄介だと再確認させられたよ」


2人は声の持ち主の方へ振り返る


(そもそも警備班だった私が襲撃に真っ先に気がつけなかったのは自分のクラスでメイド服着てサボってたから……メイド服着る原因になったのは……薄々感づいてたが、この声で確信した)


「さっきぶりだね。先生」


「やっぱりお前だったか…エルザ」


そこに立っていた可憐な少女。エルザは口の端を上げて不気味に笑っていた

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