第19話怪人と殺人鬼

男の放つ凄まじい蹴りがスカルの頬を掠る


「邪魔ならしっかり当ててみろ!」


スカルは先程から全ての攻撃を紙一重で回避している


(さすが16位ってところか、身のこなしは完璧。重ね掛けの突破方法は未だに見出せてねぇようだが、このままだと時間の問題かもな。さっさと片付けよう)


「次の俺は次元が違うぜ」


「!?……がぁあっ!」


スカルには男がその場から消えたように見えた。しかし同時に実際は目で捉えられないほどの速度で移動しただけだと理解していた


だが頭で理解していても体は反応出来ない。何も出来ずに腹部を蹴られフェンスに叩きつけられる


「16位様もこれは効いたか?【身体向上フィジカルアップ】の重ね掛けだ」


「半端だな」


(なんだと…?)


男は現在16位を圧倒しているはずなのに、半端だと罵られた事に驚きを隠せない


「さっきから魔力の構成が歪だ。最初は重ね掛けの影響だと思ってたが、そうじゃない。それに3つの魔法の同時行使は技術次第では出来なくもないが……重ね掛けも同時に使用するとなれば、少なくても20個くらいは同時に魔法を使ってるだろ?そんなの人間には不可能だ」


この女は真実に気付いているのか?そんな疑問が男の頭をよぎる


スカルは立ち上がり徐々に近づいてくる


「そういや…昔、魔法序列7位の魔法師が突然行方不明になる事件があったんだよ。そいつは【人形達の舞踏ドールダンサー】って呼ばれてた超一流の操糸魔法の使い手。そいつが消えた理由は不明だが、気味の悪い人体実験してたって……軍のデータにはあったぜ」


「だ……黙れ」


男のそんな願いも虚しくスカルは話を続ける


「7位が消えたのは20年前だ。お前さ、見たところ20歳くらいだろ?それに体から発生してる魔力が随分と気持ち悪い……筋肉の筋が全部操り糸に切り替わってるんだろ。よくよく見れば上手いこと繋ぎ合わされちゃいるが、肉体も所々おかしいな?」


動揺し、無防備になっている男の腕にスカルが触れる


「やめろ!……俺の深淵に触れるな!」


しかしスカルが話をやめることはない


「お前の正体は、元魔法序列7位【人形達の舞踏ドールダンサー】によって造られた人造人間……まぁ魔物の肉とかミックスされた人造怪人ってところか?」


その時、男の中で何かが千切れた


「!?……腕が動かない…」


否、腕だけでは無い。次第に全身が動かなくなっている


「なんで私がこんな事知ってるかっていうと、私の師匠がお前らの創造主をずっと追ってたからだ。師匠としてもなんか因縁があるらしいからな……ちなみに、お前はもう動けないぜ。視認不可能な魔力の刃で体の中の操り糸を切断した。糸の切れた人形は二度と動けないんだよ」


スカルは銃を構え、装填してある弾丸を全て放つ


「し、死にたくない!…こ、こんな」


スカルの放つ【魔力貫通ウィザードペネトレイト】の弾丸が男に重ね掛けされている【硬化ハード】を一層一層剥がしていく


「お前の魔法は強かった。体の使い方も上手かった。私が戦ってきた中じゃかなり強い部類だ……だが、敗北続きの私に負けるようじゃ心が弱かったとしか言いようがない」


「……俺は…自由になりたいだけだったのに…だから、戦っただけなのに……本当は戦いたくなんてなかった……こんな事になるなら生まれてきたくなかった!造られるんじゃなかった!生まれた時から閉じ込められて、出してもらえた時はいっつも人殺し!そんで死ぬときは動けずに一方的に虐殺される!不愉快な人生だ!俺は…」


男の言葉を遮るような発砲音が鳴り響き、男の頭を弾丸が貫く


「可哀想な人生だった事は認めてやる……だが、私と殺し合いしてる時のお前は楽しそうだったぜ。自分が不幸だったから、死にたくないなんて人殺しが生意気な事言うな」


(まぁ……もうすでに今日だけで2人は殺した私が言えた事じゃねぇな。私の方がよっぽど殺人鬼がお似合いだ)


「これはもう呪いだな……何も感じない。まぁ考えても仕方ないな。次に行こう……次も意識誘導と暗示が効く奴だといいな」


そんな事を呟き、体に治癒の魔法を掛けながらスカルはその場を後にした

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