第18話激戦

1人、校舎の屋上で佇む男は呟く


「キゼロの野郎死んじまったか……メゼロはまだ無事みたいだな……旦那から聞いたぜ。やったのはあんただろ?16位」


背後に立つスカルは答える


「私の工房に勝手に入った馬鹿野郎を撃ち殺したって事ならそれは私が原因だな。侵入者」


「随分と刺々しいなぁ、まぁ実際に侵入者だからしゃあねぇか」


そういった途端、男の姿がブレ瞬時に目の前に移動してくる


スカルの腹部に向かって鋭い蹴りが放たれたが、スカルは難なく回避する


「戦い慣れしてやがるな……しかも、対人戦・・・向けらしい」


本来、魔法師は対人戦が得意なものでは無い。魔法師が戦う場合はその相手は試合の人間か、魔物だからだ。人間同士の殺し合いを体験する事はまず無い


つまり対人戦に慣れているこの男は、必然的に魔法師を殺した経験があるという事だ


「楽しくやろうぜ、スカル・デスギア」


◇◇◇


(接近はしない。まずは分析だ)


スカルは太もものホルスターから拳銃を2丁取り出し、両手で構える


「なんか武装多いけどさ、16位が武器とか使うのか?」


その問いにスカルは不敵に笑う


「魔法じゃ出来ねぇ事もあるからな。見せてやる」


その言葉と共にスカルは男に向かって走り出す。そして両手の銃、合わして6発放つ


「あ?当たんねぇぞ」


しかし、スカルの放った弾丸は全てが男の横を通り過ぎて行った


だがスカルは気にすることなく次の行動に移る。銃を上に投げ捨て、男に1本のナイフを投げる


「だから当たらねぇって」


男はつまらなそうな表情のまま、スカルが投げたナイフをキャッチする


「触れたな?」


男は動揺をあらわにする


「動きが鈍く…なってる?」


そしてその直後、背後から先ほど放った6発の弾丸が壁や障害物に跳弾し男に迫る


「最後だ」


ナイフを投げるために空中に投げ捨てた2丁の銃が丁度のタイミングでスカルの手に落ちて収まり、スカルは躊躇なく引き金を引いた


「効かねぇ」


それでもなお、男は不動。背後から命中した6発の弾丸、追加でスカルが撃った2発の弾丸、合わせて8発が全て命中したが硬いもの同士がぶつかり合った様な音を立てて弾かれてしまった


「その技術には素直に驚いたが……16位ってのは魔法序列だろ?曲芸師ランキングじゃねぇよな?」


(……撃った弾は全て【魔力貫通ウィザードペネトレイト】を付与した特別製だ。こいつは素で体が鋼並みに硬いのか?それとも、なんか【魔力貫通ウィザードペネトレイト】を無効化する方法でもあんのか?……分からねぇ)


「お前が放出系なら私相手じゃ勝ち目は無かった……ただの内包系でもさっきの弾丸で終わってた……それでもまだ戦わなきゃなんねぇなら、殴り合いしかねぇな」


手の内の分からない敵に対して近接戦闘を挑むのは基本的には愚策だ。特に今回に関しては敵が魔法に関係なく体を硬質化出来る能力、もしくは【魔力貫通ウィザードペネトレイト】のようなあらかじめ付与された魔法を視認せずに無効化する術のどちらかを持つ敵だけに、前者ならばまともな近接攻撃はダメージが通らないので関節技を決めるしかなく、後者ならこちらの魔法が無効化され防戦一方になる可能性がある


しかしスカルはここで近接を選んだ


「さっすが良い判断だ!あんたならそうすると思ってたぜ!」


スカルはここで時間をかけてはならないと判断した


(こいつは最初にキゼロがやられた、メゼロが無事、この2つを旦那・・から聞いたと言った。こいつらが侵入できた事に関しても不可解な点が多過ぎる。3人のうち私が殺したのがキゼロ、理事長が戦ってる奴がメゼロ、こいつの名前は不明だが少なくとも旦那って呼ばれてる奴じゃない…犯行を手引きした4人目がいる。知ってるのは私だけ、時間はかけられない)


「まずは1発だ!」


敵の動きは早いがヴォルガの高度な訓練を受け、さらには魔法のプロフェッショナルであるスカルにとって大したものではないと冷静に判断し、敵が振るう拳を左腕でガードした


「!?……いってぇ…」


どう見ても様子見の軽めのパンチだったはずなのに、簡単に何mか吹き飛ばされてしまう。左腕にまるで鉄の塊でもぶつかったのではないかと錯覚するような重量と激痛が伝わる


「忠告しておくが……俺の魔法は重ね掛け。見た目通りだと思ってると痛い目見るぜ?」


(重ね掛け………なるほど、同じ効果の魔法を何重にも掛けられるのか。だから【魔力貫通ウィザードペネトレイト】は最後に掛けた魔法にしか効果を発揮しないでその前に掛けた魔法が弾丸を無効化したのか)


「異常な硬さは【硬化ハード】の重ね掛け、異常な重さは【増量ヘヴィ】の重ね掛けか」


その言葉に男は疑問を浮かべる


「なぜそんな初級魔法だと思う?【超硬化ハイハード】とか【超増量ハイヘヴィ】の可能性だってあるだろう」


「私はさっき【魔力貫通ウィザードペネトレイト】の弾丸をお前に8発当てたんだ。たとえ体に魔法陣を刻んでたとしても被弾してから3秒は魔法の効果は得られない。全てを防いだお前は少なくとも8回は魔法を重ね掛けしている…いくら魔力が多い奴だって体に硬化の上位魔法を8回以上掛けた上で拳や足に増量の上位魔法を掛けるのはキツイはずだ。しかも戦闘中にな」


スカルは敵の質問に的確に答えてみせた


「………キゼロが死んだのも頷けるな。今後の邪魔になるからさっさと消すに限る」


男の纏う気配が変わった。明らかな殺意を示している


「お前らみたいなチンピラに負けっかよ。左腕はハンデでくれてやる…かかってこい」

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