第10話不気味な気配

「スカル先生!なんで昨日勝手に帰っちゃったんですか!」


学院に着いて職員室に向かっていたところをケイに捕まりスカルは問いただされていた


「おやめください。ご主人様に苦言を呈する事が出来るのは私とヴォルガ様だけですので、そのような事を仰るのであれば即座に排除も辞さないつもりですよ。この駄犬が」


「私はスカル先生と話してるので横から口を出すのはやめてもらってもいいですか?それとも精霊のメイドというのは主人に首輪もつけられてない無法者なんですか?無法者なんでしょうね。昨日の態度を見れば分かります」


昨日、ゼクスが職員室に居るケイにスカルの帰宅を報告しに行った際に何かあったようだ


(職員室の前で喧嘩するのはやめてくれ……ものすごく目立つだろうが…というかケイ先生は割と温和だと思っていたんだが、罵倒がはげしい…)


「ほう、矮小な人間がよく吠える。貴方の方が首輪が似合うと思いますよ。駄犬で負け犬でしょうからねぇ。おっと申し訳ありません。矮小な人間がよく吠えるというのは訂正しましょう。尊大な犬畜生が元気よく吠える事が出来て偉いですね」


「なるほど丁寧な言葉遣いが出来るとは、精霊なんて意味不明な存在にしてはいい子ですね。内容がゴミ以下である点を除けば100点満点ですよ。あぁ勝手に点数を付けてしまってごめんなさい。まぁ私以外が点数を付けたら0点どころかマイナスでしょうけどね。赤点メイドが」


段々と口汚くなる罵り合いを見て、廊下を歩く生徒や教師はドン引きしている


(そろそろ止めないとな……あんまり目立つのは好きじゃねぇし)


「お、おい2人とも、ちょっと落ち着……」


喧嘩してる2人を止めようとした瞬間、スカルは2人に声を遮られる


「スカル先生はどっちの味方なんですか!」

「ご主人様はどちらの味方なのですか!」


「ひぇっ」


その後ホームルーム開始直前まで舌戦は続いた


◇◇◇


「……………」


朝のホームルームの為に教室に向かっているが依然として後ろの2人は睨み合っている


(勘弁してくれよ……ただでさえ他の教師に目つけられてるってのにケイ先生まで敵に回したら学院で居場所無くなっちまうよ)


職員室から大して距離はないが、無言の圧力に廊下がとても長く感じたスカルは縋るような思いで教室の扉を開ける


「ゼクスさんが居るぞ!」

「やった!今日も学校来てよかった!」

「今日は1日いい日になりそうだ!」

「なんて美しいんだ!マジ女神!」


確かにゼクスは美人だ。透き通るような肌に全てを見通すような金色の目、整った造形の顔、艶めかしくなびく金髪


精霊とは元より美男美女だがゼクスはその中でもかなりの美女だが……


「だぁぁぁあ!うるっせぇ!私がどんな思いで教室の扉開けたと思ってんだアホどもが!」


ゼクスはやはり連れて来るべきではなかったと、スカルの悩みは増える一方だった


◇◇◇


何事も無く……とは行かなくとも遂に放課後。スカルとゼクスは理事長室へと向かっていた


「ゼクス…念の為結界張っておいてくれ」


(もし理事長に洗脳の跡があった場合、術者が何かしてくるかもしれないからな……今の授業カリキュラムがいつから採用されているかによるが………)


「結界の設置、完了致しました」


スカルはゼクスの言葉に頷き、乱暴に扉を開ける


(いつ入っても気味の悪い部屋だな)


そこは事務的な作業をするような部屋では無いように見える。言うなれば中世の魔女の館のような不気味さがある。謎の液体によって満たされた大釜や何かしらの生物の一部が入った小瓶が大量に保管されている棚、そして……


「何の用だ?私は実験で忙しいんだ」


魔女のような黒い帽子をかぶり、黒いローブで全身を覆う15歳くらいの子供にしか見えない理事長。これだけの要素が揃えば気味が悪いと思っても仕方がないだろう


「ゼクス、魔法の痕跡は?」


「この部屋は痕跡が多すぎて選別が難しいですね。少なくとも2000以上の魔法の発動痕が残ってます」


(理事長の実験室なら仕方ないか……こんなふざけた見た目でも魔法序列8位の天才魔法研究家だ……はぁ、場所を変えるか)


「ゼクスは引き続きこの部屋の魔法痕の選別を……理事長、ちょっと落ち着いて話せる場所はないですか?出来れば2人きりで」


「何かあるようだな。よかろう」


理事長はそのまま部屋の中心まで歩き詠唱を開始する


「空間転移可能地点の経緯度測定……目標地点決定……魔力バイパス接続完了……人体分解魔法プログラムを開始……ゲート開門」


普通の詠唱とは思えないような詠唱を終えると、理事長の前に普通のドアと同じようなサイズの薄い黒い膜が出現する


「付いて来い。この先に誰にも話を聞かれない部屋がある」


黒い膜の先に消えた理事長を追いスカルも消える


「行ってらっしゃいませ、ご主人様」


◇◇◇


「さて、用件を聞こうか。もし私の手を煩わすに値しないような内容だったらどうなるか分かっているだろうな?」


その空間はまさに鉄の箱、そう表現するのが最もしっくりくるような場所だった。部屋は床、天井、壁、全てが鈍色の銀で構成されていて中央に簡素な机と椅子があるだけの部屋だ


「………理事長は今の学院の教育方針をどう思ってる?授業カリキュラムも合わせてだ」


「藪から棒に何だ。特に何も思ってないな……多少遠回りな気もするがあくまでここは学院だ。本当に専門的なことは軍人になるなり技術者になるなりしてから学べばいい。問題は無いように思えるが?」


(多少・・遠回り………魔法序列8位【全能探求オールゴール】エルミシア・ティンクルがこの異変に気がついてないってなれば、何かあるのは確実だな)


「この学院は4年制だ。魔法の修行には1人前になるのに最低でも10年は必要だと言われている。それを最新の技術と最高の人員で4年まで短縮したのが魔法学院だと私は師匠から聞かされた」


ヴォルガは昔この学院を卒業している。その時にヴォルガが何も思わなかったとなれば少なくともヴォルガが卒業した後に授業カリキュラムが変更されたとスカルは考えていた


「10年必要なところを4年に縮めたのに半年も魔法の授業をしない期間があったり、魔法陣基礎で魔法陣を使用しなかったり……流石に看過出来ねぇぞ」


全身を黒に包まれた少女は口を開く


「そうか……」


(流石に異変に気がついたか?)


「バレたからには殺すしかないよねぇ」


「!?」


スカルは咄嗟にエルミシアから放たれた【砲弾ブラスト】を避ける


(理事長もグルだったのか?……いや、理事長には魔法師のレベルを下げる理由がない。そして洗脳の跡がないって事は……1番最悪のパターン…)


「誰だお前は……憑依なんて悪趣味な魔法使いやがって」


「へぇ、よく気がついましたねぇ。普通ならこの女の裏切りをまず考えると思うんだけどねぇ」


(……理事長は研究者としては戦闘力はかなり高い方だと思うが…どうすっかな)


「ここは脱出不可能な場所、対魔力鉄アンチマジックメタルで作られた壁は魔法で破壊する事は絶対に無理。そしてこっちにはこの女っていう人質もいる………さぁ、一方的に嬲らせて?【円環の理ウロボロス】」


加虐的な表情を浮かべる少女をスカルは睨む


「もっと警戒するべきだったな……まぁいいや、普段の武器がない分…いい感じで手加減出来るかもしれない……この借りは高く付くぜ理事長」


その眼光は殺意を示していた

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