第9話見えない敵

「あぁ……申し遅れました。私はゼクスと申します。ご主人様と契約している精霊でございます」


(俺が予想してたのと違うな……なんかもうちょっと強そうな奴が出てくるかと……いや、ある意味ではもう既に強そうだな)


カイトは目の前の光景を見てそう思う。魔法陣から現れた精霊……ゼクスは【無尽蔵アンリミテッド】とほぼ同等に戦った序列16位の胸ぐらを掴んだまま淡々と自己紹介を行なったのだ。見方によっては強く見えない事もないだろう


「それでご主人様。この方々は?私は今の状況が掴めておりません」


ゼクスは掴んだままだったスカルを解放し、質問を投げかける


「私の胸ぐら掴む前に状況を掴めよ……アレだ、私この学院で教師することになったんだよ。こいつらは生徒だ」


スカルの発言にゼクスは目を大きく見開き驚愕をあらわにする


「あの万年ニートで社会不適合者で、唯一の取り柄といえば魔法だけだったご主人様が……仕事を……しかも教師……!」


「そう言われても仕方ない生活をしてたのは事実だが……はっきり言われるのは結構辛い」


(そう言われても仕方ない生活をしていたのは事実なのか……)


◇◇◇


「と言うわけで色々あったが、お前らも魔法陣の有用性、そして実践こそが上達の秘訣である事が理解出来たと思う。授業のカリキュラムについては後で私が理事長に言っておく……って事でこの時間は解散!」


実習室からバラバラに出て行く生徒たちを見送りながらスカルは考えていた


(なぜ魔法陣基礎の授業で魔法陣を使わない?いや、そもそもなぜ1年生は半年間も魔法の授業が無い?ここは人類国家に5つしか無い魔法師育成機関だろ。こんな所で学ぶよりも軍で実践した方がよっぽど強くなれるっての…)


「ご主人様、何を難しく考えてらっしゃるので?」


「ゼクス……この学院に洗脳系の魔法の痕跡は無いか?」


ゼクスは少し考えてから目を閉じ、魔法の痕跡を探る


「いえ、少なくともこの学院の敷地にそのような痕跡はありませんね。もし洗脳があったなら……高度な技術による魔法干渉無しでの催眠術、または痕跡を残さない程の実力者による闇魔法でしょうね」


「そうか……」


(……ゼクスが見つけられないなら、前者か…もしくは理事長が馬鹿なのか)


ゼクスは高位の精霊だ。精霊は魔力の探知に優れ、太古の戦争で使われた魔法の痕跡だって見つけることが出来る。あくまで痕跡を隠すつもりの無いものに限るが


とはいえ痕跡を隠すつもりだろうと100〜200年くらい前の魔法なら発見出来るような存在だ。もしも洗脳があるなら催眠術だと考えて間違いないだろう


「とりあえず今日はいいか……まずはゼクスの召喚魔法陣を固定しないとな」


「………大変嬉しいことではあるのですが、ご主人様どうしたんですか?前に常駐魔法陣を組んで欲しいと頼んだ時は結局面倒くさがって設置してくれませんでしたのに」


召喚師サモナーは自身が召喚した生物をこの世に留めておく為に魔法陣と自身の魔力を使用するが上位の召喚が使える召喚師サモナーになれば周囲から魔力を吸い上げ魔法陣が破損しない限り自身が魔力を供給せずとも半永久的に召喚した生物をこの世に留めておく事が出来る特殊な技術が使える


もちろん、かなりの労力が必要になるが


「仕方ないだろ?最近はあんまり師匠が世話してくれねぇから、世話してくれる人が要る。それにもうそろそろお前をこの世に現界させておく魔力が尽きる」


(さっさと固定しないとな……ゼクス並みに強い精霊になると私くらいの魔力じゃ燃費が悪すぎる)


「とりあえず……ゼクス、ちょっと職員室行ってケイ先生って人に私用で帰るって言ってきてくれ。私はここ片付けとくから」


「かしこまりました」


ゼクスの背中を見ながら1人思う


(これから忙しくなるな……召喚魔法陣の固定、授業カリキュラムの変更、あと…意図的・・・に学院の実力を落とそうとする存在の排除……やることは多いけど、教師やるって決めたからには、師匠みたいな人にならねぇとな)


◇◇◇


「やっぱりゼクスは召喚しなくても良かったかもしれねぇ……」


朝食を食べながらスカルは呟いた


ゼクスをこの世に留め続ける魔法陣を描き、起動し機能させるまでにかなり時間がかかってしまい結局徹夜になってしまった


「何言ってるんですか、昨日の授業や私の為の魔法陣の作成をしているご主人様は凛々しく見えました。久々にご主人様が人間の魔法師の中で上位であると認識させられましたよ。ご立派です」


(ぜんぜん褒められてる気がしねぇ、てか褒めてねぇ……やっぱり召喚しなきゃよかったわ)


スカルは過去の自分の行為を後悔しつつ、出張で居なかったというエレミードという教師と魔法陣基礎なんていう面倒ごとを押し付けた理事長を恨むのだった


「時にご主人様、私はこれからどうすればいいのでしょうか?」


(確かに……それは考えてなかったな。家で家事をしてもらうのがいいのか、それとも私と一緒に学校に来てもらうのがいいのか)


「よろしければ私はご主人様に学院について行く事は出来ないでしょうか?」


「どうしてだ?」


「まぁ私はご主人様のメイドですから、常に主人に着いていたいのです」


(まぁ……そういう事ならいいか)


「よし、じゃあ私と一緒に学院に行こう。多分理事長も了承してくれるだろ」


その判断が間違いだったと思うのは数時間後のことである

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る