第七話「言葉の裏腹」

静かな五月の桜の風に吹かれた中で、治樹と恵の結婚式が行われた。

「橋本治樹。貴方は賀川恵の夫として、健やかなる時も、病む時も、どんな時でも生涯共に愛し合い、支え合い、慰め合うことを誓いますか?」

「誓います」

「賀川恵。貴方は橋本治樹の妻として、健やかなる時も、病む時も、どんな時でも生涯共に愛し合い、支え合い、慰め合うことを誓いますか?」

「誓います」

「では、誓いのキスをして下さい」

ドキッドキッ

「キスできるか?」

「え?」

小声で会話した。

「薬飲んだよね?」

「うん」

「じゃあ、できるよ」

「え?…!!」

恵はとっさに治樹と誓いのキスをした。


「おめでとう!」

「幸せになってね!」

「お似合いだよ!」

などなど様々な声に包まれた中、治樹と恵は階段を降りた。

「ありがとな」

「こっちの台詞よ」

フフッ

お互いの目を見つめ合い、恵は嬉しそうにブーケを投げた。

サッと手の中にブーケが入ったのは…美香だった。

「え?」

「美香だ」

「え?美香ちゃん?おめでとう!」

「おめでとう!」


「兄さん、恵さん!おめでとう!」

「治樹さん、恵さん、おめでとうございます!」

「二人ともありがとう」

恵は背中の純白の蝶が刺繍がされてる綺麗なウェンディングドレスを着ていて、水色に白色のアイシャドウとミルキーピンクのリップをしている。

それに対して、治樹は純白のスーツに、青のネクタイを着ている。二人とも衣装がお似合いだ。

(今日から夫婦だ。頑張らなくては!)

密かに同時に、二人はそう思った。

「今日から夫婦としてよろしくね」

「うん、お互い様にな」

二人はお互いの手を重ね、笑い合った。

「ありがとう」

「治樹…」

「なに?」

「ごめんね」

「え?」

「貴方に恋してごめんね」

「いや、そんなことないよ」


「ずるいよ、恵。俺こそ、君に恋してごめん」

「ううん、そんなことないよ」

「二人で幸せになろうね」

「うん」

二人にとって、この日が一番の幸せを感じる時だった。


翌朝

「治樹、おはよう」

「おはよ」

「昨日はそのまま寝たね」

「残念?」

「いや、そんなことないよ」

「私はちょっと残念だったなー」

「え?」

恵の言葉に治樹はちょっと期待した。

「本音だよ」

「うん」

チュッ

治樹は恵にキスをした。

「病気が徐々に軽くなったら、出掛けたりしような」

「う…うん!」

治樹はフリーターとして働いていて、恵は家庭主婦となっている。

治樹は主にパソコンに向かう軽い仕事をしていて、あまり外出しない。

それに対して、恵はあるレストランでアルバイトしながら、治樹と新婚生活を過ごしてきた。

治樹の病気のため、恵はあまり子供の事を口に出さないようにしている。

(しばらく、子供は欲しくないかも…)

治樹の頑張る姿を見てきた恵はそう思っていた。

「恵」

「なに?」

「今度、どこか出掛けたりしない?」

「え?いいの?」

「調子がいい時に海外に行こうと思って」

「いいね。その時はいっぱい写真撮ろうね」

「うん、そうだな」

他の人たちにとって、二人のその夢は小さいかもしれないけど、唯一の大きな夢となる。

この日々は、治樹と恵にとって、大切な日々だ。


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