第五話「気づいた想い」

恵が治樹のいる病院で、ボランティア活動をする日々が終わろうとしていた。

「恵さん。ボランティア活動…、もうそろそろ終わりますよね?」

「はい、そうです」

「残念ですね。もう少し恵さんと一緒にいたかったです」

恵はドキッと強く心が弾んだ。

「治樹さん…すみません」

「謝らなくてもいいですよ。俺のちょっとした願いですから」

「え?」

「恵さんと一緒にいて、楽しかったし、幸せでした。なので…」

恵は治樹の体に自分の体を寄せた。

「恵さん?どうしたんですか?」

「治樹さんの傍にいたいです。ずっと」

「ですが…」

「分かってます。もう…時間がないかもしれないんですよね?」

「ええ…、なので俺とはもう、これ以上、関わらないほうがいいです」

「それでも傍にいたいです。治樹さんの傍に」

恵は少し震えた声で治樹に伝えた。

「…」

「恵さん…」

戸惑う治樹の心の奥から、ある答えを導き出した。

「分かりました」

「え?」

「実は俺も恵さんの傍にずっといたいと思ってます」

パァッと恵の顔が晴れ、嬉しそうに治樹の両手の上に、自分の両手を重ねた。

「ありがとうございます、本当に」

この日から二人にとって、かけがえのない日々が続いた。


ゴホッゴホッと激しい咳が聞こえた。

「治樹!大丈夫?」

「うん」

「いつもごめんな」

「ううん、そんなことないよ!それより、体…、平気なの?」

「うん、なんとか」

治樹は少し苦笑をしながら、恵の質問に答えた。

「そう…、何かあったら言ってね?すごく心配するから」

「分かった」

すると治樹は恵の額に軽くキスをした。

ドキッ

(初めてこんなふうにされたかも…)

「これくらいなら、平気だろ?」

「うっうん」

治樹と恵は卒業を控えた時期に、婚約をした。二人にとってそれが何よりもの幸せだった。

「ねえ、治樹」

「なんだ?」

「私の幸せ…、一番願ってたんでしょ?」

「え?なんで?」

「治樹が書いた日記から感じ取れるの。好きな人の幸せを潰したくないって書いてるんでしょ?」

「ああっ…そうだ」

「私もそうしたい。治樹は何も悪いことしてないよ?だから自分を責めないで」

治樹はポンッポンッと優しく恵の頭を撫でた。

それに気づいた恵はポロポロと涙が溢れだした。そして、治樹は恵を優しく抱きしめた。

「本当に、ごめんな。恵。何もしてやれなくて…」


後日、治樹は恵と付き添いに、ある所へとやってきた。

それは、恵の実家だ。

「恵、元気か?」

「うん、おかげ様で」

「恵!この人が彼氏なの?」

「うん、二年半は付き合ってるよ」

「もう婚約はしてるのね!良かったわ〜」

恵は自分の両親にまだ治樹という彼氏がいることを伝えていなかった。

ボランティア活動で忙しかったたため、両親に教える時間がなかったのだ。


「君…、名前はなんて言うのかね?」

「橋本治樹と申します。娘とお付き合いさせてもらってます」

「二年半も付き合ってると聞いたが、よく続くな。結婚する気はあるか?」

「あります。なので婚約しました」

「そうか。なら安心したよ」

「そうね、これでやっと安心できるわ」

翔人と春美は治樹たちを優しく見つめた。

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