第四話「心の奥から」
まただ。あの痛みはいつまで経っても治らない。
「治樹さん、大丈夫ですか?」
「はい、平気です」
担当をしてもらってる看護婦の香織に様子を聞かれた。
「そうですか。具合が悪かったら、いつでも呼んでくださいね」
微笑む香織の顔を見て、治樹はふと思った。
(ここの所、悪化しているな。そんな俺の世話をしてくれる人たちに対してもう訳ない)
「治樹さん、加藤先生のこと信頼して下さい。必ず完治しますから」
「はい、ありがとうございます」
ゴホッゴホッ
激しい咳がして、血がポタポタと溢れた。
「くそっ…」
「なんでこんな病気にかかるんだよ…」
一人で耐えるのが、治樹にとって辛かった。
ピーッピーッ
夜中、突然ナースコールが鳴った。治樹の病室からだ。
「治樹さん、どうかしましたか?」
「かっ香織さん、加藤先生を…呼んでくれますか?」
高熱で、激しい咳で、肺部が炎症をしてしまい、起き上がろうとしたが…無理だった。
「分かりました!すぐに呼んてきますね!」
十五分後、加藤先生が駆け込み、すぐ治樹に鎮定剤と退熱薬を飲ませて、点滴をしてくれた。
「加藤先生、すみません。ご迷惑をおかけしました」
なんとか収まったなっと加藤と治樹の顔が晴れた。
「いえ、当然のことですから」
「加藤先生、香織さん、これからもどうそよろしくお願いします」
「こちらこそ」
「今のところ、油断はできません。それにしても悪化の速度が早いですね。一刻も早く、手術をしないといけませんよ」
「そうですね。では手術するには…治療も含まれますか?」
「ええっ二度感染しないためにそうしたほうがいいですよ」
「分かりました。家族に知らせておきます」
(やはり来たか。そんな時のために手紙を書いたんだよな)
治樹は病室に戻った後、引き出しの中に置いてある一通の手紙を見た。
「…念のために、家族に書いた。そんな俺の気持ちを分かってくれるはずだ」
(そんな時が来ないと祈ろう。もし来た時の場合は…この日記も渡そう)
少し古めの日記をパラパラとめくった。発作から入院する時期、退院、長期入院と現在まで、治樹の本音や家族、世話になった人たちへの言葉が数え切れないほどの様々な思いが詰まった日記だ。
(これを…恵さんに渡そう。信頼できる人であって、許してくれる人だからな)
「きっと分かってくれるはずだ」
そう思いながら、治樹は窓の外側に映える灰色の空を見つめた。
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